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貴方の唯一として頑張ります 3
しおりを挟む「目隠ししろ」
帰宅後ヘレンにドレスを脱がしてもらい、部屋着になってホッとしているとリグリアーノが白い布を渡してきた。
「?はい」
ウルスナは頷いて受け取った。「疑い知らず…」と呟くヘレンと「俺だけ限定」と言いながら縛ってくしゃくしゃになった髪を整えてくれるリグリアーノの会話を聞きながらきゅっと強く縛った。
「目も閉じてろ」
頷いて目を閉じるとふわりと抱き上げられ、最近定着しつつある子供抱っこのままリグリアーノが歩き出した。
扉が開閉する音、また扉の開閉の音。
リグリアーノが立ち止まり「布外して目も開けて良いぞ」と言われ、頷いたウルスナは布を解き少し眩しく感じる目の前に見えたもの。
「――――ぇ」
薄茶色の少し古めかしい色合いのアップライトピアノ。
ウルスナが最近まで楽器店で弾かせてもらっていたピアノだ。
それが何故か目の前にある。
瞬きもせず固まるウルスナの頬を優しく撫でたリグリアーノから「これはお前の」と言われ、驚いて鮮やかなマゼンタ色の瞳を見つめる。
「お前ずっと頑張ったから…最近も、小さい時からも、な」
「……」
「駄賃みたいなもん」
「…大金貨、に、二十枚…」
「お、良く知ってるな」
駄賃のレベルなんかではない。
ウルスナが一生働いても手に入らないミュージの村で作られた美しい音色のピアノ。
視界がぶわりと熱くなる。
喉が震えてしまう。
嬉しくて幸せで。
「…ど、やって返して、いけば、いいのでしょう」
「駄賃だって言っているのに?」
「だ、だ、駄賃にはあまりに、多…お、大金貨、…返していくあてが…」
嗚咽でどもってしまうウルスナにくすりと微笑むリグリアーノがいつもの意地悪そうな顔で見てくる。
「返していく気?」
「鈴、と同じくらい、大事で、…どうやって、返していけば、良いのでしょう」
ウルスナの返事にリグリアーノが口を覆いパッと顔を背けてしまう。
「…返したいの?」
「方法、教えてください。何でも、頑張り、ます」
ピアノの前にウルスナを下ろしたリグリアーノが後ろから覆うように抱き締めた。
「俺と一日居る毎に銅貨一枚」
「…銅貨、一、枚…」
「毎日で…返し終わるまでに…二百七十三年、か?」
「っ、…あ、あ、あまりに、や、安っ、も、もう少し単価を、高く―――」
「ぶふっ」
ウルスナとしては必死に交渉しているのだが、上から覆われ体を震わせて笑うリグリアーノに「ずっと俺の傍に居ないと駄目だから、単価はそのまま」と何とも非道なことを言われているのに、嬉しくて仕方ない。
嗚咽するウルスナを愛でるように撫でていたリグリアーノから「何か弾いてみたら?」と言われ、ぶんぶん頷きながら蓋を開けて椅子にちょこんと座った。
ポーン…
たった一音で涙が溢れるのを瞬きで散らしながら、ゆっくり深呼吸し心を落ち着かせ「…リノさんに一番に聴いて欲しくて…聴いてくれますか?」とリグリアーノを見上げる。
「…両手で弾けるの?」
「多分、大丈夫だと思います。治ったら…リノさんに一番に聴いて欲しかったんです」
「…弾いて」
静かなリグリアーノの声にぐいっと頬が引き攣ったウルスナは人差し指が動く右手を眺めながら「小さい頃にいつも母様に強請っていた曲で、…旋律の言霊という題名だと最近知りました」と言いながら鍵盤に向かう。
左手から始まる物語の序章のような静かな単調な一定の音。
右手から紡がれる言霊のような穏やかな旋律の数々。
両手で象られるように徐々に全体を包み増えていく音色と和音。
また単音で囁くように響く音色から聴かせどころに向けて音を徐々に強く、その後敢えて少し弱く。
両手で自由に表現出来ることのなんて素晴らしいことか。
ウルスナは視界が歪み頬に流れるものが止まらず目を閉じながら頭の中で鍵盤を出現させ弾き続ける。
すると耳だけに届く音色が心と脳内に美しい旋律となって組み立てられ、一気に広がるような感覚に全身が歓喜で粟立つ。
聴かせたい音をペダルで伸びやかに、濁さないように調整しながら、音を紡ぎ物語に繋がる。
微睡む優しい音の数々が融合し終盤に向けて旋回するように頭に、音色に構築され、伴奏を弾きながら徐々に音が遠く儚く消え去るようにイメージして弾き終えた。
それでも頭に、心に響いた音色は、ずっと―――ずっと残る。
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