102 / 697
2章
72 侍医長からの報告②
しおりを挟む
「…はい。このひと月ほど、アンジュ殿から暴力を受けていました」
アダムは胸の中にドスンっと重石を乗せられたのを感じた。
レオナルドが言う通り、アダムもこの取り決めが守られていると今まで信じていたのだ。
「…ところが、それだけではないのです」
そう言うとレオナルドはちらっとアリシアの顔を見た。アリシアは俯き加減でレオナルドを見ていない。
これ以上なにがあるというのか。
「診断書にある裂傷の痕についてですが、ジェーンが数年前にデミオン殿から暴力を受けているのをアリシア様が見ています」
「何?!」
「何ですって?!」
アダムとオレリアは反射的に立ち上がっていた。
レオナルドはそんな両親に向き直り、重苦しい気持ちのまま告げる。
「デミオン殿がジェーンを鞭で打っていたそうです。それだけでなく…、ジェーンを庇ったアリシア様も鞭で打たれ、怪我をしたそうです」
「な、にを…」
今度こそアダムは言葉を失った。
オレリアと2人、愕然と目を見開いている。
「お父様、お母様。申し訳ありません」
アリシアの声に2人は反射的に振り返り、目を見開いた。
アリシアが頭を下げているのだ。
「頭をお上げください、アリシア様!そのようなことをしてはいけません!!」
アリシアは2人の娘であるが、既に王太子妃になっている。
2人は公爵とその夫人であり、親であっても今は臣下の立場だ。
「アリシア。何があったのか、あなたが知っていることを話してちょうだい」
動揺するアダムに代わり、話を促したのはマルグリットだった。
「あなたがなぜ謝らなければならないのか、私たちに教えてちょうだい」
アリシアは頷くと、先ほどと同じ話をもう1度話して聞かせた。
「私があの時デミオン殿を信じたせいで、またこんなことになってしまいました。あの時私がお父様にお伝えしていれば…」
「それは違います、アリシア様」
話している内にまた込み上げてきた罪悪感でアリシアの声が震えている。
震えるアリシアの言葉を、ジェーンが労わるように遮った。
「先程も申し上げましたが、アリシア様は私の望みを叶えてくださっただけですわ。あの条件はお祖母様と公爵様、そして私が話し合って決めました。その取り決めが破られたのですもの、本当は私が公爵様へお伝えしなければならなかったのです。ですが私はそれを怠りました。それは、お伝えすれば資金援助が打ち切られてしまうからです。私には侯爵家や侯爵家の領地の為に資金援助が必要でした。だから私が、私の意志で隠蔽致しました。アリシア様が気に病むことなど何もないのです。公爵様、罰を受けるのは私です。侯爵家は受け取る資格のない資金を受け取っておりました」
「っ!それは私利私欲のためではないわ!少なくともあなたは…」
「もういい、2人とも。…いや、失礼致しました、アリシア様」
言い合う2人を止めたアダムは、アリシアに頭を下げてからジェーンへ向き直った。
「済まなかった、ジェーン。あの時あんな取り決めをするのではなかった。あの時はあれしか方法がないと思ったのだ。だがあの女を野放しにしたのが間違いだった。あの女をこちらで拘束しておいて人質にでもしていれば…」
「公爵様!!あの時の取り決めは私も一緒に考えました。公爵様もお祖母様も、私の身の安全と爵位の両方を守れるようにと一緒に考えてくださったではないですか。あの時はあれが最善だったのです」
アダムは胸の中にドスンっと重石を乗せられたのを感じた。
レオナルドが言う通り、アダムもこの取り決めが守られていると今まで信じていたのだ。
「…ところが、それだけではないのです」
そう言うとレオナルドはちらっとアリシアの顔を見た。アリシアは俯き加減でレオナルドを見ていない。
これ以上なにがあるというのか。
「診断書にある裂傷の痕についてですが、ジェーンが数年前にデミオン殿から暴力を受けているのをアリシア様が見ています」
「何?!」
「何ですって?!」
アダムとオレリアは反射的に立ち上がっていた。
レオナルドはそんな両親に向き直り、重苦しい気持ちのまま告げる。
「デミオン殿がジェーンを鞭で打っていたそうです。それだけでなく…、ジェーンを庇ったアリシア様も鞭で打たれ、怪我をしたそうです」
「な、にを…」
今度こそアダムは言葉を失った。
オレリアと2人、愕然と目を見開いている。
「お父様、お母様。申し訳ありません」
アリシアの声に2人は反射的に振り返り、目を見開いた。
アリシアが頭を下げているのだ。
「頭をお上げください、アリシア様!そのようなことをしてはいけません!!」
アリシアは2人の娘であるが、既に王太子妃になっている。
2人は公爵とその夫人であり、親であっても今は臣下の立場だ。
「アリシア。何があったのか、あなたが知っていることを話してちょうだい」
動揺するアダムに代わり、話を促したのはマルグリットだった。
「あなたがなぜ謝らなければならないのか、私たちに教えてちょうだい」
アリシアは頷くと、先ほどと同じ話をもう1度話して聞かせた。
「私があの時デミオン殿を信じたせいで、またこんなことになってしまいました。あの時私がお父様にお伝えしていれば…」
「それは違います、アリシア様」
話している内にまた込み上げてきた罪悪感でアリシアの声が震えている。
震えるアリシアの言葉を、ジェーンが労わるように遮った。
「先程も申し上げましたが、アリシア様は私の望みを叶えてくださっただけですわ。あの条件はお祖母様と公爵様、そして私が話し合って決めました。その取り決めが破られたのですもの、本当は私が公爵様へお伝えしなければならなかったのです。ですが私はそれを怠りました。それは、お伝えすれば資金援助が打ち切られてしまうからです。私には侯爵家や侯爵家の領地の為に資金援助が必要でした。だから私が、私の意志で隠蔽致しました。アリシア様が気に病むことなど何もないのです。公爵様、罰を受けるのは私です。侯爵家は受け取る資格のない資金を受け取っておりました」
「っ!それは私利私欲のためではないわ!少なくともあなたは…」
「もういい、2人とも。…いや、失礼致しました、アリシア様」
言い合う2人を止めたアダムは、アリシアに頭を下げてからジェーンへ向き直った。
「済まなかった、ジェーン。あの時あんな取り決めをするのではなかった。あの時はあれしか方法がないと思ったのだ。だがあの女を野放しにしたのが間違いだった。あの女をこちらで拘束しておいて人質にでもしていれば…」
「公爵様!!あの時の取り決めは私も一緒に考えました。公爵様もお祖母様も、私の身の安全と爵位の両方を守れるようにと一緒に考えてくださったではないですか。あの時はあれが最善だったのです」
30
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
すれ違いのその先に
ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。
彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。
ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。
*愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる