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2章
38 過去の噂②
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盛り上がるアリシアたちについて行こうと、ジョッシュが腰を浮かせていた。
アリシアが冷たい視線を向ける。
「なぜあなたがくるのかしら」
「そ、それは、僕はジェーンの婚約者ですから」
ジョッシュは必死だった。
これまでどれだけジェーンを嫌っていても、ジェーンとの婚約を破棄することは考えたことがなかった。
それは侯爵家の当主となる未来を捨てることだ。
これまで自分は侯爵家へ婿入りするのだと信じていたので、身を立てる為の勉強や資格の取得など、何もしていない。
ジェーンのことをどれだけ蔑ろにしていても、自分が捨てられる可能性は考えたこともなかった。
それなのにここに来て立場が急変してしまった。
後ろ盾になってくれると信じていた侯爵夫妻は、王家とルトビア公爵家の怒りを買って失脚寸前だ。
そしてこれまで蔑ろにしてきた婚約者は国王夫妻が気に掛ける存在であり、王太子夫妻もその加護にまわっている。
これで婚約を解消してしまったら、爵位も身を立てる手段も無いまま、平民として生きなければならなくなる。
そうなれば王家の怒りを買った元貴族など、誰も相手にしてくれないだろう。
こうなったらなんとしてもジェーンと結婚するしかないのだ。
ジェーンの夫となり尽くす態度を見せていれば、いずれ怒りを解くことができるかもしれない。
幸いなことに話を聞く限り、ジェーンは自分に好意を持っているようなのだ。
そんな打算に塗れたジョッシュに、アリシアは心底呆れていた。
「あなた、さっきの話を聞いていて、何も思うことはなかったの?」
「そう言われましても、結婚式も目前ですし、ここでノティス殿下の為に身を引くことは…」
「そこじゃないわよ。もちろんノティス殿下のことも大事なことではあるけれど、陛下とサンドラ叔母様のことを聞いて、なにも思うことはなかったというの?」
「陛下とサンドラ様のことですか…?」
ジョッシュにはアリシアの言っていることが全く理解できなかった。
国王とサンドラの話とは、要するに国王が仕出かした過去の醜聞だ。
思いがけない話に確かに驚愕していたが、それ以上の感想はない。
ジョッシュをじっと見ていたアリシアが溜息を吐いた。
「あなた、本当に何も知らないのね」
「…なんのことです?」
「学生時代、レイヴン様がジェーンを想っているという噂があったのを、あなた知っているのかしら」
「ええっ?!」
「アリシア!それはっ…!」
ジョッシュが驚くのと同時に、レイヴンが焦った声を上げた。
「もちろん、2人の間には何もなかったわよ、2人とも自分の立場をよく弁えているもの」
あなた達とは違ってね、とアリシアは嗤う。
「待ってくれ、アリシア。それは…っ」
「あら、ご心配なさらなくてもよろしいですわ。2人の間に何もなかったことは、私知っていますもの」
慌てて弁解しようとするレイヴンを、アリシアはにっこりと笑って遮る。
そのことに蟠りはない、と示す為だ。
「レイヴン様はご自身の立場をよく理解しておられますし、残念なことにジェーンには他に想う者がおりました。レイヴン様が別の者を想うジェーンに、無理なことをなさるはずがありませんわ」
アリシアにとってそれは最大級の信頼だった。
それなのにレイヴンは顔を引き攣らせて黙り込み、レオナルドとロバートは片手で目を覆って天井を見上げていた。
アリシアが冷たい視線を向ける。
「なぜあなたがくるのかしら」
「そ、それは、僕はジェーンの婚約者ですから」
ジョッシュは必死だった。
これまでどれだけジェーンを嫌っていても、ジェーンとの婚約を破棄することは考えたことがなかった。
それは侯爵家の当主となる未来を捨てることだ。
これまで自分は侯爵家へ婿入りするのだと信じていたので、身を立てる為の勉強や資格の取得など、何もしていない。
ジェーンのことをどれだけ蔑ろにしていても、自分が捨てられる可能性は考えたこともなかった。
それなのにここに来て立場が急変してしまった。
後ろ盾になってくれると信じていた侯爵夫妻は、王家とルトビア公爵家の怒りを買って失脚寸前だ。
そしてこれまで蔑ろにしてきた婚約者は国王夫妻が気に掛ける存在であり、王太子夫妻もその加護にまわっている。
これで婚約を解消してしまったら、爵位も身を立てる手段も無いまま、平民として生きなければならなくなる。
そうなれば王家の怒りを買った元貴族など、誰も相手にしてくれないだろう。
こうなったらなんとしてもジェーンと結婚するしかないのだ。
ジェーンの夫となり尽くす態度を見せていれば、いずれ怒りを解くことができるかもしれない。
幸いなことに話を聞く限り、ジェーンは自分に好意を持っているようなのだ。
そんな打算に塗れたジョッシュに、アリシアは心底呆れていた。
「あなた、さっきの話を聞いていて、何も思うことはなかったの?」
「そう言われましても、結婚式も目前ですし、ここでノティス殿下の為に身を引くことは…」
「そこじゃないわよ。もちろんノティス殿下のことも大事なことではあるけれど、陛下とサンドラ叔母様のことを聞いて、なにも思うことはなかったというの?」
「陛下とサンドラ様のことですか…?」
ジョッシュにはアリシアの言っていることが全く理解できなかった。
国王とサンドラの話とは、要するに国王が仕出かした過去の醜聞だ。
思いがけない話に確かに驚愕していたが、それ以上の感想はない。
ジョッシュをじっと見ていたアリシアが溜息を吐いた。
「あなた、本当に何も知らないのね」
「…なんのことです?」
「学生時代、レイヴン様がジェーンを想っているという噂があったのを、あなた知っているのかしら」
「ええっ?!」
「アリシア!それはっ…!」
ジョッシュが驚くのと同時に、レイヴンが焦った声を上げた。
「もちろん、2人の間には何もなかったわよ、2人とも自分の立場をよく弁えているもの」
あなた達とは違ってね、とアリシアは嗤う。
「待ってくれ、アリシア。それは…っ」
「あら、ご心配なさらなくてもよろしいですわ。2人の間に何もなかったことは、私知っていますもの」
慌てて弁解しようとするレイヴンを、アリシアはにっこりと笑って遮る。
そのことに蟠りはない、と示す為だ。
「レイヴン様はご自身の立場をよく理解しておられますし、残念なことにジェーンには他に想う者がおりました。レイヴン様が別の者を想うジェーンに、無理なことをなさるはずがありませんわ」
アリシアにとってそれは最大級の信頼だった。
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