【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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3章

29 過保護①

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「少し寒いね。部屋へ戻ろうか」

「あら、これくらい平気ですわ」

 王宮の中庭となる庭園へ続く扉を開けたところでレイヴンが足を止めた。
 アリシアが笑って答える。

 確かに今日はここ最近に比べて曇っているし肌寒い。
 だけど庭園を歩いていれば体は温まってくる。

 庭園へ出ると何組かの貴婦人たちの姿が見えた。
 貴婦人たちはこちらを窺いながら囁き合っている。

 ジェーンのドレスを5着注文した。
 同時にアリシアのドレスも注文している。
 ジェーンのドレスを決めるだけでも長時間が掛かるのに、アリシアのドレスまで決めるのだから1日で終わるはずがない。結局ジェーンは次の休みもアリシアの部屋で過ごすことになった。
 この時はアリシアだけでなくレイヴンも、休みを取って初めから参加していた。
 
 普段ジェーンが訪ねて来ている時にレイヴンは同席しないようにしている。
 それはジェーンの懐妊疑惑があったからで、レイヴンが軽く考えていた学生時代の噂が未だに尾を引いているとわかったからだ。
 本当はジェーンの訪問も断った方が良かったのだ。
 
 だけど今回は同席したことが良い結果をもたらした。
 呼ばれたデザイナーたちは昔から公爵邸に出入りしていた者で、アリシアとジェーンの仲が良いことを知っている。
 彼女たちは他の貴族の家に呼ばれる度に王宮へ呼ばれたことを話題にし、同時にアリシアとジェーンが今も仲良くしていること、レイヴンがジェーンの前でも構わずアリシアに愛情を注いていることを話して回ってくれている。
 おかげでレイヴンがジェーンを想っているという噂は間違いであったと――少なくとも今は、もうその想いが残っていないのだということが新たな噂となって広まっていた。

 それに良かったことはそれだけではない

「アリシアのドレスを一緒に選ぶの楽しかったな」

 あの時のことを思い出すと自然に笑みが浮かぶ。
 だけど反対に哀しくもなる。

「僕はね、一緒に夜会や舞踏会に出てくれるアリシアにドレスを用意したかった。だけど好みがわからないから贈ることができずに、好きなものを買ってもらって支払いだけでもって思ってた。アリシアはそれさえさせてくれなかったけどね」

 表情を曇らせたレイヴンをアリシアが見つめる。

 それは以前にも話してくれたことだ。
 結婚する前は「好きなものを買って支払いは王家に」と言われていた。
 だけどアリシアは公爵家の娘だ。王家に支払ってもらわなくても困らない。

「僕はアリシアの好みを知っていて、アリシアが喜ぶものを選べるレオが羨ましかった。レオがアリシアの好みを知っていたのは、ああして一緒に選んでいたからだね」

 そうかもしれない。
 レオナルドはジェーンの好みも知っている。
 アリシアやジェーンがドレスを仕立てる時は大抵レオナルドも一緒にいた。そして大抵の場合、ジェーンをエスコートしていたのはレオナルドだ。

「僕は君たち4人の中に入りたいと思っていたんだ。今回初めて入ることができた。それがとても嬉しくて…、なんでもっと早くそうしなかったのかと悔やまれるよ」

「お兄様が、私たちは4人で固まり過ぎていたと言っていました。そういうことなのでしょうね」

 アリシアたちがしていた夢の話もレイヴンは知らなかった。
 だからひと時の遊びだと思わずに叶えてくれた。
 
「私たちの関係は変わってきていると思いますわ。少なくとも今は…、レイヴン様が私を愛してくださっていると信じています」

「アリシア!」

 レイヴンがアリシアを抱き締めた、
 遠巻きに様子を窺っていた者たちから「きゃあ!」という声が聞こえた。



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