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2章
33 異母弟 ノティス①
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「皆知っているとは思うが、ノティスの母親は父上の不興を買って幽閉されている。だけど息子であるノティスだけは年に一度、面会が許されているんだ」
「そうなのですか?」
それはアリシアも知らないことだった。
ノティスの母である側妃は、辺境の離宮に幽閉されている。
王都から馬車で8日は掛かるだろう。往復すると、それだけで16日。
そんな長い期間、ノティスが王宮を離れていることがあっただろうか。
最もアリシアはノティスと関わることがあまりないので、ノティスが王宮を留守にしていても気がついていないだけかもしれない。
それでも王子が1人、辺境へ行くからにはそれなりの護衛が動いているはずだ。
だけどそんな動きを感じたことはない。
「アリシアが知らなくても無理はないよ。面会を許されてはいるが、ここ数年ノティスは面会に行っていない。初めの内はやはり母親が恋しかったみたいで毎年行っていたけど、ノティス自身が母親の問題に気がついてからは行かなくなった」
「問題?」
「側妃が王宮にいた時と少しも変わっていないということだよ。彼女は、王の寵姫である自分こそが王妃に相応しく、自分が生んだノティスが王太子になるべきだと今も信じている」
「ええっ?!」
「そんな夢物語を信じているのは、今や側妃だけだよ。父上の王妃は母上だし、アリシアと結婚した今、僕が王太子の座を降ろされることなど有り得ない」
レイヴンは溜息を吐いた。
「ノティスは生まれた時から、母親とその取り巻きに『ノティス殿下こそ王太子に相応しい』と言われて育っていた。幼かった彼はそれを信じていたよ。だけど彼らは、ノティスを甘やかすばかりで全く教育をしていなかった。幼い彼は我儘放題の子どもだったよ。その内、側妃が幽閉されて周りから人がいなくなった。権力を失くした、ただ我儘なだけの子どもの相手をしたがるような者はいない。取り残されたノティスを仕方なく母上が育てることになった。そこで初めてノティスは教育を受けたんだ。王子として当然の教育をね。初めは反発していたし、じっと座って話を聞くこともできなかった。側妃のところでは泣いて嫌がれば講師をクビにすることができた。だけど母上相手にそうはいかない。泣いても喚いても講師はクビにならず、根気強く教え続けた。母上も、教えられたことを理解した時には盛大に褒め称えたりして、ノティスの気持ちが向くよう手を尽くしていたよ。そうしている内に、ノティスは学ぶことの大切さを知り、母親と自分の身の上に起きたことを理解した。そうして成長した彼が再会した母親は、別れた時のまま変わらない、野心家で愚かなままの母親だった」
母親との面会を終えて帰ってきたノティスの憔悴した顔を思い出す。
それまでは母親をそんな境遇に追いやった父王や、王妃であるマルグリットを恨む気持ちがどこかにあった。
だけど成長したノティスは、何度注意をしても態度を改めない母を、父が王として幽閉するしかなかったことを理解した。
そして自分が王妃になれないことを不満に思っていた母が、マルグリットに対し散々な態度で接していたことを思い出す。
マルグリットがノティスを育てたのは、王妃としての義務かもしれない。
だけど愛情を掛ける義理などなかった。
形だけ引き取り、正殿の片隅にでも入れておけば良かったのだ。
それなのにマルグリットは嫌がらせ1つすることなくノティスを育ててくれた。
「ノティスは自分という神輿があるから、母親の野心が消えないのだと悟った。それ以来彼は一度も面会に行っていない。臣籍に降ることも、彼自身が願い出たことだ」
ノティスは王族として間違いなく成長した。
そして王籍を離れることが、王家の為にも母の為にもなると思い至ったのだ。
「そうなのですか?」
それはアリシアも知らないことだった。
ノティスの母である側妃は、辺境の離宮に幽閉されている。
王都から馬車で8日は掛かるだろう。往復すると、それだけで16日。
そんな長い期間、ノティスが王宮を離れていることがあっただろうか。
最もアリシアはノティスと関わることがあまりないので、ノティスが王宮を留守にしていても気がついていないだけかもしれない。
それでも王子が1人、辺境へ行くからにはそれなりの護衛が動いているはずだ。
だけどそんな動きを感じたことはない。
「アリシアが知らなくても無理はないよ。面会を許されてはいるが、ここ数年ノティスは面会に行っていない。初めの内はやはり母親が恋しかったみたいで毎年行っていたけど、ノティス自身が母親の問題に気がついてからは行かなくなった」
「問題?」
「側妃が王宮にいた時と少しも変わっていないということだよ。彼女は、王の寵姫である自分こそが王妃に相応しく、自分が生んだノティスが王太子になるべきだと今も信じている」
「ええっ?!」
「そんな夢物語を信じているのは、今や側妃だけだよ。父上の王妃は母上だし、アリシアと結婚した今、僕が王太子の座を降ろされることなど有り得ない」
レイヴンは溜息を吐いた。
「ノティスは生まれた時から、母親とその取り巻きに『ノティス殿下こそ王太子に相応しい』と言われて育っていた。幼かった彼はそれを信じていたよ。だけど彼らは、ノティスを甘やかすばかりで全く教育をしていなかった。幼い彼は我儘放題の子どもだったよ。その内、側妃が幽閉されて周りから人がいなくなった。権力を失くした、ただ我儘なだけの子どもの相手をしたがるような者はいない。取り残されたノティスを仕方なく母上が育てることになった。そこで初めてノティスは教育を受けたんだ。王子として当然の教育をね。初めは反発していたし、じっと座って話を聞くこともできなかった。側妃のところでは泣いて嫌がれば講師をクビにすることができた。だけど母上相手にそうはいかない。泣いても喚いても講師はクビにならず、根気強く教え続けた。母上も、教えられたことを理解した時には盛大に褒め称えたりして、ノティスの気持ちが向くよう手を尽くしていたよ。そうしている内に、ノティスは学ぶことの大切さを知り、母親と自分の身の上に起きたことを理解した。そうして成長した彼が再会した母親は、別れた時のまま変わらない、野心家で愚かなままの母親だった」
母親との面会を終えて帰ってきたノティスの憔悴した顔を思い出す。
それまでは母親をそんな境遇に追いやった父王や、王妃であるマルグリットを恨む気持ちがどこかにあった。
だけど成長したノティスは、何度注意をしても態度を改めない母を、父が王として幽閉するしかなかったことを理解した。
そして自分が王妃になれないことを不満に思っていた母が、マルグリットに対し散々な態度で接していたことを思い出す。
マルグリットがノティスを育てたのは、王妃としての義務かもしれない。
だけど愛情を掛ける義理などなかった。
形だけ引き取り、正殿の片隅にでも入れておけば良かったのだ。
それなのにマルグリットは嫌がらせ1つすることなくノティスを育ててくれた。
「ノティスは自分という神輿があるから、母親の野心が消えないのだと悟った。それ以来彼は一度も面会に行っていない。臣籍に降ることも、彼自身が願い出たことだ」
ノティスは王族として間違いなく成長した。
そして王籍を離れることが、王家の為にも母の為にもなると思い至ったのだ。
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