【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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2章

109 男爵令嬢と侯爵夫人③

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「デミオン殿はアンジュ殿に女神のままでいて欲しかった。つまりは自分にとって都合の良い存在でいて欲しかったのよ。アンジュ殿が社交界で嗤われて馬鹿にされ、どれだけ惨めな思いをしていても、デミオン殿は自分の望みを優先したの。その状況を改善するにはどうすれば良いのか知っていたのにね」

 アンジュの視界の中でデミオンが何かを言っていた。
 だけどアンジュにはその言葉が聞こえなかった。アンジュの中で何かが壊れていく。

 アンジュはエミリーがジェーンの物を奪っているのを知っていた。
 アンジュやデミオンに取り入りたい侍女がジェーンへ食事を運ばず、食事を抜くことになっていたのも知っていた。
 エミリーが幼い頃からジェーンの婚約者へ嘘を吹き込んでいたのも知っていた。

 それらを止めなかったのは嫉妬していたからだ。

 愛のない結婚とはいえ、デミオンの正妻になったのはサンドラだった。
 デミオンは何度も何度もアンジュに謝り、「愛しているのはアンジュだけだ」と言っていたけれど、世間の人に『愛人』と呼ばれたのはアンジュだった。
 デミオンはサンドラを愛していないと言いながら、サンドラを抱いてジェーンが生まれた。
 ジェーンを見ているとデミオンがサンドラを抱いている情景が目に浮かぶ。

 義母であるはずのルトビア前公爵夫人も全くアンジュを認めてくれなかった。
 アンジュが生んだエミリーに優しい言葉を掛けてくれたこともない。
 前公爵夫人が孫として可愛がるのはジェーンだけだ。

 前公爵夫人がジェーンへ贈ったものをエミリーが欲しがる。
 エミリーは祖母から何かを贈られたことがないのだから当然だ。
 だけどいつもは何も言わないデミオンが、前公爵夫人から贈られたものをエミリーが欲しがった時だけ「駄目だ」と言う。

『なんであの女の子どもを庇うのよ!本当はあの女を愛しているんでしょう!!あの女が生んだ子どもの方が可愛いのよ!!』

 何度そう言って泣き喚いたかわからない。
 そう言って責めるとデミオンが何も言えなくなるのを知っていた。
 それがまた真実の様に思えた。

 ジェーンが憎くて憎くて堪らない――。

 ある時、感情に任せて目の前のジェーンに平手打ちをした。
 食事を抜かれることもあるジェーンは軽く、アンジュの力でも吹っ飛んだ。
 アンジュは壁に叩きつけられたジェーンを見て酷く動揺した。
 だけど同時に――とてもすっきりとした。
 これまで抱えてきたサンドラへの醜い感情が晴れていくようだった。

 それからはイライラが募るたびにジェーンを殴るようになった。
 毎日殴るようになるまで時間は掛からない。公爵家の人間に知られては面倒なので服に隠れる場所を意図的に選んで殴っていた。

 1度はバレて二度としないと誓わされた。
 次にバレたら生活ができなくなるとデミオンに言われ、受け入れるしかなかった。
 侯爵家の惨状は理解していたから。

 それでも結婚式が近づくとまた我慢ができなくなった。
 デミオンはジェーンの父親として結婚式に参列する。
 デミオンが父親と言うことは――サンドラを抱いたということだ。

 当たり前のことなのに胸が灼ける。
 許せない、許せない――っ!!!!


「あなたに同情するところもある。だけど許すわけじゃない。あなたはサンドラ殿との結婚を決めたデミオン殿と別れることもできたのだから」

 アリシアの声が聞こえて、のろのろと声のする方へ顔を向けた。
 冷たい顔のアリシアがアンジュを見ていた。




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