【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
146 / 697
3章

1 夜

しおりを挟む
 晩餐を終えた後、アリシアはレイヴンと自室へ戻って来た。
 紫色のドレスから晩餐用のドレスへと着替えている。
 特別な色のドレスを着ることができるのは嬉しさもあったけれど、着ている間中気が張り詰めていて疲れてしまった。普段のドレスに着替えた途端ホッとして力が抜けるのを感じていた。

「試すようなことをして申し訳ありませんでした」

 アリシアはそっと人払いをし、侍女たちがすべて退室したのを確認してからレイヴンへ頭を下げた。
 晩餐の間は常に給仕の者がいるので、こんな話はできなかったのだ。

「アリシアにしてはおかしな頼み事だから、何か考えがあるんだと思ってたよ」

 レイヴンが柔らかく笑う。

「それより僕は、アリシアの我儘が聞けて嬉しかったな。アリシアのお願い事を聞いたのは、これが初めてだ」

 穏やかな顔のレイヴンを見ているとアリシアは申し訳ないような、哀しいような気持ちが込み上げてきた。

 レイヴンがソファに座る。
 レイヴンはもうアリシアを膝に乗せようとしないと知っているので、アリシアは自分からレイヴンの膝に座った。
 思いがけない行動にレイヴンが目を丸くする。
 アリシアは気にせずにレイヴンの胸へ顔を寄せた。

「アリシア…」

 レイヴンが戸惑った声を出す。

 レイヴンはこの数日、アリシアを膝に乗せたり頬や額に口づけたりという過剰なことをしなくなっていた。
 それはアリシアがレイヴンを嫌っているかもしれないと思っているからだ。嫌いな相手に触れられるのは苦痛だろうと気をまわしている。

「…私が嫌になりましたか?」

「そんなはずはない!僕がアリシアを嫌になることなんて、絶対にないよ!!」

「良かった…」

 アリシアが微笑む。

「私がレイヴン様を嫌になることもありませんわ。これまでのことはお互い様でしょう。私も似たような態度でした」

「それは僕が、あんなことを言ったから…」

「レイヴン様、もうやめましょう?」

 アリシアが上目遣いに見上げて言うと、レイヴンは感に堪えないというようにアリシアをぎゅうぎゅうと抱き締める。
 気持ちは伝わったようだ。

 2人の前には部屋を出ていく前にエレノアが入れてくれた紅茶と苺が用意されている。
 アリシアはフォークを使わず苺をつまむ。
 行儀が悪いが、レイヴンは咎めない。

「レイヴン様が取り寄せて下さったのね」

「うん。アリシアが何かを食べたいって言うのは初めてだったから」

 アリシアがこれまでレイヴンに望んだことは、側妃候補を選ぶことだけだった。
 アリシアが苺を口に含むのをレイヴンは幸せな気持ちで見守った。

「レイヴン様も食べてくださいませ」

 可愛く頼まれて、レイヴンも苺をつまむ。
 公式な場では手でつまんで食べたりしない。アリシアもやっとここがプライベートな場所なのだと認識してくれたようだ。
 嬉しくなったレイヴンがアリシアの額に口づける。

「…嫌?」

 訊かれてアリシアは緩く首を振った。途端に額、こめかみ、両頬へと口づけられる。
 最後に少し躊躇った後、レイヴンはアリシアの唇に口づけた。
 アリシアは驚いて目を開く。
 寝室以外の場所で唇に口づけられたことはほとんどない。
 だけどレイヴンはもう「嫌?」とは訊かなかった。

 何度も何度も軽い口づけを繰り返す。
 その内下唇に吸いつかれた。
 驚いて少し口を開くと次は舌が入ってくる。

「んっ…うぅん…っ」

 小さな声が漏れる。
 それを何度も繰り返し、息が苦しくなったところでレイヴンが囁いた。

「今日…最後までしてもいい?」

 懇願するような声だ。
 泣きながら抱き合って眠ったあの日から、レイヴンはアリシアを抱いていない。
 それもアリシアに嫌われているかもしれないと恐れていたからだった。
 だからアリシアはレイヴンの胸に顔を寄せてぎゅうと抱きつき、小さく頷いた。

「ああ…っ!アリシア!アリシア…っ!!」

 抱き着いたアリシアをレイヴンが強く抱き締める。
 そのまままた何度も口づけられる。回数を重ねる度に口づけが深くなっていく。
 このままではここで最後まで至ってしまいそうだ。

「レ、レイヴン様…」

 口づけの合間にアリシアは必死でレイヴンから身を離した。
 2人ともすっかり息が上がってしまっている。

「準備を、して参りますわ。湯浴みをして身を整えます」

 そう言うとレイヴンは名残惜しそうにしながらも腕を離してくれた。
 人払いを解いた覚えもないのに、エレノアがさっと現れてアリシアを浴室へと連れて行く。
 背中にレイヴンの強い視線を感じていた。

 その日の夜がいつになく激しいものになったのは言うまでもない。





しおりを挟む
感想 441

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...