【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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2章

13 招かざる客①

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   仮初めの平穏はひと月しかもたなかった。
 
 デミオンとアンジュが面会を求めて王宮へ来ているという。
 その知らせをアリシアはレイヴンから聞いた。

 アリシアの周囲を常に警戒しているレイヴンは、不審な来客があった場合、すぐに報告するよう命じていたらしい。
 デミオンはアリシアの叔父なのだが、王宮では危険人物だと認識されているということか。

「どうする?嫌なら会わなくていい」

「大丈夫です。会いますわ」

 心配そうなレイヴンに、アリシアはにっこり笑って答えた。
 多少嫌な思いをすることになるが、それは仕方のないことだ。

 レイヴンは2人を王太子宮には入れずに、執務棟にある応接間で待たせていた。
 2人の用件は分かり切っている。エミリーを使節団から外せというのだ。

 応接間で待っていた2人は、相変わらず趣味の悪いゴテゴテした衣装を身につけていた。
 大きな石がついた指輪を両手にいくつもつけているし、髪飾りも首飾りも腕輪まで、太い金色の細工に色のはっきりした大きな石がついている。
 値の張るものなのだろうが、悪趣味としか思えない。
 
 ルトビア公爵家では、両親も祖父母も質のいいシンプルなものを好んでいた。
 デミオンは仮にも同じ公爵家出身なのに、なぜこうも悪趣味なのか。
 昼間なのに大きく胸元が開いた派手な柄のドレスは、品のないアンジュによく似合っているのだが。

「それで、僕の妃になんの用かな?」

 当然の様についてきたレイヴンが訊いた。
 表情はにこやかなのに凄みがある。

「今日は慈悲を乞いに参りました。可哀想なエミリーは過度な講義を受け憔悴しています。どうか使節団から抜けさせてください」

 デミオンが哀れっぽく頭を下げる。
 
   使節団は他国との交流、友好関係維持を目的に国から派遣される外交官で、国としても重要なものだ。
 その国から任じられた役目を、「研修が辛い」という理由で辞退できると本当に思っているのだろうか。
 辞退が許されるのは遅くても研修が始まるまでだ。
 これが侯爵夫妻なのかと思うと溜息が出る。

「おかしなことを仰いますのね?殿下の慈悲があってこそ使節団へ加入できましたのに、慈悲をもって辞めさせてほしいだなんて」

 おかしそうにアリシアが笑うと、アンジュが睨みつけてきた。
 礼儀を知らない女である。 

「あの子は苦しんでいます!研修と称して酷い扱いを受けていると泣いていました!何時間もダンスのレッスンをさせられて足がぼろぼろになったり、何時間もの勉強で休む暇もないとか!アルスタ語にアルスタの歴史など、何の役に立つのです!」

「…エミリー嬢はアルスタへ行くのだが?」

 アルスタへ行く使節団がその国の言葉も話せず、歴史も知らないなど話にならない。
 同時にアナトリアの代表でもあるので、それに相応しく振舞えるよう礼儀やマナーの時間もある。当然アナトリアの歴史の講義もある。

「あの子は勉強が嫌いなのです!それなのに何時間も監禁状態で勉強を強要するなんて!」

「…研修を受けているのはエミリー嬢だけではない。使節団に選ばれた者は皆同じ部屋で勉学に励んでいる」

 レイヴンの声は冷たく、硬い。
 友好的な振りをするのは止めたようだ。



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