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1章
10 戸惑いと駆け巡る噂 ①
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10日経った昼下がり。
アリシアは重たい体を無理矢理伸ばし、うんざりした気持ちを隠して目の前に広げられた高価な品々を見ていた。
レイヴンは宣言した通りにあれから毎晩アリシアを抱く。
しかもこれまでの2年間はなんだったのかと思う程内容が濃く、アリシアは何度も高みに押し上げられては、気を失うようにして眠りについていた。レイヴンも勿論一度では終わらない。
これまでアリシアは毎日同じ時間に起きて、朝食もしっかり食べていたのに、この10日は午前中に起き上がることさえ億劫だ。
対してレイヴンはこれまでと同じ時間に起きて元気に執務へ向かっているという。
「体にかかる負担が違うのだから、気にしなくていいよ」と言うが、わかっているならもう少し加減をしてくれても良いんじゃないかと苦情を言うと、レイヴンは嬉しそうに笑っていた。
…苦情を言われるのが嬉しいらしい。
「妃殿下、こちらの首飾りなどいかがでしょう。このルビーは希少性が高くて中々手に入りませんよ」
そしてこの商人である。
この10日間、髪飾りやブローチ等の装飾品、扇やパラソル、バッグ等の小物、ドレス、靴などそれぞれが王都で人気の品を扱う商人たちが毎日訪れてくるようになった。
確かに買い物をしたい時は、直接店に出かけるのではなく王宮に商人を呼ぶ。
だけどアリシアは呼んでいない。
突然やってきた商人に驚いてなぜ来たのか尋ねれば、レイヴンからの贈り物なのだという。
「妃殿下は愛されていらっしゃいますね。妃殿下が気に入ったものをいくつでも購入するように、とのことで御座います。支払いは勿論殿下がなさいます」
商人を案内してきた侍従がにこにこ顔でそう言った。
贈り物を自分で選べとはどういうことだ。
贈り物とは贈る側が選んだものをいただくことではないのか。
社交界で流行りに敏感な令嬢は同じものを2度使わない。彼女たちは同じものを何度も使うのは恥だと考えているが、アリシアは気に入ったものを大事に何度でも使いたいと思っている。
だけど王太子妃がそれではレイヴンの恥となるのかもしれない。
もっと新しいものを持て、ということなのか。
そう思ったアリシアは毎日いくつか購入したが、現れる商人が2巡目に入ると選ぶのも苦痛でしかない。
レイヴンは思ったことを何でも言って欲しいと言っていたが、商人を呼ばないように言っても良いだろうか。
思案しているとレイヴンが部屋に入ってきた。
蕩けるような笑顔でアリシアの隣にぴったり座り、アリシアの腰を抱く。
「アリシア、会いたかった」
昼食を一緒に摂ったばかりである。
これもあの日から変わったことだ。
これまでの2年、互いにほとんど干渉することなく暮らしてきた。食事を共に摂ることも滅多になく、顔を合わせるのは夜寝る時だけという日もよくあった。
それなのに今では昼食も夕食も一緒に摂り、執務中の休憩時間にさえ会いに来るようになった。
毎回毎回「会いたかった」と言われて抱き締められ、額に、頬に口づけをされる。
急に態度を変えたレイヴンにアリシアは驚いたが、それは王宮で働く者たちも皆同じである。
王太子夫妻が不仲だと思ったことはないが、愛し合っているとも思っていなかった。これまでは政略結婚で結ばれた通りの夫婦だったのだ。
これが噂にならないはずがない。
レイヴンのいきなりの寵愛ぶりは社交界中に光の速さで知れ渡り、様々な憶測を呼んでいる。
数日前にアリシアが開いたお茶会にレイヴンが現れた時は驚いた。
このお茶会はアリシアが王太子妃になってから定期的に開くようになったものだ。
貴族と交流を深める為のものだが、招く者が重ならないよう、特定の相手と懇意になり過ぎないよう慎重に人選している。アリシアにとって大切な公務の1つだ。
そこにレイヴンが現れた。
確かにその時間帯はレイヴンの執務の休憩時間で、この数日アリシアに会いに来ていた時間だったが、女だけのお茶会に入ってくるとは思ってもいなかった。
王太子の登場に驚いて立ち上がり、挨拶しようとする夫人たちを手で制して、ただ一人立ち上がったアリシアを抱き寄せる。
「会いたかった。今日は一段と綺麗だね」
囁いて頬に口づけると「きゃあ!」という声が複数上がった。
ここ数日社交界で駆け巡った噂の真相を訊きたいと密かに思っていた夫人たちは、その現場を目の当たりにして色めき立っていた。
これでおかしな噂に拍車が掛かる。
アリシアはめまいがしたが、レイヴンは終始嬉しそうに休憩時間が終わるまでお茶会に混ざっていった。
レイヴンが立ち去った後、夫人たちから質問攻めにあったのは言うまでもない
アリシアは重たい体を無理矢理伸ばし、うんざりした気持ちを隠して目の前に広げられた高価な品々を見ていた。
レイヴンは宣言した通りにあれから毎晩アリシアを抱く。
しかもこれまでの2年間はなんだったのかと思う程内容が濃く、アリシアは何度も高みに押し上げられては、気を失うようにして眠りについていた。レイヴンも勿論一度では終わらない。
これまでアリシアは毎日同じ時間に起きて、朝食もしっかり食べていたのに、この10日は午前中に起き上がることさえ億劫だ。
対してレイヴンはこれまでと同じ時間に起きて元気に執務へ向かっているという。
「体にかかる負担が違うのだから、気にしなくていいよ」と言うが、わかっているならもう少し加減をしてくれても良いんじゃないかと苦情を言うと、レイヴンは嬉しそうに笑っていた。
…苦情を言われるのが嬉しいらしい。
「妃殿下、こちらの首飾りなどいかがでしょう。このルビーは希少性が高くて中々手に入りませんよ」
そしてこの商人である。
この10日間、髪飾りやブローチ等の装飾品、扇やパラソル、バッグ等の小物、ドレス、靴などそれぞれが王都で人気の品を扱う商人たちが毎日訪れてくるようになった。
確かに買い物をしたい時は、直接店に出かけるのではなく王宮に商人を呼ぶ。
だけどアリシアは呼んでいない。
突然やってきた商人に驚いてなぜ来たのか尋ねれば、レイヴンからの贈り物なのだという。
「妃殿下は愛されていらっしゃいますね。妃殿下が気に入ったものをいくつでも購入するように、とのことで御座います。支払いは勿論殿下がなさいます」
商人を案内してきた侍従がにこにこ顔でそう言った。
贈り物を自分で選べとはどういうことだ。
贈り物とは贈る側が選んだものをいただくことではないのか。
社交界で流行りに敏感な令嬢は同じものを2度使わない。彼女たちは同じものを何度も使うのは恥だと考えているが、アリシアは気に入ったものを大事に何度でも使いたいと思っている。
だけど王太子妃がそれではレイヴンの恥となるのかもしれない。
もっと新しいものを持て、ということなのか。
そう思ったアリシアは毎日いくつか購入したが、現れる商人が2巡目に入ると選ぶのも苦痛でしかない。
レイヴンは思ったことを何でも言って欲しいと言っていたが、商人を呼ばないように言っても良いだろうか。
思案しているとレイヴンが部屋に入ってきた。
蕩けるような笑顔でアリシアの隣にぴったり座り、アリシアの腰を抱く。
「アリシア、会いたかった」
昼食を一緒に摂ったばかりである。
これもあの日から変わったことだ。
これまでの2年、互いにほとんど干渉することなく暮らしてきた。食事を共に摂ることも滅多になく、顔を合わせるのは夜寝る時だけという日もよくあった。
それなのに今では昼食も夕食も一緒に摂り、執務中の休憩時間にさえ会いに来るようになった。
毎回毎回「会いたかった」と言われて抱き締められ、額に、頬に口づけをされる。
急に態度を変えたレイヴンにアリシアは驚いたが、それは王宮で働く者たちも皆同じである。
王太子夫妻が不仲だと思ったことはないが、愛し合っているとも思っていなかった。これまでは政略結婚で結ばれた通りの夫婦だったのだ。
これが噂にならないはずがない。
レイヴンのいきなりの寵愛ぶりは社交界中に光の速さで知れ渡り、様々な憶測を呼んでいる。
数日前にアリシアが開いたお茶会にレイヴンが現れた時は驚いた。
このお茶会はアリシアが王太子妃になってから定期的に開くようになったものだ。
貴族と交流を深める為のものだが、招く者が重ならないよう、特定の相手と懇意になり過ぎないよう慎重に人選している。アリシアにとって大切な公務の1つだ。
そこにレイヴンが現れた。
確かにその時間帯はレイヴンの執務の休憩時間で、この数日アリシアに会いに来ていた時間だったが、女だけのお茶会に入ってくるとは思ってもいなかった。
王太子の登場に驚いて立ち上がり、挨拶しようとする夫人たちを手で制して、ただ一人立ち上がったアリシアを抱き寄せる。
「会いたかった。今日は一段と綺麗だね」
囁いて頬に口づけると「きゃあ!」という声が複数上がった。
ここ数日社交界で駆け巡った噂の真相を訊きたいと密かに思っていた夫人たちは、その現場を目の当たりにして色めき立っていた。
これでおかしな噂に拍車が掛かる。
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