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2章
15 招かざる客③ ※9/5大幅に改訂しました
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エミリーの所作の酷さにはレイヴンも驚いていた。
先日の話を聞いたレイヴンは、ジェーンの所作が美しくないのは、侯爵家で満足な教育を受けられなかったからなのかと思うようになっていた。
だけど夫妻に溺愛されているはずのエミリーの所作も酷い。
侯爵家では礼儀作法やマナーは軽視されているのだろうか。
「あなた?!」
黙り込んだデミオンに、アンジュが声を上げた。
これではエミリーの所作が酷いと認めているようなものだ。
実際にその通りなのだが、アンジュはそれを認めたくないらしい。
「公爵家の次男として生まれたデミオン殿ならわかりますわね?今のエミリーの教養レベルは最低のものです。使節団は国の代表ですから、講師たちは彼らがどれだけ嫌がろうとそれに相応しい教養を身につけさせます。侯爵令嬢として不出来なエミリーが成長するチャンスですわ」
「………」
アリシアの言うことは最もなことだった。
デミオンとて今のエミリーが侯爵令嬢として相応しいとは思っていない。
だけどデミオンはそれで良いと思っている。
むしろ侯爵令嬢として相応しい教養など必要ないと思っているのだ。
そんなデミオンの内心を知らないアンジュは赤くなって震えていた。
アンジュにわかるのは、自身とエミリーが馬鹿にされたということだけだ。
それなのに夫は反論もしてくれずに俯いている。
アンジュにはすべて我慢できないことだった。
「休憩時間も与えずに半年間も監禁状態で勉学を強いることが、正しいことだと仰いますの?!なんと冷酷な方たちなのでしょう!!」
レイヴンが溜息を吐いた。
侯爵夫人風情が王太子夫妻に言って良いような言葉ではない。
先ほどアリシアが教えていたのにもう忘れたのか。――理解できなかったのか。
「随分大袈裟ですけれど、私、8歳の時から同じような講義を受けていましたわ。私の場合は妃教育ですし、半年では終わりませんでしたけどね」
妃教育は確かに辛かった。
わからないこと、できないことばかりだった。
だけどアリシアは最大限の努力をした。辛いから止めたいと両親に泣きついたことなどない。
そして万が一泣きついたとしても、両親が「辛いと泣いているから止めさせてくれ」などと、国王夫妻に直訴することはない。
「大袈裟ですって?!あの子は泣いているのに!!」
だからなんだというのだ。
「…妃殿下が仰る通りあの子は未熟です。あの子にアナトリアの代表は務まりません。どうか別の方をお選びください」
侯爵は上手い。
情に訴えるのは無駄だと悟り、こちらが突いてみせた、教養の低さを理由に外してくれという。
そして忌々しいことに、それはレイヴンが無視できないことでもあった。
「…エミリー嬢が半年で成長する見込みはないと?」
「父親として恥ずかしながら、あの子には忍耐力がありません。妃殿下の様に耐えて励み、教養を身につけるのは難しいかと」
「あなた?!なにを仰るの?!」
夫の思惑さえ読めないアンジュは、アリシアを称えてエミリーを貶めるデミオンの言葉が許せないと喚く。
「あなたまでそんなことを仰るなんて!あの子が可哀想ですわ!!」
アンジュがわっと泣き出した。
アンジュは学生時代、デミオンの恋人だった時でさえ、ルトビア公爵家に疎ましく思われていた。
デミオンがサンドラと結婚し、愛人として囲われるようになってからは更に邪険に扱われるようになった。
ルトビア公爵家には並々ならぬ敵愾心を持っているのだ。
先日の話を聞いたレイヴンは、ジェーンの所作が美しくないのは、侯爵家で満足な教育を受けられなかったからなのかと思うようになっていた。
だけど夫妻に溺愛されているはずのエミリーの所作も酷い。
侯爵家では礼儀作法やマナーは軽視されているのだろうか。
「あなた?!」
黙り込んだデミオンに、アンジュが声を上げた。
これではエミリーの所作が酷いと認めているようなものだ。
実際にその通りなのだが、アンジュはそれを認めたくないらしい。
「公爵家の次男として生まれたデミオン殿ならわかりますわね?今のエミリーの教養レベルは最低のものです。使節団は国の代表ですから、講師たちは彼らがどれだけ嫌がろうとそれに相応しい教養を身につけさせます。侯爵令嬢として不出来なエミリーが成長するチャンスですわ」
「………」
アリシアの言うことは最もなことだった。
デミオンとて今のエミリーが侯爵令嬢として相応しいとは思っていない。
だけどデミオンはそれで良いと思っている。
むしろ侯爵令嬢として相応しい教養など必要ないと思っているのだ。
そんなデミオンの内心を知らないアンジュは赤くなって震えていた。
アンジュにわかるのは、自身とエミリーが馬鹿にされたということだけだ。
それなのに夫は反論もしてくれずに俯いている。
アンジュにはすべて我慢できないことだった。
「休憩時間も与えずに半年間も監禁状態で勉学を強いることが、正しいことだと仰いますの?!なんと冷酷な方たちなのでしょう!!」
レイヴンが溜息を吐いた。
侯爵夫人風情が王太子夫妻に言って良いような言葉ではない。
先ほどアリシアが教えていたのにもう忘れたのか。――理解できなかったのか。
「随分大袈裟ですけれど、私、8歳の時から同じような講義を受けていましたわ。私の場合は妃教育ですし、半年では終わりませんでしたけどね」
妃教育は確かに辛かった。
わからないこと、できないことばかりだった。
だけどアリシアは最大限の努力をした。辛いから止めたいと両親に泣きついたことなどない。
そして万が一泣きついたとしても、両親が「辛いと泣いているから止めさせてくれ」などと、国王夫妻に直訴することはない。
「大袈裟ですって?!あの子は泣いているのに!!」
だからなんだというのだ。
「…妃殿下が仰る通りあの子は未熟です。あの子にアナトリアの代表は務まりません。どうか別の方をお選びください」
侯爵は上手い。
情に訴えるのは無駄だと悟り、こちらが突いてみせた、教養の低さを理由に外してくれという。
そして忌々しいことに、それはレイヴンが無視できないことでもあった。
「…エミリー嬢が半年で成長する見込みはないと?」
「父親として恥ずかしながら、あの子には忍耐力がありません。妃殿下の様に耐えて励み、教養を身につけるのは難しいかと」
「あなた?!なにを仰るの?!」
夫の思惑さえ読めないアンジュは、アリシアを称えてエミリーを貶めるデミオンの言葉が許せないと喚く。
「あなたまでそんなことを仰るなんて!あの子が可哀想ですわ!!」
アンジュがわっと泣き出した。
アンジュは学生時代、デミオンの恋人だった時でさえ、ルトビア公爵家に疎ましく思われていた。
デミオンがサンドラと結婚し、愛人として囲われるようになってからは更に邪険に扱われるようになった。
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