【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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3章

87 無自覚な妬心②

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「大丈夫?」

 レオナルドが退室した後、レイヴンはアリシアの隣へ移っていた。
 公としての話は終わりである。
 まだ執務中の時間なので執務室へ戻らなければならないが、少しくらい遅くなっても構わない。

 アリシアの手元には買収されていた侍女の一覧がある。
 アリシアと親しくしていた者の名前はないが、だからといって気分の良いものではないだろう。

  だけどアリシアから返ってきた答えは、レイヴンが思っていたこととは違うものだった。

「…グーリッド伯爵令嬢のこと、ご存知でしたの?」

 アリシアは笑顔を作っているが、目の奥が揺らいでいる。
 レイヴンは腕を伸ばし、アリシアをぎゅっと抱き締めた。

「その件に僕は絡んでないよ。僕とグーリッド伯爵令嬢は一切関係がないからね」

「…そうですか」

 体調不良などと、アリシアは信じていない。レオナルドの思惑によるものなのだろうと察している。
 そこにレイヴンは一切絡んでいないという。
 なんとかレイヴンの目に留まろうと必死だったというキャロルには、きっとそれが一番つらいことだろうと、アリシアは思う。

 レイヴンはキャロルに対して何もしなかった。

 話し掛けることも、挨拶を返すことも、注意をすることも、追い払うことも。――自分には関係のない相手だから。

「愛している、アリシア」

 レイヴンはアリシアの唇へ口づけると、もう一度ぎゅっと抱き締める。
 アリシアがレイヴンに想いを寄せる女のことを気にしてくれるのは嬉しい。
 だけど辛い思いをさせたくはない。
 
 アリシアから初めてキャロルのことを訊かれた時のことをレイヴンは忘れない。




 あの日、レイヴンが寝室へ入るとアリシアは寝ないで待っていた。
 ベッドの上からレイヴンを見つめるアリシアは、憂いた顔をしている。
 ただアリシアは気持ちを隠すのが上手い。この表情の違いも、アリシアを何年も見続けているレイヴンでないと気がつかなかっただろう。

「どうしたの?」

 優しく問い掛けながら抱き締めると、アリシアが珍しくレイヴンの背に腕をまわす。
 アリシアはレイヴンの胸に頬を押し付けたまま、じっとしていた。
 レイヴンはそんなアリシアの髪をゆっくりと撫でる。

 何かがあったとしてもアリシアが話してくれるとは限らない。
 今日はジェーンたちとのお茶会だった。
 このまま話してくれなければ、何があったのか明日カナリーに訊こう、とレイヴンが決めた時、アリシアの小さな声が聞こえた。

「……グーリッド伯爵令嬢と会ってらしたのですか?」

「…………え?」

 この時、レイヴンは何を言われているのか分からなかった。
 呆然としていると、アリシアがハッとしたように身を固くする。
 無意識に口から出てしまったようだった。

「も、申し訳ありません!先程お茶会で、カナリー様からグーリッド伯爵令嬢のお話を聞いたのです。その、よくレイヴン様に会いに来られているとか」

 アリシアは自分が言ってしまったことに驚いていた。

 カナリーから話を聞いてからずっと、もやもやした気持ちが続いていてそのことばかりを考えていた。
 だけどレイヴンに何かを言おうと思っていたわけではない。
 そもそもアリシアは何故自分がこんなに嫌な気持ちになっているのか、それがわからない。
 それなのに、同じことばかりを考えていたせいなのか、気がつけば言葉にしてしまっていた。

 しかもあんな言い方ではレイヴンがキャロルと密会していると疑っているように聞こえただろう。


 アリシアが言いたいことを理解したレイヴンは大きく息をついた。
 キャロルとの仲を疑われているわけではないとわかり、ホッとする。
 同時に嬉しさと申し訳なさが込み上げてきて、アリシアをぎゅっと抱き締めた。



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