159 / 697
3章
14 研修の始まり①
しおりを挟む
「疲れた…」
お茶会の日から数日後の休憩時間。レイヴンはいつもの様にアリシアの部屋を訪れていた。
アリシアを膝に乗せている。
この座り方も2人の間ですっかり定着してしまった。
あの日予定外にお茶会へ参加したレイヴンは、その皺寄せが来ているらしく本当に忙しそうだ。
それでもレイヴンは休憩時間になると必ずアリシアに会いに来ていた。
お茶会のことを思い出してアリシアは嫌な気持ちになった。
思い出す度に何故か嫌な気持ちになるのだ。
だからアリシアは意識してあの日のことを考えない様にしていた。
レイヴンが甘えるようにアリシアの肩口に頭を寄せる。
これは「撫でて」の合図だ。
本当のところはわからないが、アリシアはそう思うことにしている。
さらさらの髪に指を絡めて頭を撫でると、レイヴンが幸せそうに頬を緩めた。
そうしてレイヴンが至福の時に浸っていると、扉を叩く音がして来客が告げられる。
訪ねてきたのはジェーンだ。
レイヴンは渋々アリシアを膝から降ろした。
「まあ、ジェーン!」
「お久しぶりです、殿下、妃殿下」
微笑むジェーンをアリシアは喜んで招き入れた。
以前に比べて随分顔色が良い。
食べる物も着る物も心配しなくて良いので安心して生活をしているようだ。
「この度は色々と力になっていただき、ありがとうございました。改めてお礼を申し上げます」
ソファに座ったジェーンがアリシアとレイヴンへ頭を下げる。
テーブルには3人分のお茶とチェリーパイが置かれていた。
「本当に上手く解決できて良かったわ」
「研修の状況は聞いているけれど、座学については流石の出来だと褒めていたよ」
使節団の研修についてはレイヴンに報告されることになっている。
ジェーンが研修に参加してまだ半月程しか経ってないが、既にジェーンの知識は元から研修に参加している者たちに追いついていた。
だけどやはりジェーンの存在を快く思わない者はいるもので、ひと悶着あったことも聞いている。
それを告げるとジェーンは楽しそうに笑った。
「元から予想していたことですもの。なんともありませんわ」
そう言って笑うジェーンは新たに定められた研修用の制服を着ている。
彼らは途中参加のジェーンが特別待遇を受けていることが気に入らなかった。
ジェーンの為に作られた制服も、ジェーンだけがダンスや礼儀作法の授業を受けていないのも気に入らない。
免除されているわけではなく、怪我が治った後に受けるのだと説明されていたが、そもそもその怪我も大したことのない怪我を大袈裟に騒いでいるだけだと思っていた。
普通の令嬢は怪我を負うようなことはしない。
だから小さな怪我でも大袈裟に騒いで大事にする。
令嬢とはそういうものだ。
彼らはそう思っていて、それはあながち間違いではない。
だからジェーンは彼らが陰口を言うだけで直接絡んでこないならば放っておこうと思っていた。
だけど結局彼らは何を言われても平気な顔をしているジェーンが気に入らず、直接絡んできたのだ。
彼らはジェーンが使節団に加入する際にデミオンとアンジュが処罰を受けたことを知っている。
あの処罰は大々的に行われたわけではないが、ジェーンが使節団に加入することが公示され、ジョッシュとの結婚式が花嫁を入れ替えて行われることがわかると、その話はあっという間に広がった。
その前にジェーンの懐妊疑惑があったことも大きいのだろう。
ジェーンが座る机を数人の男が囲んだ。
他の者たちも興味深げに見ていて止めるつもりはないらしい。
彼らは、「大したことのない怪我で両親を嵌めた悪女がいるらしい。その悪女は王太子の情婦だから好き勝手しているのだ」と、悪意に満ちた顔で話し掛けて来た。
それにジェーンは、「体中に傷がある女が王太子殿下の情婦になれるとは思えませんが」と冷静に答える。
そんなやり取りをしている内に激高した男が、「そんなに酷い怪我なら見せてみろ!」と怒鳴った。
「ええ構いませんよ」
そう言うと、ジェーンは制服の両袖をするすると肘まで捲った。
簡素なワンピースだけに簡単に捲れるのだ。
お茶会の日から数日後の休憩時間。レイヴンはいつもの様にアリシアの部屋を訪れていた。
アリシアを膝に乗せている。
この座り方も2人の間ですっかり定着してしまった。
あの日予定外にお茶会へ参加したレイヴンは、その皺寄せが来ているらしく本当に忙しそうだ。
それでもレイヴンは休憩時間になると必ずアリシアに会いに来ていた。
お茶会のことを思い出してアリシアは嫌な気持ちになった。
思い出す度に何故か嫌な気持ちになるのだ。
だからアリシアは意識してあの日のことを考えない様にしていた。
レイヴンが甘えるようにアリシアの肩口に頭を寄せる。
これは「撫でて」の合図だ。
本当のところはわからないが、アリシアはそう思うことにしている。
さらさらの髪に指を絡めて頭を撫でると、レイヴンが幸せそうに頬を緩めた。
そうしてレイヴンが至福の時に浸っていると、扉を叩く音がして来客が告げられる。
訪ねてきたのはジェーンだ。
レイヴンは渋々アリシアを膝から降ろした。
「まあ、ジェーン!」
「お久しぶりです、殿下、妃殿下」
微笑むジェーンをアリシアは喜んで招き入れた。
以前に比べて随分顔色が良い。
食べる物も着る物も心配しなくて良いので安心して生活をしているようだ。
「この度は色々と力になっていただき、ありがとうございました。改めてお礼を申し上げます」
ソファに座ったジェーンがアリシアとレイヴンへ頭を下げる。
テーブルには3人分のお茶とチェリーパイが置かれていた。
「本当に上手く解決できて良かったわ」
「研修の状況は聞いているけれど、座学については流石の出来だと褒めていたよ」
使節団の研修についてはレイヴンに報告されることになっている。
ジェーンが研修に参加してまだ半月程しか経ってないが、既にジェーンの知識は元から研修に参加している者たちに追いついていた。
だけどやはりジェーンの存在を快く思わない者はいるもので、ひと悶着あったことも聞いている。
それを告げるとジェーンは楽しそうに笑った。
「元から予想していたことですもの。なんともありませんわ」
そう言って笑うジェーンは新たに定められた研修用の制服を着ている。
彼らは途中参加のジェーンが特別待遇を受けていることが気に入らなかった。
ジェーンの為に作られた制服も、ジェーンだけがダンスや礼儀作法の授業を受けていないのも気に入らない。
免除されているわけではなく、怪我が治った後に受けるのだと説明されていたが、そもそもその怪我も大したことのない怪我を大袈裟に騒いでいるだけだと思っていた。
普通の令嬢は怪我を負うようなことはしない。
だから小さな怪我でも大袈裟に騒いで大事にする。
令嬢とはそういうものだ。
彼らはそう思っていて、それはあながち間違いではない。
だからジェーンは彼らが陰口を言うだけで直接絡んでこないならば放っておこうと思っていた。
だけど結局彼らは何を言われても平気な顔をしているジェーンが気に入らず、直接絡んできたのだ。
彼らはジェーンが使節団に加入する際にデミオンとアンジュが処罰を受けたことを知っている。
あの処罰は大々的に行われたわけではないが、ジェーンが使節団に加入することが公示され、ジョッシュとの結婚式が花嫁を入れ替えて行われることがわかると、その話はあっという間に広がった。
その前にジェーンの懐妊疑惑があったことも大きいのだろう。
ジェーンが座る机を数人の男が囲んだ。
他の者たちも興味深げに見ていて止めるつもりはないらしい。
彼らは、「大したことのない怪我で両親を嵌めた悪女がいるらしい。その悪女は王太子の情婦だから好き勝手しているのだ」と、悪意に満ちた顔で話し掛けて来た。
それにジェーンは、「体中に傷がある女が王太子殿下の情婦になれるとは思えませんが」と冷静に答える。
そんなやり取りをしている内に激高した男が、「そんなに酷い怪我なら見せてみろ!」と怒鳴った。
「ええ構いませんよ」
そう言うと、ジェーンは制服の両袖をするすると肘まで捲った。
簡素なワンピースだけに簡単に捲れるのだ。
10
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
すれ違いのその先に
ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。
彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。
ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。
*愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる