【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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2章

71 侍医長からの報告①

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 ジェーンが12歳の頃、アンジュが暴力を振るっていたこと。
 そしてそれを知った公爵家が、アンジュを解放する代わりにデミオンへ突きつけた条件までを話すと、レオナルドは大きく息をついた。

 アダムはレオナルドがここでこの話をするとは思っていなかった。
 公爵家が揃って暴力行為を隠蔽していたのである。
 だがレオナルドが話したからにはその必要があるのだろう。
 
 覚悟を決めたアダムはすっと頭を下げた。
 
「申し訳ありません、陛下。ジェーンの夫が侯爵位を継ぐにはデミオンを侯爵位に留めておかなければならず、隠蔽致しました」

 国王としても難しい問題だった。
 犯罪の隠蔽は重罪だが、隠蔽することを望んだのは被害者であるジェーンだ。
 つまりジェーンにアンジュを告発する意思はない。
 侯爵位のことを考えると、黙認するのが一番なのだろうと思われた。

「条件の中に『衣服や食事など、生活する為に必要なものをきちんと与えること』というのがあったわね。つまり、それまでは与えられてなかったということね?」

「はい、王妃様。私共がドレスを与えても義妹のエミリーが奪ってしまうのです。食事については主人の歓心を得ようとする侍女がいるようで、嫌がらせを受けていたそうです。できる限りジェーンの側にいる侍女が運ぶようにしていたようなのですが、うまくいかないこともあったようですわ」

「食事を運ぶ?」

「…ジェーンは食堂ではなく、いつも自室で食事をしています」

 マルグリットの扇を握る手に力がこもる。
 ぎりっという歯ぎしりの音が聞こえてくるようだ。

「…この取り決めの後、ジェーンの食事や衣服の状態は改善されました。質の良いものが与えられたわけではありませんが、なくて困る、ということはなくなったのです。そして僕たちは…この取り決めが守られていると愚かにも信じてしまったのです」

「それはどういうことです?」

 眉根を寄せたマルグリットがレオナルドへ問うのと同時にノックの音が響いた。
 同時に侍医長の声がする。
 ジェーンの診察が終わって報告に来たようだ。

「王太子殿下、よろしいでしょうか?」

「入ってくれ」

 レイヴンが答えると扉が開き、侍医長とジェーンが入ってきた。
 侍医長が手に持っていた書類をレイヴンへ渡す。

「丁度この話をしていたところだ。父上、侍医たちにジェーン嬢の診察をさせました。その結果を共にお聞きください。ジェーン嬢は座ってくれ」

「はい。失礼致します」

 ジェーンは神妙に頷いてオレリアの隣に座った。
 レイヴンに促されて侍医長が報告を始める。

「キャンベル侯爵令嬢の診察をしましたが、肩から下、あらゆるところに内出血がありました。また、既に傷は完治していますが、全身に裂傷の痕がありました。その部位や程度についてはレイヴン殿下にお渡しした診断書に詳しく記しています」

「…酷いな」
 
 手元の診断書に目を通していたレイヴンからそんな声が漏れた。
 
「全身に内出血とはどういうことだ、ジェーン。まさかまたアンジュが殴ったのか?それに裂傷の痕だと…?」

 アダムが震える声でジェーンに問い掛ける。

 にわかには信じられない話だった。
 だけど先ほどのレオナルドの言葉もある。
 ――そういうことなのだろう。





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