43 / 697
2章
13 招かざる客①
しおりを挟む
仮初めの平穏はひと月しかもたなかった。
デミオンとアンジュが面会を求めて王宮へ来ているという。
その知らせをアリシアはレイヴンから聞いた。
アリシアの周囲を常に警戒しているレイヴンは、不審な来客があった場合、すぐに報告するよう命じていたらしい。
デミオンはアリシアの叔父なのだが、王宮では危険人物だと認識されているということか。
「どうする?嫌なら会わなくていい」
「大丈夫です。会いますわ」
心配そうなレイヴンに、アリシアはにっこり笑って答えた。
多少嫌な思いをすることになるが、それは仕方のないことだ。
レイヴンは2人を王太子宮には入れずに、執務棟にある応接間で待たせていた。
2人の用件は分かり切っている。エミリーを使節団から外せというのだ。
応接間で待っていた2人は、相変わらず趣味の悪いゴテゴテした衣装を身につけていた。
大きな石がついた指輪を両手にいくつもつけているし、髪飾りも首飾りも腕輪まで、太い金色の細工に色のはっきりした大きな石がついている。
値の張るものなのだろうが、悪趣味としか思えない。
ルトビア公爵家では、両親も祖父母も質のいいシンプルなものを好んでいた。
デミオンは仮にも同じ公爵家出身なのに、なぜこうも悪趣味なのか。
昼間なのに大きく胸元が開いた派手な柄のドレスは、品のないアンジュによく似合っているのだが。
「それで、僕の妃になんの用かな?」
当然の様についてきたレイヴンが訊いた。
表情はにこやかなのに凄みがある。
「今日は慈悲を乞いに参りました。可哀想なエミリーは過度な講義を受け憔悴しています。どうか使節団から抜けさせてください」
デミオンが哀れっぽく頭を下げる。
使節団は他国との交流、友好関係維持を目的に国から派遣される外交官で、国としても重要なものだ。
その国から任じられた役目を、「研修が辛い」という理由で辞退できると本当に思っているのだろうか。
辞退が許されるのは遅くても研修が始まるまでだ。
これが侯爵夫妻なのかと思うと溜息が出る。
「おかしなことを仰いますのね?殿下の慈悲があってこそ使節団へ加入できましたのに、慈悲をもって辞めさせてほしいだなんて」
おかしそうにアリシアが笑うと、アンジュが睨みつけてきた。
礼儀を知らない女である。
「あの子は苦しんでいます!研修と称して酷い扱いを受けていると泣いていました!何時間もダンスのレッスンをさせられて足がぼろぼろになったり、何時間もの勉強で休む暇もないとか!アルスタ語にアルスタの歴史など、何の役に立つのです!」
「…エミリー嬢はアルスタへ行くのだが?」
アルスタへ行く使節団がその国の言葉も話せず、歴史も知らないなど話にならない。
同時にアナトリアの代表でもあるので、それに相応しく振舞えるよう礼儀やマナーの時間もある。当然アナトリアの歴史の講義もある。
「あの子は勉強が嫌いなのです!それなのに何時間も監禁状態で勉強を強要するなんて!」
「…研修を受けているのはエミリー嬢だけではない。使節団に選ばれた者は皆同じ部屋で勉学に励んでいる」
レイヴンの声は冷たく、硬い。
友好的な振りをするのは止めたようだ。
デミオンとアンジュが面会を求めて王宮へ来ているという。
その知らせをアリシアはレイヴンから聞いた。
アリシアの周囲を常に警戒しているレイヴンは、不審な来客があった場合、すぐに報告するよう命じていたらしい。
デミオンはアリシアの叔父なのだが、王宮では危険人物だと認識されているということか。
「どうする?嫌なら会わなくていい」
「大丈夫です。会いますわ」
心配そうなレイヴンに、アリシアはにっこり笑って答えた。
多少嫌な思いをすることになるが、それは仕方のないことだ。
レイヴンは2人を王太子宮には入れずに、執務棟にある応接間で待たせていた。
2人の用件は分かり切っている。エミリーを使節団から外せというのだ。
応接間で待っていた2人は、相変わらず趣味の悪いゴテゴテした衣装を身につけていた。
大きな石がついた指輪を両手にいくつもつけているし、髪飾りも首飾りも腕輪まで、太い金色の細工に色のはっきりした大きな石がついている。
値の張るものなのだろうが、悪趣味としか思えない。
ルトビア公爵家では、両親も祖父母も質のいいシンプルなものを好んでいた。
デミオンは仮にも同じ公爵家出身なのに、なぜこうも悪趣味なのか。
昼間なのに大きく胸元が開いた派手な柄のドレスは、品のないアンジュによく似合っているのだが。
「それで、僕の妃になんの用かな?」
当然の様についてきたレイヴンが訊いた。
表情はにこやかなのに凄みがある。
「今日は慈悲を乞いに参りました。可哀想なエミリーは過度な講義を受け憔悴しています。どうか使節団から抜けさせてください」
デミオンが哀れっぽく頭を下げる。
使節団は他国との交流、友好関係維持を目的に国から派遣される外交官で、国としても重要なものだ。
その国から任じられた役目を、「研修が辛い」という理由で辞退できると本当に思っているのだろうか。
辞退が許されるのは遅くても研修が始まるまでだ。
これが侯爵夫妻なのかと思うと溜息が出る。
「おかしなことを仰いますのね?殿下の慈悲があってこそ使節団へ加入できましたのに、慈悲をもって辞めさせてほしいだなんて」
おかしそうにアリシアが笑うと、アンジュが睨みつけてきた。
礼儀を知らない女である。
「あの子は苦しんでいます!研修と称して酷い扱いを受けていると泣いていました!何時間もダンスのレッスンをさせられて足がぼろぼろになったり、何時間もの勉強で休む暇もないとか!アルスタ語にアルスタの歴史など、何の役に立つのです!」
「…エミリー嬢はアルスタへ行くのだが?」
アルスタへ行く使節団がその国の言葉も話せず、歴史も知らないなど話にならない。
同時にアナトリアの代表でもあるので、それに相応しく振舞えるよう礼儀やマナーの時間もある。当然アナトリアの歴史の講義もある。
「あの子は勉強が嫌いなのです!それなのに何時間も監禁状態で勉強を強要するなんて!」
「…研修を受けているのはエミリー嬢だけではない。使節団に選ばれた者は皆同じ部屋で勉学に励んでいる」
レイヴンの声は冷たく、硬い。
友好的な振りをするのは止めたようだ。
20
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
すれ違いのその先に
ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。
彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。
ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。
*愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる