【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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3章

76 王太子妃と伯爵令嬢②

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 あれはキャロル・グーリッド伯爵令嬢…。ここで何をしているのかしら。

 アリシアの目に映るキャロルは、レイヴンの執務室前の回廊に面した芝生の上をただウロウロしているように見える。
 キャロルは所謂普通の貴族令嬢で、伯爵家の領地運営にも携わっていない。
 ここは貴族であれば誰でも自由な出入りを許されたエリアだが、キャロルが王宮の、それも執務棟へ来るような理由が思い浮かばなかった。
 同時に、先日レイヴンとここの庭園を散歩していた時にキャロルを見かけていたことを思い出す。
 あの時のキャロルはレイヴンを見ている様に見えた。

 なんだかもやっとした気持ちがアリシアの胸に広がる。
 それが何故だかわからないアリシアは、考えることを止めてキャロルへ声を掛けることにした。

「グーリッド伯爵令嬢、お久しぶりですですね」

「ひ、妃殿下。お久しぶりでございます」

 後ろから声を掛けられたキャロルはビクッと肩を跳ねさせた後、慌てて振り返る。
 それがアリシアだとわかると慌ててカテーシーをした。

「グーリッド伯爵令嬢がこちらにいらっしゃるなんて驚きましたわ。今日は伯爵とご一緒ですの?」

「い、いえ、いえっ!はいっ!父と一緒に参りました」

「それで伯爵はどちらに?」

 遠回しにここへ来た用件を尋ねたアリシアに、キャロルはおかしな程動揺して見せる。
 それを訝しく思いながら更に尋ねると、キャロルはさっと青褪めた。
 なんとかしてレイヴンと繋がりを持とうと執務室の周りをうろついていても、それをアリシアに見咎められるとは思ってもいなかったのだ。



 レイヴンは部屋の外から聞こえる声に顔を上げた。

 レイヴンはいつもアリシアと過ごす時間を1秒でも長く確保する為に、レオナルドに驚かれるほどの集中力で執務にあたっている。
 外の声に気がつくなんて珍しいこともあるものだと視線を向けると、そこにアリシアがいた。



「アリシアっ!!」

 バンッ!!と乱暴に開かれた扉の音に驚いたアリシアがそちらへ顔を向けると、レイヴンが部屋から飛び出してきた。
 
「どうしたの、アリシア?!何かあった?!」

 アリシアの元へ駆け寄るレイヴンの顔には焦りの色が滲んでいる。
 アリシアが自分を誘いに来るなど思いもしないレイヴンは、何か大変なことが起きたのだと思い込んでいた。

 アリシアは、すぐにレイヴンが思い違いをしていることに気がついた。
 レイヴンを訪ねて来るのはそんなにおかしなことかと言いたくなったが、婚約期間を含めて初めてなのだから仕方がないかと内心で溜息を吐く。

「落ち着いてくださいませ、レイヴン様。何もございませんわ」

 アリシアがそう言って微笑むと、レイヴンはホッとした顔を見せた。

「良かった、無事なんだね。…それじゃあ、どうしてここに?」

 改めて問われたアリシアは、息が止まりそうになった。

「あの、それは…」

 驚くほど言葉が出てこない。
 口を開いたり閉じたりを繰り返すアリシアに、レイヴンの顔が曇る。

「やっぱり何かあったんじゃない?」

 心配そうに問い掛けるレイヴンに、アリシアは反射的に口を開いていた。

「中央庭園の花が見事だと聞きましたから、レイヴン様を誘いに来ましたの!」

 瞬間、レイヴンの目が見開かれる。
 そしてすぐに喜びの色が広がった。


 2人はすぐ傍にいるキャロルの存在をすっかり忘れていた。



 
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