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2章
79 マリアンの処遇①
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王と王妃が退出したことで一種の緊張が解けていた。
「アリシア様」
「僕のことは気にしなくていい。普通に話してくれ」
遠慮がちに娘へ声を掛けるアダムへレイヴンが告げる。
それは親子として接して構わないということだ。
部屋に残っているのはレイヴンを除いてすべてルトビア公爵家の血縁である。
「——アリシア」
アダムが呼び直すとアリシアの肩がびくっと震えた。
「怪我をしたのか」
「…はい」
「それをわたしたちには言わなかったのだな」
「申し訳ありません」
「謝らなくていい。おまえの気持ちはわかる。――重い決断をしたのだな。気づいてやれなくて済まなかった」
アリシアの目から涙が溢れ出す。
泣きながらかぶりを振るアリシアをレイヴンはただ抱き締めていた。
「私はなにも気がつかなかったなんて…」
アダムの隣でオレリアも泣いていた。
公爵家では朝食と夕食を家族揃って摂ることになっている。
宰相であるアダムは忙しく、夕食時に不在のこともよくあるが、オレリアとレオナルド、そしてアリシアは毎日揃って食事を摂っていた。
毎日顔を合わせていた娘が大怪我をしていたのに気がつかなかった。
そのことにオレリアは強いショックを受けていた。
いや、オレリアにもおかしいと思うことはあったのだ。
例えば妃教育を受けているアリシアは、食事の際に大きな音を立てることがない。ナイフやフォークを落とすことなど有り得ないのだ。
それなのにナイフを落としたことがある。
その時アリシアが怪我をしているとは思いもしないオレリアは、どうしたのかと尋ねることなく行儀が悪いと咎めたのだ。
「それで良かったのですわ、お母様。私、隠しておりましたもの。絶対に誰にも気づかれてはならないと心に誓っておりました。お母様が怪我に気づかず叱ってくれた時、私、心から安堵したのです」
「ああ、アリシア…」
「ごめんなさい、お母様」
後悔に泣き崩れる母へアリシアは心から詫びた。
「私のせいです。本当に申し訳ありませんでした」
「ジェーンに非はない。悪いのはすべてデミオンだ」
傍で聞いていたジェーンがオレリアへ頭を下げるのをアダムが止めた。
「だがわからないことがある。アリシアがいくら隠したとしても、怪我をしているのを邸の者が誰も気づかないはずがない。なぜ誰も気づかなかったのか」
アリシアの体がまた震える。
アリシアは先ほど話をした時、マリアンのことは話さなかった。
あの時はそのことまで話す必要がなかった。レオナルドもそのことには触れていない。
だけどアダムやオレリアが不審に思わないはずがない。
「アリシア?」
アダムに呼びかけられて、無意識に俯いていたアリシアは顔を上げた。
「私が…、私がマリアンに事情を話し、協力を頼みました。マリアンは私の命を受けて他の者に気づかれないよう動いてくれました」
「ーーマリアンは知っていたのか」
「そういえばマリアンが不可解なことをしていた時期がありましたわ」
オレリアもアリシアが一時期マリアンにしか身の回りの世話をさせなかったことを思い出した。
他にもおかしかったことはある。
あの頃アリシアは、いつもは自分で持つような学生鞄を馬車に乗るまでマリアンに持たせていたり、自室の扉でさえマリアンに開けさせていた。
箱入り娘のアリシアだが、普通であればそれくらいのことは自分でする。
するように躾けている。
それなのにマリアンが代わりにしていたのは、アリシアが極力腕を使わずに済むよう気を使っていたのだ。
「お願いです、お父様。マリアンに罰を与えないで下さい。マリアンは私の命令に従っただけなのです」
その言葉を聞いてはっとしたオレリアはアダムの顔を見た。
マリアンの雇用主はアダムである。
アダムもオレリアもマリアンを信頼してアリシア付きの侍女にしていた。
アリシアの身に起きた異変を報告しなかったというのは重大な背信行為なのだ。
「アリシア様」
「僕のことは気にしなくていい。普通に話してくれ」
遠慮がちに娘へ声を掛けるアダムへレイヴンが告げる。
それは親子として接して構わないということだ。
部屋に残っているのはレイヴンを除いてすべてルトビア公爵家の血縁である。
「——アリシア」
アダムが呼び直すとアリシアの肩がびくっと震えた。
「怪我をしたのか」
「…はい」
「それをわたしたちには言わなかったのだな」
「申し訳ありません」
「謝らなくていい。おまえの気持ちはわかる。――重い決断をしたのだな。気づいてやれなくて済まなかった」
アリシアの目から涙が溢れ出す。
泣きながらかぶりを振るアリシアをレイヴンはただ抱き締めていた。
「私はなにも気がつかなかったなんて…」
アダムの隣でオレリアも泣いていた。
公爵家では朝食と夕食を家族揃って摂ることになっている。
宰相であるアダムは忙しく、夕食時に不在のこともよくあるが、オレリアとレオナルド、そしてアリシアは毎日揃って食事を摂っていた。
毎日顔を合わせていた娘が大怪我をしていたのに気がつかなかった。
そのことにオレリアは強いショックを受けていた。
いや、オレリアにもおかしいと思うことはあったのだ。
例えば妃教育を受けているアリシアは、食事の際に大きな音を立てることがない。ナイフやフォークを落とすことなど有り得ないのだ。
それなのにナイフを落としたことがある。
その時アリシアが怪我をしているとは思いもしないオレリアは、どうしたのかと尋ねることなく行儀が悪いと咎めたのだ。
「それで良かったのですわ、お母様。私、隠しておりましたもの。絶対に誰にも気づかれてはならないと心に誓っておりました。お母様が怪我に気づかず叱ってくれた時、私、心から安堵したのです」
「ああ、アリシア…」
「ごめんなさい、お母様」
後悔に泣き崩れる母へアリシアは心から詫びた。
「私のせいです。本当に申し訳ありませんでした」
「ジェーンに非はない。悪いのはすべてデミオンだ」
傍で聞いていたジェーンがオレリアへ頭を下げるのをアダムが止めた。
「だがわからないことがある。アリシアがいくら隠したとしても、怪我をしているのを邸の者が誰も気づかないはずがない。なぜ誰も気づかなかったのか」
アリシアの体がまた震える。
アリシアは先ほど話をした時、マリアンのことは話さなかった。
あの時はそのことまで話す必要がなかった。レオナルドもそのことには触れていない。
だけどアダムやオレリアが不審に思わないはずがない。
「アリシア?」
アダムに呼びかけられて、無意識に俯いていたアリシアは顔を上げた。
「私が…、私がマリアンに事情を話し、協力を頼みました。マリアンは私の命を受けて他の者に気づかれないよう動いてくれました」
「ーーマリアンは知っていたのか」
「そういえばマリアンが不可解なことをしていた時期がありましたわ」
オレリアもアリシアが一時期マリアンにしか身の回りの世話をさせなかったことを思い出した。
他にもおかしかったことはある。
あの頃アリシアは、いつもは自分で持つような学生鞄を馬車に乗るまでマリアンに持たせていたり、自室の扉でさえマリアンに開けさせていた。
箱入り娘のアリシアだが、普通であればそれくらいのことは自分でする。
するように躾けている。
それなのにマリアンが代わりにしていたのは、アリシアが極力腕を使わずに済むよう気を使っていたのだ。
「お願いです、お父様。マリアンに罰を与えないで下さい。マリアンは私の命令に従っただけなのです」
その言葉を聞いてはっとしたオレリアはアダムの顔を見た。
マリアンの雇用主はアダムである。
アダムもオレリアもマリアンを信頼してアリシア付きの侍女にしていた。
アリシアの身に起きた異変を報告しなかったというのは重大な背信行為なのだ。
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