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2章
30 当主の役割①
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「さて、エミリーの嘘が分かったところで、ジェーン、君はこれからどうしたい?」
レオナルドがジェーンへ問いかけた。
ジェーンへ向ける目には優しさが溢れていて、2人が親しい関係であるとわかる。
「僕たちの考えは既に話した通りだ。この結婚はなかったことにして、婚約も解消して欲しい」
「使節団のこと、どうかしら?」
使節団の話は結婚を止めさせる為の口実だったが、表向きの理由として都合の良いものでもあった。
婚約者が義妹と不貞を働いたから婚約を破棄するのではなく、義妹が公務を放棄したことにより生じた人員不足を補う為に自ら使節団に参加する。侯爵家の惣領姫として、両親と義妹のせいで地に落ちた王家からの信用を取り戻さなければならないのだ。
その為には2か月後に迫った結婚式は中止せざるを得ない。
ジョッシュとエミリーの関係が社交界でどれだけ取沙汰されていたとしても、「侯爵家の名誉を回復することを優先した」という態度を貫けば、それ以上のことを表立って言うことはできなくなる。
「それは…すぐにはお答えできません」
ジェーンが視線を伏せた。
ジェーンはどれほど蔑ろにされていても、長年ジョッシュを想っていた。
その想いを急に捨てることは難しいのだろう。
「ちょっ、ちょっと待ってください!!」
この話の流れに慌てたのはジョッシュだ。
青褪めた顔に焦りの色が浮かんでいる。
「これまでのことは申し訳なかったと思っています。エミリーの言うことを信じてジェーンを傷つけました。ですが、真実を知ったからにはエミリーとは手を切りますし、これからは絶対にジェーンを裏切ったりしません!」
ジョッシュは必死だった。
伯爵家の三男であり生家を継げないジョッシュには、婿入りの話が流れるのは死活問題なのだ。
そんなジョッシュに誰もが冷淡な目を向ける。
「それじゃあ訊くが、君は侯爵家の当主になって何をするつもりなんだ?」
「え?」
「君は、ジェーンが侯爵家の後継者として呼ばれている社交の場に、一度でも出たことがあるか?キャンベル侯爵家の領地で行われる一族の集まりに参加したことは?領内の視察に同行したり、領地経営について学んでいるのか?何が特産品でどこが名所か知っているか?」
「さっきアリシア様が君のことを知らないと言ったが、ルトビア公爵家の者は皆同じ反応をするだろうね。ジェーンはお祖母様やアダム殿に可愛がられているから、一族のパーティーやアダム殿の生誕祭にも毎年招かれている。僕はここ数年国を離れていたから参加できていないが、君たちが婚約してからこれまでの間、公爵家のパーティーで一度も君の姿を見たことがない。婚約者がいる令嬢は婚約者にエスコートされるはずなのに、ジェーンはいつもレオナルドにエスコートされていた」
「……っ!」
ジョッシュは答えることができなかった。
エミリーの言葉を信じ、ジェーンを疎ましく思っていたジョッシュは、これまで婚約者として当然同行するべき催しにほとんど参加していない。
ジェーンからは、毎回同行して欲しいという文が届いていたが、なにかと理由をつけて断っていた。
一度断ってしまえば、それ以上しつこく誘われることはなかった。
だけどその一度の文さえ煩わしく思っていたのだ。
レオナルドがジェーンへ問いかけた。
ジェーンへ向ける目には優しさが溢れていて、2人が親しい関係であるとわかる。
「僕たちの考えは既に話した通りだ。この結婚はなかったことにして、婚約も解消して欲しい」
「使節団のこと、どうかしら?」
使節団の話は結婚を止めさせる為の口実だったが、表向きの理由として都合の良いものでもあった。
婚約者が義妹と不貞を働いたから婚約を破棄するのではなく、義妹が公務を放棄したことにより生じた人員不足を補う為に自ら使節団に参加する。侯爵家の惣領姫として、両親と義妹のせいで地に落ちた王家からの信用を取り戻さなければならないのだ。
その為には2か月後に迫った結婚式は中止せざるを得ない。
ジョッシュとエミリーの関係が社交界でどれだけ取沙汰されていたとしても、「侯爵家の名誉を回復することを優先した」という態度を貫けば、それ以上のことを表立って言うことはできなくなる。
「それは…すぐにはお答えできません」
ジェーンが視線を伏せた。
ジェーンはどれほど蔑ろにされていても、長年ジョッシュを想っていた。
その想いを急に捨てることは難しいのだろう。
「ちょっ、ちょっと待ってください!!」
この話の流れに慌てたのはジョッシュだ。
青褪めた顔に焦りの色が浮かんでいる。
「これまでのことは申し訳なかったと思っています。エミリーの言うことを信じてジェーンを傷つけました。ですが、真実を知ったからにはエミリーとは手を切りますし、これからは絶対にジェーンを裏切ったりしません!」
ジョッシュは必死だった。
伯爵家の三男であり生家を継げないジョッシュには、婿入りの話が流れるのは死活問題なのだ。
そんなジョッシュに誰もが冷淡な目を向ける。
「それじゃあ訊くが、君は侯爵家の当主になって何をするつもりなんだ?」
「え?」
「君は、ジェーンが侯爵家の後継者として呼ばれている社交の場に、一度でも出たことがあるか?キャンベル侯爵家の領地で行われる一族の集まりに参加したことは?領内の視察に同行したり、領地経営について学んでいるのか?何が特産品でどこが名所か知っているか?」
「さっきアリシア様が君のことを知らないと言ったが、ルトビア公爵家の者は皆同じ反応をするだろうね。ジェーンはお祖母様やアダム殿に可愛がられているから、一族のパーティーやアダム殿の生誕祭にも毎年招かれている。僕はここ数年国を離れていたから参加できていないが、君たちが婚約してからこれまでの間、公爵家のパーティーで一度も君の姿を見たことがない。婚約者がいる令嬢は婚約者にエスコートされるはずなのに、ジェーンはいつもレオナルドにエスコートされていた」
「……っ!」
ジョッシュは答えることができなかった。
エミリーの言葉を信じ、ジェーンを疎ましく思っていたジョッシュは、これまで婚約者として当然同行するべき催しにほとんど参加していない。
ジェーンからは、毎回同行して欲しいという文が届いていたが、なにかと理由をつけて断っていた。
一度断ってしまえば、それ以上しつこく誘われることはなかった。
だけどその一度の文さえ煩わしく思っていたのだ。
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