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2章
1 レイヴン色のドレス①
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舞踏会の日になった。
アリシアは今日、あのドレスを着る。
あのレイヴン色のドレスを。
舞踏会が開かれるは夜だが、準備は昼食を食べた後すぐに始まった。
まずはお風呂で侍女たちに全身を磨き上げられる。
その後時間をかけて全身のマッサージをされながら、爪のお手入れをされ、髪には香油を塗られてトリートメントをされる。
その後もう一度お風呂で全身を磨き上げられたら、出てきた時には爪先までピカピカだ。
ドレッシングルームに移ると僅かに人が言い合う声が聞こえた。
この声はお風呂に入っている時やマッサージの最中にも度々聞こえていて、訝しく思っていた。
「何事なの?」
「それが…、殿下が妃殿下にお会いになりたいといらっしゃっていて」
侍女頭のエレノアに訊くと、困り切った顔で教えてくれた。
レイヴンが先ほどから何度も来ては、アリシアに会いたいと無理にバスルームへ入ろうとするという。
エレノアたち侍女は、下準備中の妃殿下に会わせるわけにはいかない、と必死で押し留めていたらしい。
ドレッシングルームを出てリビングルームに入ると、レイヴンが落ち着かない様子でウロウロと歩き回っていた。
「レイヴン様?」
呼び掛けると弾かれたように振り返る。
大股に近づいて来てアリシアを抱き締めた。
「アリシア!ああ、会いたかった…」
切なげな声だが、今日も昼食を共に摂っている。
先程の様子を見ても、いつもより随分余裕がないようで不思議に思う。
「どうされましたの?」
背中に腕をまわし、そっと抱き締め返す。
レイヴンは肩に顔を埋めたまま大きく息をついた。
「今日はあのドレスを着てくれるんだよね?」
「そのつもりですが…」
「あのドレスを着たアリシアを見るのが楽しみで…。想像してたらアリシアに会いたくて堪らなくなった」
アリシアの肩口に額を擦りつける。
なんだかおかしな感情が沸いて来て、アリシアはレイヴンを抱き締める腕に力を込めた。
レイヴンは「まったく、余裕がないな」と自嘲するように笑う。
あまり顔は見えないが、赤くなっているようだ。
「支度はこれからですわ。もうしばらくお待ちくださいませ」
背中を少し撫でて言い聞かせるように言うと、「うん」という小さな声と共に首筋にちゅっと口づけられる。
落ち着いたようだ。
「アリシア、なんだか柔らかいね」
落ち着くといつもと違う感触に気がついたらしい。
「今はコルセットをつけていませんから」
そう言うと、レイヴンが驚いたように体を少し離してアリシアを見た。
化粧をされる間だけの簡単なドレスなのでコルセットはつけていないが、レイヴンに会うのにおかしな恰好ではない。なんなら化粧もこれからなので、今は化粧もしていない。
レイヴンは真っ赤になってアリシアから離れた。
「そ、それじゃあもう少し後で迎えに来るね」
レイヴンは、アリシアから眼を逸らして口ごもりながらそう言うと、慌ただしく出て行ってしまった。
「なんだったのかしら」
レイヴンはアリシアがコルセットをしていない姿など毎晩見ている。
このまま公の場に出るわけでもないのに、今更驚くことかしら?とアリシアは首を傾げた。
「妃殿下、支度の続きをしますからドレッシングルームにお戻りください」
笑いをかみ殺したエレノアに促され、アリシアはドレッシングルームに戻った。
アリシアは今日、あのドレスを着る。
あのレイヴン色のドレスを。
舞踏会が開かれるは夜だが、準備は昼食を食べた後すぐに始まった。
まずはお風呂で侍女たちに全身を磨き上げられる。
その後時間をかけて全身のマッサージをされながら、爪のお手入れをされ、髪には香油を塗られてトリートメントをされる。
その後もう一度お風呂で全身を磨き上げられたら、出てきた時には爪先までピカピカだ。
ドレッシングルームに移ると僅かに人が言い合う声が聞こえた。
この声はお風呂に入っている時やマッサージの最中にも度々聞こえていて、訝しく思っていた。
「何事なの?」
「それが…、殿下が妃殿下にお会いになりたいといらっしゃっていて」
侍女頭のエレノアに訊くと、困り切った顔で教えてくれた。
レイヴンが先ほどから何度も来ては、アリシアに会いたいと無理にバスルームへ入ろうとするという。
エレノアたち侍女は、下準備中の妃殿下に会わせるわけにはいかない、と必死で押し留めていたらしい。
ドレッシングルームを出てリビングルームに入ると、レイヴンが落ち着かない様子でウロウロと歩き回っていた。
「レイヴン様?」
呼び掛けると弾かれたように振り返る。
大股に近づいて来てアリシアを抱き締めた。
「アリシア!ああ、会いたかった…」
切なげな声だが、今日も昼食を共に摂っている。
先程の様子を見ても、いつもより随分余裕がないようで不思議に思う。
「どうされましたの?」
背中に腕をまわし、そっと抱き締め返す。
レイヴンは肩に顔を埋めたまま大きく息をついた。
「今日はあのドレスを着てくれるんだよね?」
「そのつもりですが…」
「あのドレスを着たアリシアを見るのが楽しみで…。想像してたらアリシアに会いたくて堪らなくなった」
アリシアの肩口に額を擦りつける。
なんだかおかしな感情が沸いて来て、アリシアはレイヴンを抱き締める腕に力を込めた。
レイヴンは「まったく、余裕がないな」と自嘲するように笑う。
あまり顔は見えないが、赤くなっているようだ。
「支度はこれからですわ。もうしばらくお待ちくださいませ」
背中を少し撫でて言い聞かせるように言うと、「うん」という小さな声と共に首筋にちゅっと口づけられる。
落ち着いたようだ。
「アリシア、なんだか柔らかいね」
落ち着くといつもと違う感触に気がついたらしい。
「今はコルセットをつけていませんから」
そう言うと、レイヴンが驚いたように体を少し離してアリシアを見た。
化粧をされる間だけの簡単なドレスなのでコルセットはつけていないが、レイヴンに会うのにおかしな恰好ではない。なんなら化粧もこれからなので、今は化粧もしていない。
レイヴンは真っ赤になってアリシアから離れた。
「そ、それじゃあもう少し後で迎えに来るね」
レイヴンは、アリシアから眼を逸らして口ごもりながらそう言うと、慌ただしく出て行ってしまった。
「なんだったのかしら」
レイヴンはアリシアがコルセットをしていない姿など毎晩見ている。
このまま公の場に出るわけでもないのに、今更驚くことかしら?とアリシアは首を傾げた。
「妃殿下、支度の続きをしますからドレッシングルームにお戻りください」
笑いをかみ殺したエレノアに促され、アリシアはドレッシングルームに戻った。
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