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3章
15 研修の始まり②
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「大丈夫なの?」
アリシアの心配そうな問い掛けにジェーンは頷いた。
「疵があることを知られるまでは、何が何でも隠さなければと思っていました。あると知られた今は、もう隠さなくてもいいのだと気持ちが楽になりましたわ」
ジェーンの表情は穏やかだ。
ジェーンが袖を捲ると、囲んでいた男たちは息を飲んだ。うめき声を上げる者もいる。
ジェーンの両腕には至る所に痣があった。
痣に混ざり、デミオンに打たれた時の疵痕も残っている。
「他にもありますが、これでも淑女ですので、見せるのは腕だけでご容赦くださいね」
「…他の場所にも痣があるのか?」
「ええ、全身に」
あっさりと答えるジェーンに男たちは顔を引き攣らせた。
彼らは外交官という文官の職についているが、貴族の子息として一通り剣術は習っている。
学園でも男子生徒には剣術の授業があった。
彼らが受けていたのは騎士を目指している者が受けるような真剣な訓練ではなく、あくまで自身の身を守る為のものだ。
訓練では木刀を使っていたが、それなりには打ち込まれ、痣が出来ることは多々あった。
だからそれが歩く時や鞄を持つ時など、ちょっとしたことで痛むことを知っている。
その時でも彼らの身体にあったのはここまで酷い痣ではなかった。
「その…悪かった」
ジェーンに傷を見せろと怒鳴った男――ラウル・ファグラが頭を下げていた。
ファグラ伯爵家の次男である。
最も今は既に家を出て独立している。
1人が謝ると、他の者たちも次々と謝りだした。
興味深げにこちらを見ていた者たちは気まずそうに視線を逸らしている。
「ダンスや礼儀作法などの体を使う授業は怪我が治ってから集中して受けることになっています。私の所作が酷く、皆さまを不安にさせていることもわかっていますが、もうしばらく猶予をいただけませんか」
姿勢も礼儀作法もマナーもサンドラが死んだ後はルトビア公爵家で少し教えられただけだ。
祖母もオレリアも何とかしようと骨を折ってくれたが、本来何年も時間を掛けて積み重ねることを公爵邸に滞在する数日で身に着けられるはずがない。
自分の所作が拙いことはジェーンが1番よくわかっている。
「…その怪我を見たら、今はダンスなど無理だとわかるよ。悪かった。そんなに酷い怪我だとは思わなかったんだ」
謝るラウルの顔は歪んでいて、ラウルの方が痛みを感じているようだ。
ラウルの謝罪をジェーンは受け入れた。
「それを境に彼らの態度から悪意や刺々しさがなくなりました。今では空いた時間に彼らと雑談をすることもあるのです。彼らとなら上手くやっていけると思いますわ」
「そう。それなら良かったわ」
アリシアが安堵の息をつく。
レイヴンは不満そうだ。
ジェーンがレイヴンの情婦だと言われたのが不満なのだが、それをジェーンへ言っても仕方がない。
彼らはジェーンを攻撃する為に言ったことだが、他にもそれを信じている者はいるのだろうと思うとレイヴンはまた陰鬱な気分になるのだった。
「…お願いがあるのですが」
話がひと段落ついたところでジェーンが切り出した。
「図々しいお願いなのは承知しているのですが、研修を受けている間、時々こちらへ伺ってもよろしいでしょうか」
ジェーンの言葉にアリシアは目を瞬いた。
アリシアの心配そうな問い掛けにジェーンは頷いた。
「疵があることを知られるまでは、何が何でも隠さなければと思っていました。あると知られた今は、もう隠さなくてもいいのだと気持ちが楽になりましたわ」
ジェーンの表情は穏やかだ。
ジェーンが袖を捲ると、囲んでいた男たちは息を飲んだ。うめき声を上げる者もいる。
ジェーンの両腕には至る所に痣があった。
痣に混ざり、デミオンに打たれた時の疵痕も残っている。
「他にもありますが、これでも淑女ですので、見せるのは腕だけでご容赦くださいね」
「…他の場所にも痣があるのか?」
「ええ、全身に」
あっさりと答えるジェーンに男たちは顔を引き攣らせた。
彼らは外交官という文官の職についているが、貴族の子息として一通り剣術は習っている。
学園でも男子生徒には剣術の授業があった。
彼らが受けていたのは騎士を目指している者が受けるような真剣な訓練ではなく、あくまで自身の身を守る為のものだ。
訓練では木刀を使っていたが、それなりには打ち込まれ、痣が出来ることは多々あった。
だからそれが歩く時や鞄を持つ時など、ちょっとしたことで痛むことを知っている。
その時でも彼らの身体にあったのはここまで酷い痣ではなかった。
「その…悪かった」
ジェーンに傷を見せろと怒鳴った男――ラウル・ファグラが頭を下げていた。
ファグラ伯爵家の次男である。
最も今は既に家を出て独立している。
1人が謝ると、他の者たちも次々と謝りだした。
興味深げにこちらを見ていた者たちは気まずそうに視線を逸らしている。
「ダンスや礼儀作法などの体を使う授業は怪我が治ってから集中して受けることになっています。私の所作が酷く、皆さまを不安にさせていることもわかっていますが、もうしばらく猶予をいただけませんか」
姿勢も礼儀作法もマナーもサンドラが死んだ後はルトビア公爵家で少し教えられただけだ。
祖母もオレリアも何とかしようと骨を折ってくれたが、本来何年も時間を掛けて積み重ねることを公爵邸に滞在する数日で身に着けられるはずがない。
自分の所作が拙いことはジェーンが1番よくわかっている。
「…その怪我を見たら、今はダンスなど無理だとわかるよ。悪かった。そんなに酷い怪我だとは思わなかったんだ」
謝るラウルの顔は歪んでいて、ラウルの方が痛みを感じているようだ。
ラウルの謝罪をジェーンは受け入れた。
「それを境に彼らの態度から悪意や刺々しさがなくなりました。今では空いた時間に彼らと雑談をすることもあるのです。彼らとなら上手くやっていけると思いますわ」
「そう。それなら良かったわ」
アリシアが安堵の息をつく。
レイヴンは不満そうだ。
ジェーンがレイヴンの情婦だと言われたのが不満なのだが、それをジェーンへ言っても仕方がない。
彼らはジェーンを攻撃する為に言ったことだが、他にもそれを信じている者はいるのだろうと思うとレイヴンはまた陰鬱な気分になるのだった。
「…お願いがあるのですが」
話がひと段落ついたところでジェーンが切り出した。
「図々しいお願いなのは承知しているのですが、研修を受けている間、時々こちらへ伺ってもよろしいでしょうか」
ジェーンの言葉にアリシアは目を瞬いた。
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