【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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3章

86 無自覚な妬心①

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「この王太子宮に買収された侍女がいることがわかった」

 レイヴンの言葉をアリシアは冷静に聞いていた。

 休憩時間ではなく、執務中の時間に現れたレイヴンはレオナルドを連れていた。
 それだけで大事な話であるとわかる。
 アリシアを抱き締め、頬へ口づける一連の挨拶を終えると、レイヴンはアリシアの隣ではなく向かい側へレオナルドと並んで座った。
 これは王太子として王太子妃であるアリシアへ話をしに来たということである。

 レイヴンから差し出された書類にアリシアは目を通す。
 王太子宮内で起こった出来事が外部へ漏れていることが度々あった為、王太子宮内の情報を漏らしている者がいることはわかっていた。
 書類には10名を超える侍女の名前が書かれている。だが幸いなことにエレノアのようなアリシアの側付きの名前はない。
 そのことにアリシアは安堵した。

 この情報はレオナルドが議会でジェーンを貶めようとした者たちを調べる内にわかったことである。
 彼らは脱税や役人への賄賂、領地内で領民からの不当な搾取、王宮から出される支援金の不正受給や密輸品の販売等、大小様々な罪を犯していたが、その中に王太子宮で務める侍女の買収があった。
 この件をアリシアのところへ持ってきたのは、王太子宮の人事権をもっているのが王太子妃だからである。

「この者たちの処遇はアリシアに任せる」

「ありがとうございます。殿下」

 リストの中には知っている名前も知らない名前もあった。
 いずれもしても彼女たちは放逐することになる。

「そう言えは、グーリッド伯爵令嬢は領地で療養することになったそうですよ」

「……え?」

 気軽な様子で言われた言葉にアリシアは驚いてレオナルドへ視線を向けた。

 グーリッド伯爵令嬢はレオナルドの婚約者候補だった。
 カナリーの情報によれば、その立場を利用してレイヴンに近づいていたという。

「体の具合が良くないそうです。わたしの婚約者候補からも外れましたし、王都に戻ってくることは二度とないでしょうね」

 レオナルドは柔和な表情を崩さない。

 あの翌日、グーリッド伯爵はレオナルドから告げられたキャロルの噂がどんなものなのか、王宮で自分の下についている者たちを問い詰めた。
 部下たちは初め、「知らない」としらを切っていたが、伯爵に圧し掛かるようにして問い詰められると眼を逸らしながら話し出した。執務棟に部屋を持っている者ならば、誰でも知っていることだったのだ。
 部下たちは、娘がレオナルドとの交流を深めていると信じきっている伯爵に言えなかったのだろう。

 彼らが話したのは次のようなことだ。

「グーリッド伯爵令嬢はいつも王太子殿下の執務室の周りをうろついている」
「レオナルド殿と王太子殿下が一緒に現れると嬉々として近寄っていく。そして婚約者候補のレオナルド殿には形どおりの挨拶をした後、王太子殿下へ熱のこもった目を向ける。但し、下心を見抜いている王太子殿下は全く相手にしていない」
「父親は娘がレオナルド殿と交流していると思っている。だけど本人はレオナルド殿の執務室には一切近寄っていない」

 それらの話を聞いた伯爵は青くなってふらついた。
 レイヴンに対してもレオナルドに対しても無礼な話である。
 しかも最近のレイヴンは妃のアリシアを寵愛しているというし、レオナルドが妹のアリシアを溺愛しているのは有名なことだ。

 レオナルドがもうひとつ言っていた、レイヴンとジェーンの噂をキャロルが吹聴したということについては夫人が知っていた。
 夫人と一緒に参加したお茶会でも嬉々として話していたのだ。
 
 ただ夫人は、娘は仲の良い令嬢たちと社交界での噂で盛り上がっているだけだと思っていた。
 お茶会での話題が誰かの醜聞なのはよくあること。
 その噂が広がるようにと主導しているとは思っていなかったのだ。

 ここで伯爵はレオナルドの言葉を思い出す。
 レオナルドは、「キャロル嬢とお会いすることは二度とないでしょう」と言っていた。

 狭い社交界のこと。普通であれば婚約者候補から外れたところで顔を合わせる機会はある。
 それを敢てそう言ったのは、「二度と会わない様に社交界に出すな」ということだろう。
 
 娘は格上の公爵家と恐らく王太子をも怒らせたのだ。

 公爵家からの圧力を恐れた伯爵は、キャロルを領地へ送り、二度と王都へ入れないことを決めた。




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