【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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2章

14 招かざる客② ※9/5 後半を大幅に改訂しました

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「他の者は外出したり酒を飲んだりしているといいます!なぜあの子だけが休憩も許されず、勉強し続けなければならなのです?!」

「他の団員が外出しているのは一日の講義が終わった後だ。酒を飲んでいるのもな。彼らの本職は外交官で全員成人しているから問題はない」

「ではなぜエミリーだけが休むことができないのですか!!」

「他の者より劣った者が補修を課されるのは当然だろう。エミリー嬢とて夕食は摂っているし寝る時間もある。まったく休んでいないわけではない」

「私、不思議なのですが」

 アリシアが閉じた扇を口元にあてて首を傾げた。

「エミリーはなぜ、それほど補修があるのでしょう?アルスタ語もアルスタの歴史も、学園に入学してから学ぶわけではありません。入学する前に、ある程度家庭教師に教わっているはずです。入学してから始めたのでは授業についていけませんわ。そして学園の授業を真面目に受けていれば、研修でもそんなに苦労はしないはずです。なぜエミリーだけそんなに大変なのかしら?」

 エミリーは学園の成績も悪いのだ。
 それなら家庭教師をつけて学ばせればと思うのだが、入学する前も入学した後も、エミリーに甘い2人はエミリーが嫌がるとすぐに家庭教師を辞めさせてしまう。

「確かに報告を受けているエミリー嬢の補修は多い。つまりそれだけ講師の時間も取られているということだ。これまで侯爵家ではどういう教育をしていたんだ?」

「さあ…。アンジュ殿と同程度、の教育でしょうか」

「なんですって?!」

 目を見開き、声を上げるアンジュにレイヴンの腰が浮きかけるのをアリシアが抑えた。

「王太子妃である私にこのような態度を取り、レイヴン様にもあの様な口を利くことが許されると思っているのです。それだけで教養の低さが分かります」

 感情を乗せない冷たい声でアリシアが言う。
 表情もいつもの笑顔ではなく、真顔で感情が抜け落ちている。
 アリシアの言葉や表情からやっと自分の態度の悪さを自覚したようで、アンジュが赤い顔をして押し黙った。

「教養の低いものを短時間でアナトリアの代表に育てなければなりません。指導が厳しいのは当然でしょう。あなたたちはエミリーがアナトリアの代表として恥を晒すことをお望みですの?」

「…娘はダンスの授業でも礼儀作法でも、他の者よりきつく当たられていると言っています」

 デミオンはさすがに感情を抑えた話し方をする。
 公爵家では学園に入るまでに最低限の礼儀を教えられる。
 学園でアンジュに出会うまでは真面目に家庭教師の授業に取り組んでいたデミオンは、王太子夫妻に取るべき礼儀を弁えているのだ。

「ダンスも礼儀作法も、他の方より劣っているからでしょう。…侯爵令嬢でありながら、なぜあのような所作しかできないのか、理解に苦しみますわ。デミオン殿はエミリーの所作が侯爵令嬢として相応しいと思ってらっしゃいますの?」

 アリシアの問いかけにデミオンは俯いて答えなかった。

 貴族には階級に準じた教養というものがある。
 今のエミリーの状態では男爵令嬢にも及んでいない。
 アンジュにはそれがわからないのか、それでも良いと思っているのか知らないが、公爵家出身のデミオンはさすがに理解しているようだった。




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