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3章
51 切っ掛け
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「助かったよ」
アリシアの背を見送ったレイヴンがぽつりと言った。
アリシアは乱れてしまった髪や身なりを整える為に、エレノアとドレッシングルームへ移っている。
レイヴンとしてはあのまま腕に抱いていたかったが、元々来客を待っているのだから仕方がない。
レイヴンはまだドレッシングルームへ続く扉を見つめたままだ。
「アリシアには申し訳ないけれど、良い切っ掛けになった。それに僕が1人で話をするより伝わったと思う。――だけど母上に抗議はするからな」
これを切っ掛けにもっと肩の力を抜いて暮らせるようになってくれればと願う。
その為にもアリシアの体面を損なうようなことは許さない。
「わかっていますわ、私が悪いのだもの。だけど驚きましたわ。お義姉様があんな状態になるなんて」
カナリーはアリシアが見せている表向きの顔しか知らない。
そもそも交流がないのだから、アリシアの内面など知りようもない。
「私、お義姉様は生まれた時から完璧な方の様に思っていましたわ。だけどそんなはずはありませんわね。お義姉様も人間ですもの。常に完璧であるようにずっと気を張っておられたのね。お気の毒だわ」
「わかっている。全部僕のせいだ」
不幸な結婚を恐れるアリシアは、レイヴンの言葉が救いになったと言っていたが、もっと早くから寄り添い、良好な関係を築いていれば違う方法でも支えることが出来たはずだ。
不安を感じる必要などないと、信じられるまで何度でも伝えられたはずなのに。
「そうよ、お兄様のせいよ。お義姉様はなんでこんな酷いお兄様がお好きなのかしら」
「――何?」
思いがけない言葉にレイヴンは目を丸くして訊き返す。
「だってそうでしょう?お兄様は酷いことを言っても謝らないし、贈り物もしないし、婚約者なのに全く歩み寄ろうとしなかったのよ?その上お義姉様の身内の方と噂になるなんて、そんな軽率な方、私なら絶対嫌だわ。お義姉様を選ばれたのはお母様だから、お義姉様から婚約を破棄するのは難しいけれど、私ならわざと酷く振舞って婚約破棄される様に仕向けるわね。『婚約者として相応しくなければ婚約破棄する』って初めから言われてるんだもの」
カナリーの遠慮のない言葉が突き刺さり、レイヴンは低く呻く。
自分の行いを改めて突きつけられてみると、好かれる要素が一欠けらもない。
「それなのにお義姉様はお兄様に認められる為に頑張っておられたのよ。お兄様がお好きだからだわ」
カナリーは納得がいかないといった表情で憤然としている。
確かにアリシアの事情を知らない者からするとそう見えるのかもしれない。
レイヴンの顔に苦笑が浮ぶ。
それを見ていたカナリーが怪訝な顔をした。
「私、本当に驚いたのよ。つい最近までお互いに興味が無い政略結婚なのだと思っていたのだもの。お2人が互いを思っておられるなんて。お邪魔をしてしまったけれど…、お兄様と口づけしているお義姉様は幸せそうだったわ」
恥ずかしそうに言われたカナリーの言葉にレイヴンは目を見開く。
そう見えたのであれば嬉しいと思うけれど、アリシアの本心を知っているレイヴンは、それがカナリーの思い違いだと分かっていた。
それでもこれまで一度も閨や口づけを拒まれたことはない。
アリシアの背を見送ったレイヴンがぽつりと言った。
アリシアは乱れてしまった髪や身なりを整える為に、エレノアとドレッシングルームへ移っている。
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レイヴンはまだドレッシングルームへ続く扉を見つめたままだ。
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その為にもアリシアの体面を損なうようなことは許さない。
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そもそも交流がないのだから、アリシアの内面など知りようもない。
「私、お義姉様は生まれた時から完璧な方の様に思っていましたわ。だけどそんなはずはありませんわね。お義姉様も人間ですもの。常に完璧であるようにずっと気を張っておられたのね。お気の毒だわ」
「わかっている。全部僕のせいだ」
不幸な結婚を恐れるアリシアは、レイヴンの言葉が救いになったと言っていたが、もっと早くから寄り添い、良好な関係を築いていれば違う方法でも支えることが出来たはずだ。
不安を感じる必要などないと、信じられるまで何度でも伝えられたはずなのに。
「そうよ、お兄様のせいよ。お義姉様はなんでこんな酷いお兄様がお好きなのかしら」
「――何?」
思いがけない言葉にレイヴンは目を丸くして訊き返す。
「だってそうでしょう?お兄様は酷いことを言っても謝らないし、贈り物もしないし、婚約者なのに全く歩み寄ろうとしなかったのよ?その上お義姉様の身内の方と噂になるなんて、そんな軽率な方、私なら絶対嫌だわ。お義姉様を選ばれたのはお母様だから、お義姉様から婚約を破棄するのは難しいけれど、私ならわざと酷く振舞って婚約破棄される様に仕向けるわね。『婚約者として相応しくなければ婚約破棄する』って初めから言われてるんだもの」
カナリーの遠慮のない言葉が突き刺さり、レイヴンは低く呻く。
自分の行いを改めて突きつけられてみると、好かれる要素が一欠けらもない。
「それなのにお義姉様はお兄様に認められる為に頑張っておられたのよ。お兄様がお好きだからだわ」
カナリーは納得がいかないといった表情で憤然としている。
確かにアリシアの事情を知らない者からするとそう見えるのかもしれない。
レイヴンの顔に苦笑が浮ぶ。
それを見ていたカナリーが怪訝な顔をした。
「私、本当に驚いたのよ。つい最近までお互いに興味が無い政略結婚なのだと思っていたのだもの。お2人が互いを思っておられるなんて。お邪魔をしてしまったけれど…、お兄様と口づけしているお義姉様は幸せそうだったわ」
恥ずかしそうに言われたカナリーの言葉にレイヴンは目を見開く。
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それでもこれまで一度も閨や口づけを拒まれたことはない。
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