174 / 697
3章
29 過保護①
しおりを挟む
「少し寒いね。部屋へ戻ろうか」
「あら、これくらい平気ですわ」
王宮の中庭となる庭園へ続く扉を開けたところでレイヴンが足を止めた。
アリシアが笑って答える。
確かに今日はここ最近に比べて曇っているし肌寒い。
だけど庭園を歩いていれば体は温まってくる。
庭園へ出ると何組かの貴婦人たちの姿が見えた。
貴婦人たちはこちらを窺いながら囁き合っている。
ジェーンのドレスを5着注文した。
同時にアリシアのドレスも注文している。
ジェーンのドレスを決めるだけでも長時間が掛かるのに、アリシアのドレスまで決めるのだから1日で終わるはずがない。結局ジェーンは次の休みもアリシアの部屋で過ごすことになった。
この時はアリシアだけでなくレイヴンも、休みを取って初めから参加していた。
普段ジェーンが訪ねて来ている時にレイヴンは同席しないようにしている。
それはジェーンの懐妊疑惑があったからで、レイヴンが軽く考えていた学生時代の噂が未だに尾を引いているとわかったからだ。
本当はジェーンの訪問も断った方が良かったのだ。
だけど今回は同席したことが良い結果をもたらした。
呼ばれたデザイナーたちは昔から公爵邸に出入りしていた者で、アリシアとジェーンの仲が良いことを知っている。
彼女たちは他の貴族の家に呼ばれる度に王宮へ呼ばれたことを話題にし、同時にアリシアとジェーンが今も仲良くしていること、レイヴンがジェーンの前でも構わずアリシアに愛情を注いていることを話して回ってくれている。
おかげでレイヴンがジェーンを想っているという噂は間違いであったと――少なくとも今は、もうその想いが残っていないのだということが新たな噂となって広まっていた。
それに良かったことはそれだけではない
「アリシアのドレスを一緒に選ぶの楽しかったな」
あの時のことを思い出すと自然に笑みが浮かぶ。
だけど反対に哀しくもなる。
「僕はね、一緒に夜会や舞踏会に出てくれるアリシアにドレスを用意したかった。だけど好みがわからないから贈ることができずに、好きなものを買ってもらって支払いだけでもって思ってた。アリシアはそれさえさせてくれなかったけどね」
表情を曇らせたレイヴンをアリシアが見つめる。
それは以前にも話してくれたことだ。
結婚する前は「好きなものを買って支払いは王家に」と言われていた。
だけどアリシアは公爵家の娘だ。王家に支払ってもらわなくても困らない。
「僕はアリシアの好みを知っていて、アリシアが喜ぶものを選べるレオが羨ましかった。レオがアリシアの好みを知っていたのは、ああして一緒に選んでいたからだね」
そうかもしれない。
レオナルドはジェーンの好みも知っている。
アリシアやジェーンがドレスを仕立てる時は大抵レオナルドも一緒にいた。そして大抵の場合、ジェーンをエスコートしていたのはレオナルドだ。
「僕は君たち4人の中に入りたいと思っていたんだ。今回初めて入ることができた。それがとても嬉しくて…、なんでもっと早くそうしなかったのかと悔やまれるよ」
「お兄様が、私たちは4人で固まり過ぎていたと言っていました。そういうことなのでしょうね」
アリシアたちがしていた夢の話もレイヴンは知らなかった。
だからひと時の遊びだと思わずに叶えてくれた。
「私たちの関係は変わってきていると思いますわ。少なくとも今は…、レイヴン様が私を愛してくださっていると信じています」
「アリシア!」
レイヴンがアリシアを抱き締めた、
遠巻きに様子を窺っていた者たちから「きゃあ!」という声が聞こえた。
「あら、これくらい平気ですわ」
王宮の中庭となる庭園へ続く扉を開けたところでレイヴンが足を止めた。
アリシアが笑って答える。
確かに今日はここ最近に比べて曇っているし肌寒い。
だけど庭園を歩いていれば体は温まってくる。
庭園へ出ると何組かの貴婦人たちの姿が見えた。
貴婦人たちはこちらを窺いながら囁き合っている。
ジェーンのドレスを5着注文した。
同時にアリシアのドレスも注文している。
ジェーンのドレスを決めるだけでも長時間が掛かるのに、アリシアのドレスまで決めるのだから1日で終わるはずがない。結局ジェーンは次の休みもアリシアの部屋で過ごすことになった。
この時はアリシアだけでなくレイヴンも、休みを取って初めから参加していた。
普段ジェーンが訪ねて来ている時にレイヴンは同席しないようにしている。
それはジェーンの懐妊疑惑があったからで、レイヴンが軽く考えていた学生時代の噂が未だに尾を引いているとわかったからだ。
本当はジェーンの訪問も断った方が良かったのだ。
だけど今回は同席したことが良い結果をもたらした。
呼ばれたデザイナーたちは昔から公爵邸に出入りしていた者で、アリシアとジェーンの仲が良いことを知っている。
彼女たちは他の貴族の家に呼ばれる度に王宮へ呼ばれたことを話題にし、同時にアリシアとジェーンが今も仲良くしていること、レイヴンがジェーンの前でも構わずアリシアに愛情を注いていることを話して回ってくれている。
おかげでレイヴンがジェーンを想っているという噂は間違いであったと――少なくとも今は、もうその想いが残っていないのだということが新たな噂となって広まっていた。
それに良かったことはそれだけではない
「アリシアのドレスを一緒に選ぶの楽しかったな」
あの時のことを思い出すと自然に笑みが浮かぶ。
だけど反対に哀しくもなる。
「僕はね、一緒に夜会や舞踏会に出てくれるアリシアにドレスを用意したかった。だけど好みがわからないから贈ることができずに、好きなものを買ってもらって支払いだけでもって思ってた。アリシアはそれさえさせてくれなかったけどね」
表情を曇らせたレイヴンをアリシアが見つめる。
それは以前にも話してくれたことだ。
結婚する前は「好きなものを買って支払いは王家に」と言われていた。
だけどアリシアは公爵家の娘だ。王家に支払ってもらわなくても困らない。
「僕はアリシアの好みを知っていて、アリシアが喜ぶものを選べるレオが羨ましかった。レオがアリシアの好みを知っていたのは、ああして一緒に選んでいたからだね」
そうかもしれない。
レオナルドはジェーンの好みも知っている。
アリシアやジェーンがドレスを仕立てる時は大抵レオナルドも一緒にいた。そして大抵の場合、ジェーンをエスコートしていたのはレオナルドだ。
「僕は君たち4人の中に入りたいと思っていたんだ。今回初めて入ることができた。それがとても嬉しくて…、なんでもっと早くそうしなかったのかと悔やまれるよ」
「お兄様が、私たちは4人で固まり過ぎていたと言っていました。そういうことなのでしょうね」
アリシアたちがしていた夢の話もレイヴンは知らなかった。
だからひと時の遊びだと思わずに叶えてくれた。
「私たちの関係は変わってきていると思いますわ。少なくとも今は…、レイヴン様が私を愛してくださっていると信じています」
「アリシア!」
レイヴンがアリシアを抱き締めた、
遠巻きに様子を窺っていた者たちから「きゃあ!」という声が聞こえた。
10
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
すれ違いのその先に
ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。
彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。
ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。
*愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる