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3章
50 突然の訪問者④
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こんなに弱弱しいアリシアを腕に抱くのは初めてだ。
レイヴンはアリシアを抱き締めながら唇を噛みしめる。
レイヴンが知っているアリシアは、いつも毅然としていて人に弱いところを見せたりしない。辛いことがあった時も、それを態度に表すことはなく、常に優美な笑顔を崩さない。
そんなアリシアが青くなって震えている。
レイヴンはこれまでアリシアが辛い思いをしていた時に近づくことが出来なかった。
妃教育で足を痛めていた時も、扇を故意に踏まれた時も、寄り添っていたのはレオナルドで、レイヴンは扉の陰で見ていただけだ。
だけど今回は違う。
レイヴンが昔告げた言葉がアリシアを縛り付けている。
「王太子妃として相応しく振舞っていれば、王太子妃として扱われる。愛情なんてなくていい」と信じていたアリシアは、人にどう見られているのかを酷く気にするようになった。
間違ったことを言ってアリシアを呪縛したのがレイヴンなら、その呪縛を解くことが出来るのもレイヴンだけだ。
「ねえ、アリシア。僕だって公務を離れた時間に昼寝している時もあるよ。こうしてアリシアを抱き締めている時もあるし、口づけてる時もある。だけどそんな僕を王太子に相応しくないって言う者がいると思う?」
アリシアからの答えはない。
カナリーも何の話が始まったのかと訝し気にレイヴンを見ているが、気にせず続けることにする。
「アリシアだって空いた時間に昼寝をしても良いんだよ。コルセットをつけずに楽な服を着たって良い。僕が昔言ったことは間違っていた。僕が考えなしだったんだ。少し考えればわかることだった。母上だって公務を離れて正殿に戻ったら、王妃じゃなくて母親になる。父上の妻になるよ。アリシアがここで王太子妃から僕の妻に変わるのなんて当然のことだ。それをおかしいと言う奴は僕が許さない」
レイヴンはアリシアを抱き締める腕に力を込めてアリシアへ頬を寄せる。
「公の場では王太子妃としての振る舞いが求められるけど、プライベートの時間はただのアリシアに戻って良い。怒っても良いし泣いても良いし、笑ってくれると何より嬉しい。僕はどんなアリシアでも愛している。色んなアリシアを見たいと思っているよ。だから今もちょっと嬉しいんだ。……ごめんね」
「あのっ!妃殿下!ご無礼を承知で申し上げますが、私も妃殿下ではなく、お義姉様とお話ししてみたいと思っています。公務ではないお時間に、お義姉様と、お話ししたいです…」
レイヴンが言いたいことを理解したカナリーが、アリシアに義妹として話し掛ける。
気がつけばアリシアの震えが止まっていた。
「僕はアリシアを見捨てたりしない。他の者と入れ替えるなんて有り得ない。どんなアリシアでも、アリシアが王太子妃だ。その尊厳を損なうようなことは絶対にしない」
「先程驚いたのは、お兄様と妃殿下は、その…、あまり仲が良くないと思っていたからです。先触れを出さなかったのは、私が先触れを出すことがほとんどないので忘れてしまっていただけで…。妃殿下が王太子妃に相応しくないなんて思ったことはありません」
「…義姉と読んで下さって結構ですわ」
レイヴンの胸に顔を埋めていたアリシアが応えた。
ゆっくりと体を起こして顔を上げる。
「大丈夫…?」
レイヴンが不安そうに問いかけると、アリシアは歪な笑顔で応えた。上手く笑えていない。
だけどそうして気丈な自分を取り戻そうとしているアリシアを心から愛しく思う。
「お見苦しいところをお見せしました。申し訳ありません」
レイヴンは謝罪の言葉を口にするアリシアの頬にそっと口づけた。
レイヴンはアリシアを抱き締めながら唇を噛みしめる。
レイヴンが知っているアリシアは、いつも毅然としていて人に弱いところを見せたりしない。辛いことがあった時も、それを態度に表すことはなく、常に優美な笑顔を崩さない。
そんなアリシアが青くなって震えている。
レイヴンはこれまでアリシアが辛い思いをしていた時に近づくことが出来なかった。
妃教育で足を痛めていた時も、扇を故意に踏まれた時も、寄り添っていたのはレオナルドで、レイヴンは扉の陰で見ていただけだ。
だけど今回は違う。
レイヴンが昔告げた言葉がアリシアを縛り付けている。
「王太子妃として相応しく振舞っていれば、王太子妃として扱われる。愛情なんてなくていい」と信じていたアリシアは、人にどう見られているのかを酷く気にするようになった。
間違ったことを言ってアリシアを呪縛したのがレイヴンなら、その呪縛を解くことが出来るのもレイヴンだけだ。
「ねえ、アリシア。僕だって公務を離れた時間に昼寝している時もあるよ。こうしてアリシアを抱き締めている時もあるし、口づけてる時もある。だけどそんな僕を王太子に相応しくないって言う者がいると思う?」
アリシアからの答えはない。
カナリーも何の話が始まったのかと訝し気にレイヴンを見ているが、気にせず続けることにする。
「アリシアだって空いた時間に昼寝をしても良いんだよ。コルセットをつけずに楽な服を着たって良い。僕が昔言ったことは間違っていた。僕が考えなしだったんだ。少し考えればわかることだった。母上だって公務を離れて正殿に戻ったら、王妃じゃなくて母親になる。父上の妻になるよ。アリシアがここで王太子妃から僕の妻に変わるのなんて当然のことだ。それをおかしいと言う奴は僕が許さない」
レイヴンはアリシアを抱き締める腕に力を込めてアリシアへ頬を寄せる。
「公の場では王太子妃としての振る舞いが求められるけど、プライベートの時間はただのアリシアに戻って良い。怒っても良いし泣いても良いし、笑ってくれると何より嬉しい。僕はどんなアリシアでも愛している。色んなアリシアを見たいと思っているよ。だから今もちょっと嬉しいんだ。……ごめんね」
「あのっ!妃殿下!ご無礼を承知で申し上げますが、私も妃殿下ではなく、お義姉様とお話ししてみたいと思っています。公務ではないお時間に、お義姉様と、お話ししたいです…」
レイヴンが言いたいことを理解したカナリーが、アリシアに義妹として話し掛ける。
気がつけばアリシアの震えが止まっていた。
「僕はアリシアを見捨てたりしない。他の者と入れ替えるなんて有り得ない。どんなアリシアでも、アリシアが王太子妃だ。その尊厳を損なうようなことは絶対にしない」
「先程驚いたのは、お兄様と妃殿下は、その…、あまり仲が良くないと思っていたからです。先触れを出さなかったのは、私が先触れを出すことがほとんどないので忘れてしまっていただけで…。妃殿下が王太子妃に相応しくないなんて思ったことはありません」
「…義姉と読んで下さって結構ですわ」
レイヴンの胸に顔を埋めていたアリシアが応えた。
ゆっくりと体を起こして顔を上げる。
「大丈夫…?」
レイヴンが不安そうに問いかけると、アリシアは歪な笑顔で応えた。上手く笑えていない。
だけどそうして気丈な自分を取り戻そうとしているアリシアを心から愛しく思う。
「お見苦しいところをお見せしました。申し訳ありません」
レイヴンは謝罪の言葉を口にするアリシアの頬にそっと口づけた。
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