112 / 157
リノで在るならば何でも 2
しおりを挟む昼過ぎにゼルネストとマーギルが訪れることを聞いたウルスナはヘレンに「軽めから慣らしましょう」とワンピースよりも少しフリルは多いが着やすいドレスに身を包んでいた。
リグリアーノは午前中だけ魔術隊に出向いている。
鏡に映った自分の姿にここに来た当初よりは僅かだがマシになったとウルスナがヘレンに言うと「自己肯定感が底辺…先は長い」とぼやかれた。
ウルスナが今居るのはリグリアーノの部屋だ。
ウルスナとしてはどこでも過ごせるので別の部屋で良いのだが「暫く無理。お前はここ」とリグリアーノに言われたので、彼がそれを望むなら頷くだけだ。
ぎこちない動きでドレスを見ていた時、扉のノックが鳴る。
「え…どうなさったのですか!?」と驚いたヘレンの様子に視線を向けると、扉からひょっこりと顔を出した男性。
肩までの煌めく白銀色の髪に毛先はバイオレット色。赤紫色の瞳を優しく細めている。
光沢のある白いブラウスにダークグレーのトラウザーズだけというシンプルな装いであるのだが、それがより麗しい容貌を引き立たせている。
(リノさんを凄く穏やかにしたような感じの人…家族?)
よく見るとリグリアーノより年上であることが分かり、微笑む目尻の皺がより魅力を増している。
「出掛ける準備は終えているよね?ちょっとだけお邪魔して良い?」
「っ、承知致しました」
ヘレンが一礼し「お邪魔するね。ヘレン、少し二人で話をしたい。扉は開けといて。お茶をお願い」と男性は伝え、ゆっくりとウルスナの元に歩いてきた。
ただでさえ着慣れないドレスを身に纏い、更には貴族が挨拶の時にする『カーテシー』すらしたこともないウルスナだが、知らないものは仕方ないと男性に向かって深くお辞儀をする。
確か目上の者には話しかけられるまで話してはいけなかったはずだ。
「ウルスナさん、顔を上げてくれるかい?」
そう言われウルスナは顔を上げた。顔の造形が麗しすぎて驚きばかりだが、父くらいの年代だろうか。ということは。
「私はガブリアルノ。リグリアーノの父親だ」
予想はついていたが、国王が目の前にいるのだと些か驚きながらも小さく頷いた。
「ウルスナ…ウルスナ・ハンバーと申します。…カーテシーというものをしたことがなく、無礼、をお許しください」
「ふふ。ちゃんと話しかけるまで待てたじゃない。十分だよ」
ガブリアルノは柔らかく微笑みながら「今日は国王としてでなくリグリアーノの父として少し君と話をしたくてね」とウルスナをテーブルに誘導してくれたので素直に従った。
ガブリアルノは終始微笑みながら「小さくて可愛いねぇ」とテーブルに肘を付き見てくる。
「十八歳にしては小さいと言われました」
「そうなんだね。今はいっぱい食べているかい?」
「はい、頑張ってます」
「ふはっ、頑張っているんだ」
「胃が小さいのですぐお腹いっぱいになってしまいます。沢山食べれば大きくなると言われました」
ウルスナの拙い会話もガブリアルノはうんうん微笑みながら聞いてくれる。
「リグリアーノが来る前に話したいことがあってね」
そこから聞かされたのはリグリアーノの軌跡のようなもの。
リグリアーノが幼少の頃に目の前で母親が毒殺されてしまったこと。幼く何も出来なかった自分に憤りを感じ、研究に没頭し密に関わる相手を最小限にして被験者を道具として見ることで研究を続けてきた、など。
「リグリアーノが母親のことで泣くのを一度も見たことがない。私が不甲斐ないせいで我慢させて自分を守るために無意識に周りを遮断していった―――可哀想なことをしてしまった」
ウルスナは言葉を挟まず、ガブリアルノから話をひたすら聞いていく。
(心を寄せること、近づくことに抵抗していたって言っていた)
それはその相手を失った時―――――裏切られた時、想いが深ければ深いほど傷が深くなる。
(楽器店の時もその思いと抵抗が交差していたのかもしれない)
そう思いながらも、一つだけガブリアルノに伝えたいことがあったウルスナはそっと手を挙げた。
246
あなたにおすすめの小説
愛しい人、あなたは王女様と幸せになってください
無憂
恋愛
クロエの婚約者は銀の髪の美貌の騎士リュシアン。彼はレティシア王女とは幼馴染で、今は護衛騎士だ。二人は愛し合い、クロエは二人を引き裂くお邪魔虫だと噂されている。王女のそばを離れないリュシアンとは、ここ数年、ろくな会話もない。愛されない日々に疲れたクロエは、婚約を破棄することを決意し、リュシアンに通告したのだが――
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】記憶を失ったらあなたへの恋心も消えました。
ごろごろみかん。
恋愛
婚約者には、何よりも大切にしている義妹がいる、らしい。
ある日、私は階段から転がり落ち、目が覚めた時には全てを忘れていた。
対面した婚約者は、
「お前がどうしても、というからこの婚約を結んだ。そんなことも覚えていないのか」
……とても偉そう。日記を見るに、以前の私は彼を慕っていたらしいけれど。
「階段から転げ落ちた衝撃であなたへの恋心もなくなったみたいです。ですから婚約は解消していただいて構いません。今まで無理を言って申し訳ありませんでした」
今の私はあなたを愛していません。
気弱令嬢(だった)シャーロットの逆襲が始まる。
☆タイトルコロコロ変えてすみません、これで決定、のはず。
☆商業化が決定したため取り下げ予定です(完結まで更新します)
君は妾の子だから、次男がちょうどいい〜long version
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
*こちらは元の小説の途中に、エピソードを追加したものです。
文字数が倍になっています。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
私たちの離婚幸福論
桔梗
恋愛
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる