188 / 697
3章
43 キャロル・グーリッド伯爵令嬢①
しおりを挟む
アリシアの部屋へノティスが訪れていた頃、レイヴンは執務室でレオナルドと向かい合っていた。
レイヴンはレオナルドに、マルグリットと話したことを全て伝えている。
そして新たに教えられた噂のことも。
それを聞いたレオナルドは、「お耳に入りましたか」と嘆息したのだった。
その反応にレイヴンは驚いたが、同時にこれまで噂を知らなかったのはレオナルドが噂を耳に入れない様に止めていたからなのだと悟った。
「なぜそんなことを?」
「噂を知っても殿下にとって良いことがないからですよ」
レイヴンの問い掛けに、レオナルドは事も無げに答える。
「王妃様が仰ったのでしょう。噂をどうにかすることはできない、アリシアと仲睦まじく過ごし、その姿を見せ続けるしかない、と。王妃様が仰る通り、殿下にはこれまで通りアリシアを寵愛しているところを周りに見せつけていて欲しいのですよ」
「それは勿論そのつもりだが」
「考えてみてください。この噂を言い立てているのはどんな者なのかを。女性の継承権を認めたくない者は確かに反発しています。ですが、その数がどれくらいだと思いますか?主に入り婿になっていて、まだ爵位を継承していない者です。貴族社会の全体で言えばほんの一握りですよ。娘しかいない家の者は賛成していますし、今は男子の跡継ぎがいる家も2代先、3代先となるとわかりませんからね。先のことを考えると揺れている者が大半です。継承の問題を抱えている家にしてみれば、これが王太子の私情によるものでも何でも構わないのですよ。あとは日和見を決めている者たちを取り込めば法を成立させることができます。では、この噂を立てている者の本当の目的は何でしょうね?」
「……僕とアリシアを仲違いさせること、か?」
「ええ、そうですよ。普通に考えるとこれらの噂を知ったアリシアが不快に思わないはずがない。これまで上手くいっていたとはいえない2人の仲がやっと上手くいきかけているのに、これでまたおかしくなる。奴らはそう思っているでしょう」
レイヴンはこの噂を知った日からの数日を思い出した。
残念なことにアリシアは少しも怒っていない。
だけどレイヴンはアリシアに対して負い目を感じていた。
以前の様に、「嫌われているかもしれない」とはもう思わないが、申し訳なさで態度がぎこちなくなってしまう。
アリシアに触れることにも躊躇ってしまっていたが、アリシアはそんなレイヴンのことがわかっていたようで、自分からさっとレイヴンの膝へ座ってしまう。
それが嬉しくて抱き寄せると、そのまま胸に体を預けてくれるのだ。
「…ニヤけないで下さい」
胡乱な目をしたレオナルドの冷たい声で我に返る。
「噂を言い立てている者の内、1/4は女性の継承権に不満を持っている者。1/4は2人の仲を壊したい者。残りの1/2は王家の醜聞をただ面白がっている者でしょうね。まあすべての者に関して当てはまるのは、本当のことなどどうでも良い、ということです。だから殿下にはこのままアリシアを寵愛している姿を見せ続けて欲しいのですよ」
レオナルドの顔は面白がっているようだ。
「1/4いる2人の仲を壊したい者は、レイヴン殿下がアリシアを寵愛しているとの話を信じている者でしょうからね」
レイヴンがアリシアへ向ける愛が本物だと言われるようになり、レイヴンの側妃の座を狙っていた者の半数は諦めたといって良い。
だけどまだ半数が残っている。
彼らはレイヴンの寵愛を信じていないのではなく、それならそれで2人の仲を壊せばいいと思っているのだ。
「殿下はこれまでと同じようにしていて下さい。それだけで十分です。…今日も客がきたようですね」
レオナルドが向けた視線の先には窓がある。
窓の向こうにキャロル・グーリッド伯爵令嬢の姿が見えた。
レイヴンはレオナルドに、マルグリットと話したことを全て伝えている。
そして新たに教えられた噂のことも。
それを聞いたレオナルドは、「お耳に入りましたか」と嘆息したのだった。
その反応にレイヴンは驚いたが、同時にこれまで噂を知らなかったのはレオナルドが噂を耳に入れない様に止めていたからなのだと悟った。
「なぜそんなことを?」
「噂を知っても殿下にとって良いことがないからですよ」
レイヴンの問い掛けに、レオナルドは事も無げに答える。
「王妃様が仰ったのでしょう。噂をどうにかすることはできない、アリシアと仲睦まじく過ごし、その姿を見せ続けるしかない、と。王妃様が仰る通り、殿下にはこれまで通りアリシアを寵愛しているところを周りに見せつけていて欲しいのですよ」
「それは勿論そのつもりだが」
「考えてみてください。この噂を言い立てているのはどんな者なのかを。女性の継承権を認めたくない者は確かに反発しています。ですが、その数がどれくらいだと思いますか?主に入り婿になっていて、まだ爵位を継承していない者です。貴族社会の全体で言えばほんの一握りですよ。娘しかいない家の者は賛成していますし、今は男子の跡継ぎがいる家も2代先、3代先となるとわかりませんからね。先のことを考えると揺れている者が大半です。継承の問題を抱えている家にしてみれば、これが王太子の私情によるものでも何でも構わないのですよ。あとは日和見を決めている者たちを取り込めば法を成立させることができます。では、この噂を立てている者の本当の目的は何でしょうね?」
「……僕とアリシアを仲違いさせること、か?」
「ええ、そうですよ。普通に考えるとこれらの噂を知ったアリシアが不快に思わないはずがない。これまで上手くいっていたとはいえない2人の仲がやっと上手くいきかけているのに、これでまたおかしくなる。奴らはそう思っているでしょう」
レイヴンはこの噂を知った日からの数日を思い出した。
残念なことにアリシアは少しも怒っていない。
だけどレイヴンはアリシアに対して負い目を感じていた。
以前の様に、「嫌われているかもしれない」とはもう思わないが、申し訳なさで態度がぎこちなくなってしまう。
アリシアに触れることにも躊躇ってしまっていたが、アリシアはそんなレイヴンのことがわかっていたようで、自分からさっとレイヴンの膝へ座ってしまう。
それが嬉しくて抱き寄せると、そのまま胸に体を預けてくれるのだ。
「…ニヤけないで下さい」
胡乱な目をしたレオナルドの冷たい声で我に返る。
「噂を言い立てている者の内、1/4は女性の継承権に不満を持っている者。1/4は2人の仲を壊したい者。残りの1/2は王家の醜聞をただ面白がっている者でしょうね。まあすべての者に関して当てはまるのは、本当のことなどどうでも良い、ということです。だから殿下にはこのままアリシアを寵愛している姿を見せ続けて欲しいのですよ」
レオナルドの顔は面白がっているようだ。
「1/4いる2人の仲を壊したい者は、レイヴン殿下がアリシアを寵愛しているとの話を信じている者でしょうからね」
レイヴンがアリシアへ向ける愛が本物だと言われるようになり、レイヴンの側妃の座を狙っていた者の半数は諦めたといって良い。
だけどまだ半数が残っている。
彼らはレイヴンの寵愛を信じていないのではなく、それならそれで2人の仲を壊せばいいと思っているのだ。
「殿下はこれまでと同じようにしていて下さい。それだけで十分です。…今日も客がきたようですね」
レオナルドが向けた視線の先には窓がある。
窓の向こうにキャロル・グーリッド伯爵令嬢の姿が見えた。
10
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
すれ違いのその先に
ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。
彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。
ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。
*愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる