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1章
22 金色の懐中時計②
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「贈り物を選ぶのがこんなに大変なことだとは思わなかったわ」
商人を帰した後、アリシアはレオナルドと一緒に応接間へ向かっていた。
懐中時計が納められた木箱を落としてしまわないかと、おかしな程気になってしまう。
正しく言えば、この懐中時計を選んだのはレオナルドなのだけど、この際それは気にしないことにする。
「殿下が喜んでくれるといいね」
「お兄様が絶対気に入ると言ったくせに」とアリシアが睨んでも、レオナルドは楽しそうに笑うだけである。
揶揄われているのだ。
「きゃっ…」
ふいに腕を捕まれ、後ろに引き寄せられた。
悲鳴を上げる前に後ろから抱き締められる。
「また兄上に甘えているの?」
「…レイヴン様」
お腹に回された手にぎゅっと力が入る。
「…本当に2人は仲が良いよね」
「私は先に戻りますよ」
レオナルドはレイヴンの表情を見て肩をすくめると、軽く一礼して立ち去ることにする。
アリシアへ視線を向けると、「頑張ってね」と声を出さずに告げた。
「お兄様」
こんな形で置き去りにされると困るのだけど、と助けを求めたけれど、レオナルドはそのまま立ち去ってしまった。
アリシアを抱き締めるレイヴンは、アリシアが大事そうに抱き込んでいる木箱を目に留めた。
「今日は何をもらったの?昨日僕が贈ったものより気に入った…?」
レイヴンは湧き上がる妬心を堪えることができなかった。
いつでもアリシアを喜ばせるのはレオナルドだ。
笑顔を向けられるのも、頼られるのもレオナルドである。
「いえ、これは…」
動揺したアリシアは、嫉妬に燃えるレイヴンの様子に気付かなかった。
木箱を抱きかかえ、必死に言葉を紡ぐ。
「これは、その、私からレイヴン様への…贈り物です。…昨日のお礼です」
びっくりするくらい心臓の音が煩かった。
それでも顔が見えない状態だから言えたのかもしれない。
だけど表情が見えないから反応が分からなくて怖い。
怖い?
なぜ?
「…僕に選んでくれたの?」
レイヴンは後ろから抱き締めていた腕をほどいた。
アリシアがレイヴンへ向き直り、木箱を渡す。
「お兄様に少し…相談に乗っていただきました」
「綺麗な懐中時計だね」
レイヴンは光沢のある金色の懐中時計を木箱から取り出して蓋を開けると、目を見開いた。
文字盤に埋められたエメラルドを見て、嬉しそうに頬を緩める。
「ありがとう、アリシア。とても嬉しいよ」
「気に入って…いただけましたか?」
「うん、すごく嬉しい。大事にするね。みんなに見せて歩きたいなぁ」
「…それは止めてくださいませ」
レイヴンはこれまでアリシアから贈られたものはすべて気に入っていたし、大切に保管している。
だけどそれらの品についていた石は、すべてサファイアだった。
サファイアーーレイヴンの色である。
レイヴンがサファイアのついた品を使うのは、おかしなことではない。
だけどいつか…アリシアの色を贈って欲しいと願っていたのだ。
初々しい恋人同士だね。
レオナルドは呆れたように息を吐いた。
とても13年も共に過ごしたカップルには見えない。
レオナルドは物陰に隠れて2人の様子を窺っていた。
だけど隠れていなくても、2人は気がつかないだろう。
レイヴンは昔、視野の狭さから…その後は幼い矜持から素直な愛情表現ができなくなっていた。
その間にアリシアは、あったのかもしれない初恋の芽を、心の深く深くへと埋めてしまった。
もう一度芽が出てくると良いけどね。
今のアリシアは、恋愛感情に嫌悪感を持っている。
そんなアリシアが自身の恋愛感情を受け入れるには時間が掛かるだろう。
商人を帰した後、アリシアはレオナルドと一緒に応接間へ向かっていた。
懐中時計が納められた木箱を落としてしまわないかと、おかしな程気になってしまう。
正しく言えば、この懐中時計を選んだのはレオナルドなのだけど、この際それは気にしないことにする。
「殿下が喜んでくれるといいね」
「お兄様が絶対気に入ると言ったくせに」とアリシアが睨んでも、レオナルドは楽しそうに笑うだけである。
揶揄われているのだ。
「きゃっ…」
ふいに腕を捕まれ、後ろに引き寄せられた。
悲鳴を上げる前に後ろから抱き締められる。
「また兄上に甘えているの?」
「…レイヴン様」
お腹に回された手にぎゅっと力が入る。
「…本当に2人は仲が良いよね」
「私は先に戻りますよ」
レオナルドはレイヴンの表情を見て肩をすくめると、軽く一礼して立ち去ることにする。
アリシアへ視線を向けると、「頑張ってね」と声を出さずに告げた。
「お兄様」
こんな形で置き去りにされると困るのだけど、と助けを求めたけれど、レオナルドはそのまま立ち去ってしまった。
アリシアを抱き締めるレイヴンは、アリシアが大事そうに抱き込んでいる木箱を目に留めた。
「今日は何をもらったの?昨日僕が贈ったものより気に入った…?」
レイヴンは湧き上がる妬心を堪えることができなかった。
いつでもアリシアを喜ばせるのはレオナルドだ。
笑顔を向けられるのも、頼られるのもレオナルドである。
「いえ、これは…」
動揺したアリシアは、嫉妬に燃えるレイヴンの様子に気付かなかった。
木箱を抱きかかえ、必死に言葉を紡ぐ。
「これは、その、私からレイヴン様への…贈り物です。…昨日のお礼です」
びっくりするくらい心臓の音が煩かった。
それでも顔が見えない状態だから言えたのかもしれない。
だけど表情が見えないから反応が分からなくて怖い。
怖い?
なぜ?
「…僕に選んでくれたの?」
レイヴンは後ろから抱き締めていた腕をほどいた。
アリシアがレイヴンへ向き直り、木箱を渡す。
「お兄様に少し…相談に乗っていただきました」
「綺麗な懐中時計だね」
レイヴンは光沢のある金色の懐中時計を木箱から取り出して蓋を開けると、目を見開いた。
文字盤に埋められたエメラルドを見て、嬉しそうに頬を緩める。
「ありがとう、アリシア。とても嬉しいよ」
「気に入って…いただけましたか?」
「うん、すごく嬉しい。大事にするね。みんなに見せて歩きたいなぁ」
「…それは止めてくださいませ」
レイヴンはこれまでアリシアから贈られたものはすべて気に入っていたし、大切に保管している。
だけどそれらの品についていた石は、すべてサファイアだった。
サファイアーーレイヴンの色である。
レイヴンがサファイアのついた品を使うのは、おかしなことではない。
だけどいつか…アリシアの色を贈って欲しいと願っていたのだ。
初々しい恋人同士だね。
レオナルドは呆れたように息を吐いた。
とても13年も共に過ごしたカップルには見えない。
レオナルドは物陰に隠れて2人の様子を窺っていた。
だけど隠れていなくても、2人は気がつかないだろう。
レイヴンは昔、視野の狭さから…その後は幼い矜持から素直な愛情表現ができなくなっていた。
その間にアリシアは、あったのかもしれない初恋の芽を、心の深く深くへと埋めてしまった。
もう一度芽が出てくると良いけどね。
今のアリシアは、恋愛感情に嫌悪感を持っている。
そんなアリシアが自身の恋愛感情を受け入れるには時間が掛かるだろう。
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