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2章
80 マリアンの処遇②
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「お願いします、お父様」
震える娘の声にアダムは顔を背けた。
「…これがどういうことかはおまえにもわかっているだろう」
「…わかっています」
そしてマリアンも、事が露見すれば厳しい罰を受けると知っていた。
それをわかっていながら協力してくれた。
「…退職金は出す」
「お父様!!」
「叔父様、私からもお願い致します。マリアンがしたことの原因は私にあります。マリアンはいつもそうしてアリシア様を、そして私を助けてくれました」
「…私からもお願い致しますわ」
「…オレリア?」
ジェーンがマリアンを庇うのは理解できる。
だけど先ほどのオレリアは、アリシアの怪我をこれまで知らなかったことに酷いショックを受けていた。
それはマリアンが報告しなかったからだ。
「…マリアンは確かに報告の義務を怠りました。ですがマリアンは誰もやりたがらないような仕事もしてくれています。あれも忠義の一つでしょう。これもそうです。その気持ちを汲んでやりたいのです」
オレリアとアダムが強い眼差しで見つめ合う。
「そなたの言うこともわかる。だが信用できない者をこのまま雇い続けることはできない」
レイヴンは苦しい顔をしながらも、解雇を告げたアダムの気持ちが良くわかった。
アリシアは公爵令嬢であるだけでなく、レイヴンの婚約者でもあった。
その身の安全は一番に守られなければならない。
アリシアの身に起きた異変をいち早く報告すること。
それが一番身近にいるマリアンに課せられた最も重要な責務だったのだ。
だけどアダムはジェーンの為にすべてを隠し通すと決めたアリシアの決断を理解し、受け入れている。
その為にはマリアンの協力が必要不可欠であったことも理解している。
だからアダムはただ解雇するのではなく、退職金を出すと言っているのだ。
だけどこれは決して軽い罰ではない。
公爵家の家令が紹介状を書くことはないだろう。
普通であれば仕事を辞める時に紹介状が渡される。
紹介状は次の仕事を探す時に必要になる者だ。
それを書いて貰えないということは、それだけの事情があると察せられる。
そんな信用できない者を雇う家はない。
貴族の邸で働くことは二度とできないだろう。
マリアンの実家がどんなところかは知らないが、公爵の怒りを買った娘に家族は優しいだろうか。
邪魔にされて追い出されたら、後は坂道を転がり落ちるだけだ。
レイヴンも王宮でアリシアにつけている侍女たちへ、アリシアに何かあればすぐに知らせるよう厳命している。
もし侍女たちがアリシアの身に起きた事故をすぐに報告しなければ、レイヴンは即刻解雇するだろう。
その者がその後どうなろうと知ったことではない。
だけどマリアンのことはアリシアの為に必ず守ると決めている。
「公爵。これは公爵家のことと理解している。そこに口を出すのは申し訳ないと思う。だがこれは僕の妃の願いだ。それを理解して欲しい」
アダムを見据えたレイヴンがそう言うと、アダムは息を飲んだ。
これは公爵家令嬢アリシアの願いではない。
王太子妃の願いなのだ。
レイヴンにそう言われてしまえばアダムは受け入れるしかない。
「…マリアンには変わらず勤めてもらいましょう」
レイヴンは権力を笠に着て他家の内政に干渉するような人ではないと知っているアリシアは驚いていた。
レイヴンの顔を窺うと、その表情が泣きそうなものに変わる。
「こんなことしかできなくてごめんね」
その言葉でアリシアは、先ほど何度も繰り返されていた「大丈夫だよ」という声を思い出した。
レイヴンはアリシアの為に普段なら決してしないことをしてくれているのだ。
「ありがとうございます」
アリシアは体の力を抜き、レイヴンの肩口に頬を寄せた。
アリシアを抱き寄せるレイヴンの腕に力がこもった。
震える娘の声にアダムは顔を背けた。
「…これがどういうことかはおまえにもわかっているだろう」
「…わかっています」
そしてマリアンも、事が露見すれば厳しい罰を受けると知っていた。
それをわかっていながら協力してくれた。
「…退職金は出す」
「お父様!!」
「叔父様、私からもお願い致します。マリアンがしたことの原因は私にあります。マリアンはいつもそうしてアリシア様を、そして私を助けてくれました」
「…私からもお願い致しますわ」
「…オレリア?」
ジェーンがマリアンを庇うのは理解できる。
だけど先ほどのオレリアは、アリシアの怪我をこれまで知らなかったことに酷いショックを受けていた。
それはマリアンが報告しなかったからだ。
「…マリアンは確かに報告の義務を怠りました。ですがマリアンは誰もやりたがらないような仕事もしてくれています。あれも忠義の一つでしょう。これもそうです。その気持ちを汲んでやりたいのです」
オレリアとアダムが強い眼差しで見つめ合う。
「そなたの言うこともわかる。だが信用できない者をこのまま雇い続けることはできない」
レイヴンは苦しい顔をしながらも、解雇を告げたアダムの気持ちが良くわかった。
アリシアは公爵令嬢であるだけでなく、レイヴンの婚約者でもあった。
その身の安全は一番に守られなければならない。
アリシアの身に起きた異変をいち早く報告すること。
それが一番身近にいるマリアンに課せられた最も重要な責務だったのだ。
だけどアダムはジェーンの為にすべてを隠し通すと決めたアリシアの決断を理解し、受け入れている。
その為にはマリアンの協力が必要不可欠であったことも理解している。
だからアダムはただ解雇するのではなく、退職金を出すと言っているのだ。
だけどこれは決して軽い罰ではない。
公爵家の家令が紹介状を書くことはないだろう。
普通であれば仕事を辞める時に紹介状が渡される。
紹介状は次の仕事を探す時に必要になる者だ。
それを書いて貰えないということは、それだけの事情があると察せられる。
そんな信用できない者を雇う家はない。
貴族の邸で働くことは二度とできないだろう。
マリアンの実家がどんなところかは知らないが、公爵の怒りを買った娘に家族は優しいだろうか。
邪魔にされて追い出されたら、後は坂道を転がり落ちるだけだ。
レイヴンも王宮でアリシアにつけている侍女たちへ、アリシアに何かあればすぐに知らせるよう厳命している。
もし侍女たちがアリシアの身に起きた事故をすぐに報告しなければ、レイヴンは即刻解雇するだろう。
その者がその後どうなろうと知ったことではない。
だけどマリアンのことはアリシアの為に必ず守ると決めている。
「公爵。これは公爵家のことと理解している。そこに口を出すのは申し訳ないと思う。だがこれは僕の妃の願いだ。それを理解して欲しい」
アダムを見据えたレイヴンがそう言うと、アダムは息を飲んだ。
これは公爵家令嬢アリシアの願いではない。
王太子妃の願いなのだ。
レイヴンにそう言われてしまえばアダムは受け入れるしかない。
「…マリアンには変わらず勤めてもらいましょう」
レイヴンは権力を笠に着て他家の内政に干渉するような人ではないと知っているアリシアは驚いていた。
レイヴンの顔を窺うと、その表情が泣きそうなものに変わる。
「こんなことしかできなくてごめんね」
その言葉でアリシアは、先ほど何度も繰り返されていた「大丈夫だよ」という声を思い出した。
レイヴンはアリシアの為に普段なら決してしないことをしてくれているのだ。
「ありがとうございます」
アリシアは体の力を抜き、レイヴンの肩口に頬を寄せた。
アリシアを抱き寄せるレイヴンの腕に力がこもった。
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