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3章
20 医師との再会②
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ダンテは元々豪商の次男として生まれた。
貴族ではないが、実家の仕事柄幼少の頃から貴族との付き合いはそれなりにあった。
貴族の令嬢にとって肌に疵痕が残ることがどういうことかも知っている。
特にアリシアは王太子の婚約者だ。
あの時のアリシアに、傷の痛みとは別の恐怖があったことをダンテはよくわかっていた。
だけどアリシアがその痛みと恐怖を見せたのはマリアン1人だけだった。
そのマリアンも、仕えている家の令嬢の望みとはいえ、あの怪我を当主へ報告しないのは雇用主への重大な裏切りである。露見すれば重い処罰を受けるだろう。
マリアンは終始青い顔をしていたが、そこには主を裏切ることへの恐怖もあったはずだ。
だがそれでもマリアンは全てを飲み込み、アリシアの望みを叶えると決めた。
それが1番の被害者であるジェーンの望みを叶えることだと知っていたからだ。
ジェーンはあの後10日程は熱に浮かされ、ほとんど意識がないような状態だった。
熱が下がった後もしばらくは1人で座ることさえままならない。
それでもジェーンはそれを誰にも知らせようとせず、動けるようになると早々に元の生活に戻ろうとした。
それを諫めていたのはクレールだ。
「そんな状態で外へ出てもまともには動けませんよ。またおかしな噂になって侯爵家の評判を落とすだけです」
随分と厳しい事を言うと驚いたが、主人が間違ったことをしようとした時に諫めるのも家令の仕事なのだという。
それを聞いてしまえばクレールがデミオンを主人と認めたことはないのだろうと推察できた。
言われた側のジェーンもそれを理解していて大人しくベッドへ戻るのだ。
ダンテがアリシアたちと直接関わったのは、このひと月だけのことである。
それでもダンテがこの4人への敬意を抱くのに十分な時間だった。
「ダンテ殿、わたしからも礼を言いたい。其方の働きに心から感謝している」
続いてレイヴンからの謝礼を受けたダンテは「おや?」と思った。
アリシアとレイヴンを見比べてみると、アリシアは全てが上手く片付いたことですっきりした顔をしている。対してレイヴンの表情は辛そうであり、苦渋に満ちていた。
隣に座るアリシアが困ったような表情でレイヴンの手を取ると、レイヴンが苦しそうな顔のままアリシアを見る。
そんなレイヴンの気持ちがダンテにはなんとなくわかる気がした。
アリシアはあの日1人で大きな決断を下した。
アリシアを愛しているのであれば、蚊帳の外に置かれていたことが辛いだろう。
「殿下はダンテ殿が私の怪我を綺麗に治してくださったことを心から感謝しておられます」
その言葉にレイヴンも頷く。
「アリシアの治療をしてくれたのが其方で良かった。心からそう思っている」
その言葉に嘘はない。
レイヴンはアリシアの体に怪我の痕が残っていないことを心から喜んでいた。
アリシアの体に醜い疵痕があることを許せないわけではない。
もし疵痕が残っていたとしたら、アリシアが気に病むと知っているからだ。
「お役に立てたのなら何よりです。結果的にわたしはルトビア公爵様から多額の寄付をいただき、この病院を建てることができました。この付近には他に大きな病院が無く、以前は夜間に病人が出ても朝まで待つしかなかったのです。わたしはそれを変えたいと思っていました」
ダンテは多額の寄付をすべて病院の為に使っている。
当たり前のことのようだが、中には自身の懐に入れてしまう者もいるのだ。
それにダンテはあの出来事がアリシアやジェーンの弱点となることを知っていた。それを盾に金を強請ることもできたのだ。
あの時の、他の誰にも頼れないと思っていたアリシアなら、誰にも相談しないまま何とかお金を用意しようとしただろう。
だけどダンテは寄付金でさえ自ら求めたことはない。
「あの時クレールが呼んだのがあなたで本当に良かったわ」
アリシアがそう言うと、ダンテが苦笑した。
「おかげで侯爵家とはおかしな繋がりが出来てしまったようです」
「え?」
「先日3年ぶりに侯爵邸へ呼ばれたのですよ」
貴族ではないが、実家の仕事柄幼少の頃から貴族との付き合いはそれなりにあった。
貴族の令嬢にとって肌に疵痕が残ることがどういうことかも知っている。
特にアリシアは王太子の婚約者だ。
あの時のアリシアに、傷の痛みとは別の恐怖があったことをダンテはよくわかっていた。
だけどアリシアがその痛みと恐怖を見せたのはマリアン1人だけだった。
そのマリアンも、仕えている家の令嬢の望みとはいえ、あの怪我を当主へ報告しないのは雇用主への重大な裏切りである。露見すれば重い処罰を受けるだろう。
マリアンは終始青い顔をしていたが、そこには主を裏切ることへの恐怖もあったはずだ。
だがそれでもマリアンは全てを飲み込み、アリシアの望みを叶えると決めた。
それが1番の被害者であるジェーンの望みを叶えることだと知っていたからだ。
ジェーンはあの後10日程は熱に浮かされ、ほとんど意識がないような状態だった。
熱が下がった後もしばらくは1人で座ることさえままならない。
それでもジェーンはそれを誰にも知らせようとせず、動けるようになると早々に元の生活に戻ろうとした。
それを諫めていたのはクレールだ。
「そんな状態で外へ出てもまともには動けませんよ。またおかしな噂になって侯爵家の評判を落とすだけです」
随分と厳しい事を言うと驚いたが、主人が間違ったことをしようとした時に諫めるのも家令の仕事なのだという。
それを聞いてしまえばクレールがデミオンを主人と認めたことはないのだろうと推察できた。
言われた側のジェーンもそれを理解していて大人しくベッドへ戻るのだ。
ダンテがアリシアたちと直接関わったのは、このひと月だけのことである。
それでもダンテがこの4人への敬意を抱くのに十分な時間だった。
「ダンテ殿、わたしからも礼を言いたい。其方の働きに心から感謝している」
続いてレイヴンからの謝礼を受けたダンテは「おや?」と思った。
アリシアとレイヴンを見比べてみると、アリシアは全てが上手く片付いたことですっきりした顔をしている。対してレイヴンの表情は辛そうであり、苦渋に満ちていた。
隣に座るアリシアが困ったような表情でレイヴンの手を取ると、レイヴンが苦しそうな顔のままアリシアを見る。
そんなレイヴンの気持ちがダンテにはなんとなくわかる気がした。
アリシアはあの日1人で大きな決断を下した。
アリシアを愛しているのであれば、蚊帳の外に置かれていたことが辛いだろう。
「殿下はダンテ殿が私の怪我を綺麗に治してくださったことを心から感謝しておられます」
その言葉にレイヴンも頷く。
「アリシアの治療をしてくれたのが其方で良かった。心からそう思っている」
その言葉に嘘はない。
レイヴンはアリシアの体に怪我の痕が残っていないことを心から喜んでいた。
アリシアの体に醜い疵痕があることを許せないわけではない。
もし疵痕が残っていたとしたら、アリシアが気に病むと知っているからだ。
「お役に立てたのなら何よりです。結果的にわたしはルトビア公爵様から多額の寄付をいただき、この病院を建てることができました。この付近には他に大きな病院が無く、以前は夜間に病人が出ても朝まで待つしかなかったのです。わたしはそれを変えたいと思っていました」
ダンテは多額の寄付をすべて病院の為に使っている。
当たり前のことのようだが、中には自身の懐に入れてしまう者もいるのだ。
それにダンテはあの出来事がアリシアやジェーンの弱点となることを知っていた。それを盾に金を強請ることもできたのだ。
あの時の、他の誰にも頼れないと思っていたアリシアなら、誰にも相談しないまま何とかお金を用意しようとしただろう。
だけどダンテは寄付金でさえ自ら求めたことはない。
「あの時クレールが呼んだのがあなたで本当に良かったわ」
アリシアがそう言うと、ダンテが苦笑した。
「おかげで侯爵家とはおかしな繋がりが出来てしまったようです」
「え?」
「先日3年ぶりに侯爵邸へ呼ばれたのですよ」
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