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3章
77 突きつけられた現実
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「アリシア」
愛おしそうに名前を呼んだレイヴンが、アリシアの手を取り恭しく口づける。
「アリシアが僕を誘いに来てくれるなんて嬉しいよ…」
「レイヴン様、大袈裟ですわ」
アリシアは苦笑するが、レイヴンにとっては大袈裟などではない。
休憩時間も夜の時間も、一緒に過ごしているのはレイヴンが会いに行くからだ。
どこかへ出掛けようと誘うのもレイヴンだ。
アリシアはレイヴンの誘いを絶対に断らない。
それはレイヴンが王太子でアリシアは王太子妃だからだ。
レイヴンと一緒に過ごしたいからではない。
だけど今日、初めてアリシアから誘ってくれた。
最近あまり一緒に過ごせていないことをアリシアも寂しく感じてくれているのだろうか。
「中央庭園だね。今日は天気も良いし、散歩をした後はあそこの東屋でお茶にしようか」
うっとりした目でアリシアを見つめるレイヴンからは、アリシアへの愛情が溢れている。
それは誰の目から見ても確かだった。
なぜこんなところを見ていなければならないのか。
すぐ傍で礼をしたまま言葉が掛かるのを待っているキャロルは泣きたくなった。
レイヴンはもう一度アリシアの手に口づけた後、エスコートの為に腕を差し出す。
その腕に手を掛けるアリシアは照れているのか、いつもとは違うはにかんだ笑顔を見せている。
可愛い!
可愛い!!
可愛い!!!
レイヴンはそれしか考えられなくなっていた。
「あっ!」
中央庭園へ向かおうと踵を返したところでアリシアが声を上げた。
アリシアしか見ていないレイヴンは「どうしたの?」と首を傾げる。
問い掛ける声は柔らかく優しいが、とにかくアリシアしか見ていない。
「グーリッド伯爵令嬢、お話の途中でごめんなさい」
アリシアの視線の先には淑女の礼をしたままのキャロルがいた。
アリシアが頭を上げる許可をすると、顔を上げたキャロルの目には涙が滲んでいる。
あの体勢を保ったままでいるのは大変だっただろう。
アリシアは申し訳ない気持ちになった。
心を痛ませるアリシアとは違い、レイヴンはキャロルに対して冷淡だ。
キャロルへ一瞥もくれることはない。
「グーリッド伯爵令嬢はここでレオを待っているんだよ。レオの婚約者候補だからね」
「まあ。お兄様は今日こちらへ来ているのですか?」
詳しくは知らないが、ここ数日レオナルドは王宮へ来ていないと聞いている。
「来てないよ。今頼んでいることがもう少し掛かるから、あと数日は来ないんじゃないかな」
「私もそう聞いています。グーリッド伯爵令嬢、ごめんなさいね。お兄様は仕事の都合で登城しないこともあるの」
「――そうですか。それでは今日はこれで失礼致します」
許可を得たキャロルはその場を後にする。
今日はレイヴンに挨拶もできなかった。
毎日の様にここへ来ていても、レイヴンと話をできることはほとんどない。
キャロルから話し掛ける許可を得ていないので、レイヴンが1人でいる時はレイヴンから見える場所で礼をして話し掛けてくれるのを待つ。
だがレイヴンはいつも話し掛けてくれることなく歩き去っていく。
レオナルドといる時だけ、レオナルドへ挨拶をするのに合わせてレイヴンへ挨拶することが出来る。
だがその時でもレイヴンが挨拶を返してくれたことはない……。
キャロルは、現実を突きつけられた思いだった。
もしレオナルドの妻になれば、2人のあの仲睦まじい姿を近くで見せつけられることになる。
レイヴンの側妃になったとしても、それは同じことだ。
レイヴンが側妃を迎えることで仲が拗れるかもしれないが、あれほどの寵愛がすぐに消え去るとは思えない。
アリシアの従姉と関係を持っていると言われてさえ、2人の仲が壊れることはなかった。
レイヴンの寵愛がこちらへ向くまでにどれ程耐えれば良いのだろうか。
キャロルは泣きながら伯爵家の馬車に乗った。
御者が驚いた顔でキャロルを見ていたが、気にする余裕はなかった。
愛おしそうに名前を呼んだレイヴンが、アリシアの手を取り恭しく口づける。
「アリシアが僕を誘いに来てくれるなんて嬉しいよ…」
「レイヴン様、大袈裟ですわ」
アリシアは苦笑するが、レイヴンにとっては大袈裟などではない。
休憩時間も夜の時間も、一緒に過ごしているのはレイヴンが会いに行くからだ。
どこかへ出掛けようと誘うのもレイヴンだ。
アリシアはレイヴンの誘いを絶対に断らない。
それはレイヴンが王太子でアリシアは王太子妃だからだ。
レイヴンと一緒に過ごしたいからではない。
だけど今日、初めてアリシアから誘ってくれた。
最近あまり一緒に過ごせていないことをアリシアも寂しく感じてくれているのだろうか。
「中央庭園だね。今日は天気も良いし、散歩をした後はあそこの東屋でお茶にしようか」
うっとりした目でアリシアを見つめるレイヴンからは、アリシアへの愛情が溢れている。
それは誰の目から見ても確かだった。
なぜこんなところを見ていなければならないのか。
すぐ傍で礼をしたまま言葉が掛かるのを待っているキャロルは泣きたくなった。
レイヴンはもう一度アリシアの手に口づけた後、エスコートの為に腕を差し出す。
その腕に手を掛けるアリシアは照れているのか、いつもとは違うはにかんだ笑顔を見せている。
可愛い!
可愛い!!
可愛い!!!
レイヴンはそれしか考えられなくなっていた。
「あっ!」
中央庭園へ向かおうと踵を返したところでアリシアが声を上げた。
アリシアしか見ていないレイヴンは「どうしたの?」と首を傾げる。
問い掛ける声は柔らかく優しいが、とにかくアリシアしか見ていない。
「グーリッド伯爵令嬢、お話の途中でごめんなさい」
アリシアの視線の先には淑女の礼をしたままのキャロルがいた。
アリシアが頭を上げる許可をすると、顔を上げたキャロルの目には涙が滲んでいる。
あの体勢を保ったままでいるのは大変だっただろう。
アリシアは申し訳ない気持ちになった。
心を痛ませるアリシアとは違い、レイヴンはキャロルに対して冷淡だ。
キャロルへ一瞥もくれることはない。
「グーリッド伯爵令嬢はここでレオを待っているんだよ。レオの婚約者候補だからね」
「まあ。お兄様は今日こちらへ来ているのですか?」
詳しくは知らないが、ここ数日レオナルドは王宮へ来ていないと聞いている。
「来てないよ。今頼んでいることがもう少し掛かるから、あと数日は来ないんじゃないかな」
「私もそう聞いています。グーリッド伯爵令嬢、ごめんなさいね。お兄様は仕事の都合で登城しないこともあるの」
「――そうですか。それでは今日はこれで失礼致します」
許可を得たキャロルはその場を後にする。
今日はレイヴンに挨拶もできなかった。
毎日の様にここへ来ていても、レイヴンと話をできることはほとんどない。
キャロルから話し掛ける許可を得ていないので、レイヴンが1人でいる時はレイヴンから見える場所で礼をして話し掛けてくれるのを待つ。
だがレイヴンはいつも話し掛けてくれることなく歩き去っていく。
レオナルドといる時だけ、レオナルドへ挨拶をするのに合わせてレイヴンへ挨拶することが出来る。
だがその時でもレイヴンが挨拶を返してくれたことはない……。
キャロルは、現実を突きつけられた思いだった。
もしレオナルドの妻になれば、2人のあの仲睦まじい姿を近くで見せつけられることになる。
レイヴンの側妃になったとしても、それは同じことだ。
レイヴンが側妃を迎えることで仲が拗れるかもしれないが、あれほどの寵愛がすぐに消え去るとは思えない。
アリシアの従姉と関係を持っていると言われてさえ、2人の仲が壊れることはなかった。
レイヴンの寵愛がこちらへ向くまでにどれ程耐えれば良いのだろうか。
キャロルは泣きながら伯爵家の馬車に乗った。
御者が驚いた顔でキャロルを見ていたが、気にする余裕はなかった。
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