112 / 697
2章
82 慟哭②
しおりを挟む
「レイヴン様、どうなさったのですか?」
アリシアが問いかけると「何でもないよ」とレイヴンは答える。
だけどその言葉が嘘であることは、アリシアにも容易にわかった。
「レイヴン様、私を見てくださいませ」
アリシアは目元を覆っていたタオルを外すとレイヴンの瞳を見つめた。
レイヴンが戸惑っているのがわかる。
そんなレイヴンを見つめながら、アリシアはふわりと笑った。
「侍女たちが噂していることは知っています。状況を考えるとそれは仕方のないことです。ですがそれも少しの間だけのこと。デミオン殿とアンジュの処罰が終われば皆真実を知るのですから。そんなにお気になさらないでください」
「ありがとう。アリシアは優しいね」
レイヴンはアリシアの手を取るとそっと口づけた。
「僕はアリシアに酷いことをしてきたんだとやっとわかったよ」
「…レイヴン様?」
「学生時代の僕がジェーンを想っているという噂。僕はアリシアがそれを信じているとは思ってなかったんだ」
「それは…何年も前のことですわ。気になさらないで」
「そうじゃない。そうじゃないんだ…」
レイヴンが肩を震わせる。
泣いているような声にアリシアは戸惑った。
「アリシアが僕を愛していないことはわかっている。アリシアが婚約者になった時に告げた言葉を後悔しているのにずっと謝れなかった。もっと仲良くなりたい、一緒にいたいと思っていたのに、謝れないから何も言えなかった。僕が悪いとわかっているのに、いつかは僕の気持ちに気づいてくれるんじゃないかと、夫婦になれば自然と関係が改善されるんじゃないかと勝手な希望を持っていた。だけどそんなはずはない。あんな態度を取り続けた婚約者を、夫となったからと愛せるはずがない。そんなことにも僕は今まで気がつかなかった」
「レイヴン様?なにを仰っているのです?」
アリシアが戸惑っているのが伝わってくる。
だけどレイヴンはもう止められなかった。
「アリシアはジョッシュ殿のジェーン嬢への態度に怒っているよね?」
「はい、それは勿論ですわ」
「僕がアリシアへ取っていた態度は、ジョッシュ殿と同じものだ」
レイヴンはアリシアの手をぎゅっと握った。
「僕はアリシアに贈り物を何もしなかった」
「頂いていましたわ。私の好きなものを考えてくださったのでしょう?」
アリシアの好きなものがわからずにお菓子やお茶、花束などの後に残らないようなものしか贈れなかったと、以前哀しそうに話してくれていた。本当は他にも用意してくれたものがあったのだと教えてくれた。
それにはとても驚いたけれど、とても嬉しいことだった。
「お菓子やお茶なんて誕生日に贈るものじゃないよ。ただの訪問時にでも手土産にするものだ。それに婚約者が贈り物をするのは誕生日だけじゃない。アリシアは何度も僕のパートナーとして夜会や舞踏会に出てくれたのに、僕は何も贈らなかった」
確かにドレスや装飾品は、「好きに買って支払いを王家にまわしてくれれば良い」と言われていたが、レイヴンから贈られたことはなかった。
だけどそれもレイヴンがアリシアの好みを知らなかったからだ。
学園の卒業式で着るドレスや装飾品はアリシアの好みを考えなくて良かったから贈ることができたのだと、これもレイヴンが哀しそうに言っていた。
アリシアが問いかけると「何でもないよ」とレイヴンは答える。
だけどその言葉が嘘であることは、アリシアにも容易にわかった。
「レイヴン様、私を見てくださいませ」
アリシアは目元を覆っていたタオルを外すとレイヴンの瞳を見つめた。
レイヴンが戸惑っているのがわかる。
そんなレイヴンを見つめながら、アリシアはふわりと笑った。
「侍女たちが噂していることは知っています。状況を考えるとそれは仕方のないことです。ですがそれも少しの間だけのこと。デミオン殿とアンジュの処罰が終われば皆真実を知るのですから。そんなにお気になさらないでください」
「ありがとう。アリシアは優しいね」
レイヴンはアリシアの手を取るとそっと口づけた。
「僕はアリシアに酷いことをしてきたんだとやっとわかったよ」
「…レイヴン様?」
「学生時代の僕がジェーンを想っているという噂。僕はアリシアがそれを信じているとは思ってなかったんだ」
「それは…何年も前のことですわ。気になさらないで」
「そうじゃない。そうじゃないんだ…」
レイヴンが肩を震わせる。
泣いているような声にアリシアは戸惑った。
「アリシアが僕を愛していないことはわかっている。アリシアが婚約者になった時に告げた言葉を後悔しているのにずっと謝れなかった。もっと仲良くなりたい、一緒にいたいと思っていたのに、謝れないから何も言えなかった。僕が悪いとわかっているのに、いつかは僕の気持ちに気づいてくれるんじゃないかと、夫婦になれば自然と関係が改善されるんじゃないかと勝手な希望を持っていた。だけどそんなはずはない。あんな態度を取り続けた婚約者を、夫となったからと愛せるはずがない。そんなことにも僕は今まで気がつかなかった」
「レイヴン様?なにを仰っているのです?」
アリシアが戸惑っているのが伝わってくる。
だけどレイヴンはもう止められなかった。
「アリシアはジョッシュ殿のジェーン嬢への態度に怒っているよね?」
「はい、それは勿論ですわ」
「僕がアリシアへ取っていた態度は、ジョッシュ殿と同じものだ」
レイヴンはアリシアの手をぎゅっと握った。
「僕はアリシアに贈り物を何もしなかった」
「頂いていましたわ。私の好きなものを考えてくださったのでしょう?」
アリシアの好きなものがわからずにお菓子やお茶、花束などの後に残らないようなものしか贈れなかったと、以前哀しそうに話してくれていた。本当は他にも用意してくれたものがあったのだと教えてくれた。
それにはとても驚いたけれど、とても嬉しいことだった。
「お菓子やお茶なんて誕生日に贈るものじゃないよ。ただの訪問時にでも手土産にするものだ。それに婚約者が贈り物をするのは誕生日だけじゃない。アリシアは何度も僕のパートナーとして夜会や舞踏会に出てくれたのに、僕は何も贈らなかった」
確かにドレスや装飾品は、「好きに買って支払いを王家にまわしてくれれば良い」と言われていたが、レイヴンから贈られたことはなかった。
だけどそれもレイヴンがアリシアの好みを知らなかったからだ。
学園の卒業式で着るドレスや装飾品はアリシアの好みを考えなくて良かったから贈ることができたのだと、これもレイヴンが哀しそうに言っていた。
20
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる