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3章
40 ノティスの訪問③
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「噂について、わたしも少し訊いてみました。…少し訊いてみただけで、色んな話を聞くことができました」
レイヴンとジェーンに纏わる噂は、決して密やかに囁かれているものではなかった。
女性の継承権に反対している者たちは、この噂を理由に「王太子は情婦の言い成りだ」、「法を不当に変えようとしている」と声高に言い立てている。
レイヴンが知らなかったのは、噂が耳に入らない様周りに止めていた者がいるのだろう。
「…それで?」
「それでっ、その…異母兄が困っているので…っ」
落ち着きを失ったノティスがまた紅茶へ手を伸ばす。
ガチャンッ!と大きな音を立ててティーカップが倒れた。
「も、申し訳ありませんっ!」
「殿下、大丈夫ですから落ち着いて下さい」
アリシアが表情を和らげる。
エレノアが零れた紅茶をさっと拭いて、新しいカップと取り換えた。
注がれる紅茶を見ている内に落ち着きを取り戻してきたようだ。
「本当に申し訳ありません…」
項垂れるノティスにアリシアは「気になさらなくてよろしいですわ」と微笑んだ。
ノティスは人と話すことに慣れていない。
アリシアは直感的にそう思った。
舞踏会で所在無げに立っていたノティスを思い出す。
王族であるのに誰からも話し掛けられず、ノティスから誰かに話し掛けることもない。
それは話し掛けても無視をされた経験があるからだ。
傍若無人に振る舞うノティスを知っているアリシアは滑稽な気もするが、母親が幽閉された直後は侍女や侍従でさえノティスの相手をするのを嫌がったと聞いている。
あの時ノティスの世界が変わった。
今、ノティスが話をするのは、マルグリットやマルグリットのところにいる異母姉弟だけなのだろう。
人に噂を訊くのも勇気がいったはずである。
勇気を振り絞ってここまで来た。
「ゆっくりで構いませんので、殿下の考えを聞かせてください」
「…異母兄の役に立ちたいのです…」
アリシアが優しく話し掛けると、俯いたままノティスはそう言った。
この噂を聞いた時、ノティスが考えたことは至極単純なことだった。
ジェーンとレイヴンが噂されるのはジェーンに婚約者がいないからだ。婚約者が決って、その相手と良い関係を築いていけば、噂は間違いだったとわかるだろう。
この時、ノティスはジェーンの婚約を他人事だと思っていた。
だけど噂のひとつにとんでもないものがあったのだ。
ジェーンが結婚した後、レイヴンの公妾になる、というのである。
そんなことを言われては真面な男は寄ってこない。
それくらいはノティスにもわかる。
良識のある者はそんな醜聞に塗れた令嬢には近づかない。
寄ってくるのは妻を愛人として差し出して、自分は甘い汁を吸おうと考えるような男である。
そんな男が噂が間違いだったからといってジェーンを大切にするはずがなく、良い関係を築けるはずがない。
当てが外れたと言ってジェーンを責めるかもしれない。
それでは駄目なのだ。
「わたしならジェーン嬢を大切にします。絶対に裏切りません。それに、わたしは女性が継承権を持つことを支持します。わたしとの婚姻までに法が変わっていれば、次期侯爵はジェーン嬢です。今、婚約をしても結婚するまでに少なくとも4年あります。それまでに法が変わる可能性は十分あります。婚約が成立したら、わたしはその考えを表明したいと思います」
レイヴンとジェーンに纏わる噂は、決して密やかに囁かれているものではなかった。
女性の継承権に反対している者たちは、この噂を理由に「王太子は情婦の言い成りだ」、「法を不当に変えようとしている」と声高に言い立てている。
レイヴンが知らなかったのは、噂が耳に入らない様周りに止めていた者がいるのだろう。
「…それで?」
「それでっ、その…異母兄が困っているので…っ」
落ち着きを失ったノティスがまた紅茶へ手を伸ばす。
ガチャンッ!と大きな音を立ててティーカップが倒れた。
「も、申し訳ありませんっ!」
「殿下、大丈夫ですから落ち着いて下さい」
アリシアが表情を和らげる。
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注がれる紅茶を見ている内に落ち着きを取り戻してきたようだ。
「本当に申し訳ありません…」
項垂れるノティスにアリシアは「気になさらなくてよろしいですわ」と微笑んだ。
ノティスは人と話すことに慣れていない。
アリシアは直感的にそう思った。
舞踏会で所在無げに立っていたノティスを思い出す。
王族であるのに誰からも話し掛けられず、ノティスから誰かに話し掛けることもない。
それは話し掛けても無視をされた経験があるからだ。
傍若無人に振る舞うノティスを知っているアリシアは滑稽な気もするが、母親が幽閉された直後は侍女や侍従でさえノティスの相手をするのを嫌がったと聞いている。
あの時ノティスの世界が変わった。
今、ノティスが話をするのは、マルグリットやマルグリットのところにいる異母姉弟だけなのだろう。
人に噂を訊くのも勇気がいったはずである。
勇気を振り絞ってここまで来た。
「ゆっくりで構いませんので、殿下の考えを聞かせてください」
「…異母兄の役に立ちたいのです…」
アリシアが優しく話し掛けると、俯いたままノティスはそう言った。
この噂を聞いた時、ノティスが考えたことは至極単純なことだった。
ジェーンとレイヴンが噂されるのはジェーンに婚約者がいないからだ。婚約者が決って、その相手と良い関係を築いていけば、噂は間違いだったとわかるだろう。
この時、ノティスはジェーンの婚約を他人事だと思っていた。
だけど噂のひとつにとんでもないものがあったのだ。
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そんなことを言われては真面な男は寄ってこない。
それくらいはノティスにもわかる。
良識のある者はそんな醜聞に塗れた令嬢には近づかない。
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そんな男が噂が間違いだったからといってジェーンを大切にするはずがなく、良い関係を築けるはずがない。
当てが外れたと言ってジェーンを責めるかもしれない。
それでは駄目なのだ。
「わたしならジェーン嬢を大切にします。絶対に裏切りません。それに、わたしは女性が継承権を持つことを支持します。わたしとの婚姻までに法が変わっていれば、次期侯爵はジェーン嬢です。今、婚約をしても結婚するまでに少なくとも4年あります。それまでに法が変わる可能性は十分あります。婚約が成立したら、わたしはその考えを表明したいと思います」
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