【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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3章

14 研修の始まり①

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「疲れた…」

 お茶会の日から数日後の休憩時間。レイヴンはいつもの様にアリシアの部屋を訪れていた。
 アリシアを膝に乗せている。
 この座り方も2人の間ですっかり定着してしまった。

 あの日予定外にお茶会へ参加したレイヴンは、その皺寄せが来ているらしく本当に忙しそうだ。
 それでもレイヴンは休憩時間になると必ずアリシアに会いに来ていた。

 お茶会のことを思い出してアリシアは嫌な気持ちになった。
 思い出す度に何故か嫌な気持ちになるのだ。
 だからアリシアは意識してあの日のことを考えない様にしていた。

 レイヴンが甘えるようにアリシアの肩口に頭を寄せる。
 これは「撫でて」の合図だ。
 本当のところはわからないが、アリシアはそう思うことにしている。
 さらさらの髪に指を絡めて頭を撫でると、レイヴンが幸せそうに頬を緩めた。

 そうしてレイヴンが至福の時に浸っていると、扉を叩く音がして来客が告げられる。
 訪ねてきたのはジェーンだ。
 レイヴンは渋々アリシアを膝から降ろした。

「まあ、ジェーン!」

「お久しぶりです、殿下、妃殿下」

 微笑むジェーンをアリシアは喜んで招き入れた。
 以前に比べて随分顔色が良い。
 食べる物も着る物も心配しなくて良いので安心して生活をしているようだ。

「この度は色々と力になっていただき、ありがとうございました。改めてお礼を申し上げます」

 ソファに座ったジェーンがアリシアとレイヴンへ頭を下げる。
 テーブルには3人分のお茶とチェリーパイが置かれていた。

「本当に上手く解決できて良かったわ」

「研修の状況は聞いているけれど、座学については流石の出来だと褒めていたよ」
 
 使節団の研修についてはレイヴンに報告されることになっている。
 ジェーンが研修に参加してまだ半月程しか経ってないが、既にジェーンの知識は元から研修に参加している者たちに追いついていた。
 だけどやはりジェーンの存在を快く思わない者はいるもので、ひと悶着あったことも聞いている。
 それを告げるとジェーンは楽しそうに笑った。

「元から予想していたことですもの。なんともありませんわ」

 そう言って笑うジェーンは新たに定められた研修用の制服を着ている。
 彼らは途中参加のジェーンが特別待遇を受けていることが気に入らなかった。
 ジェーンの為に作られた制服も、ジェーンだけがダンスや礼儀作法の授業を受けていないのも気に入らない。
 免除されているわけではなく、怪我が治った後に受けるのだと説明されていたが、そもそもその怪我も大したことのない怪我を大袈裟に騒いでいるだけだと思っていた。

 普通の令嬢は怪我を負うようなことはしない。
 だから小さな怪我でも大袈裟に騒いで大事にする。
 令嬢とはそういうものだ。

 彼らはそう思っていて、それはあながち間違いではない。
 だからジェーンは彼らが陰口を言うだけで直接絡んでこないならば放っておこうと思っていた。

 だけど結局彼らは何を言われても平気な顔をしているジェーンが気に入らず、直接絡んできたのだ。

 彼らはジェーンが使節団に加入する際にデミオンとアンジュが処罰を受けたことを知っている。
 あの処罰は大々的に行われたわけではないが、ジェーンが使節団に加入することが公示され、ジョッシュとの結婚式が花嫁を入れ替えて行われることがわかると、その話はあっという間に広がった。
 その前にジェーンの懐妊疑惑があったことも大きいのだろう。

 ジェーンが座る机を数人の男が囲んだ。
 他の者たちも興味深げに見ていて止めるつもりはないらしい。
 彼らは、「大したことのない怪我で両親を嵌めた悪女がいるらしい。その悪女は王太子の情婦だから好き勝手しているのだ」と、悪意に満ちた顔で話し掛けて来た。
 それにジェーンは、「体中に傷がある女が王太子殿下の情婦になれるとは思えませんが」と冷静に答える。
 そんなやり取りをしている内に激高した男が、「そんなに酷い怪我なら見せてみろ!」と怒鳴った。

「ええ構いませんよ」

 そう言うと、ジェーンは制服の両袖をするすると肘まで捲った。
 簡素なワンピースだけに簡単に捲れるのだ。
 
 

 

 
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