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3章
85 負い目③
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「殿下?どうかされましたか?」
レオナルドからこれまで婚約者を持たずにいた理由を聞いた時のことを思い出していたレイヴンは、レオナルドに声を掛けれられて我に返った。
.
レイヴンは過去の行いについて十分理解し、反省しているつもりだったが、レオナルドの婚約にまで影響していたとは思っていなかった。
だけど今気にするところはそこではない。
レオナルドはジェーンを託せる相手が現れるまで婚約者を持つつもりはなかったと言った。
今はまだジェーンに婚約者はいない。だけどジェーンは劣悪な環境を抜け出し、自分の足で立つことを選んでいる。アリシアのことも以前ほど心配してはいないようだ。
それでもまだ自分の婚約者の座を利用しようとしている。
「グーリッド伯爵のところへ行くのか?」
「ええ。婚約者候補から外すことを伝えてきます」
レオナルドは楽しそうに笑う。
キャロルはレイヴンの周りをうろつきながら、レイヴンとジェーンの噂を積極的に流していた。
レイヴンとアリシアの仲を壊しながら自分がレイヴンの目に留まろうと稚拙な計算をしていたのだ。
そんな女をレオナルドが傍に置くはずがない。
とはいえ、レオナルドはキャロルの働きには満足していた。
他にもレオナルドの婚約者候補となっているのは元々レイヴンの側妃を狙っていた女である。その中でも厄介なのは、家の為ではなく、レイヴンに恋心を持つ女だ。
キャロルはレオナルドを利用してレイヴンに近づこうとする女がどんな末路を辿るのか、分かり易く示してくれることになった。
それにどうやらアリシアもキャロルの存在を気にしていたようだ。
レイヴンへ心を向ける存在が気になるのは、レイヴンへ心が向いている証拠である。
そのことに本人が気がつくようジェーンとカナリーが上手く誘導してくれるだろう。
その立役者であるキャロルは、あの日仲睦まじいレイヴンとアリシアの姿を目の当たりにしたショックで部屋に閉じ籠っているらしく、最近は姿を見ていない。
レオナルドがグーリッド伯爵の邸を訪れると、伯爵夫妻が丁重に出迎えてくれた。
娘が王宮でレオナルドと交流を深めていると信じている伯爵は、レオナルドの訪問が正式な婚約の申し入れだと思っているらしい。
「娘には後程挨拶させます」とにこやかに笑う伯爵に、「その必要はありません」とレオナルドは冷たく告げる。
「今日はキャロル嬢をわたしの婚約者候補から外すことを伝えに来ました。わたしがキャロル嬢にお会いすることは二度とないでしょう」
「ええっ?!」
「そ、それは何故でしょか?!娘は毎日王宮へ連れて行ってくれとわたしにせがむ程レオナルド殿に心を寄せているのですよ?!」
グーリッド伯爵夫妻が驚愕の声を上げる。
その認識のおかしさにレオナルドの顔に冷笑が浮かんだ。
「おや、伯爵はご存知ないのですか?キャロル嬢が心を寄せているのはわたしではありません。わたしを利用して王太子殿下にすり寄っていると王宮で噂になっていますよ」
「え、ええっ?!」
伯爵夫妻は混乱した。
娘がレイヴンに思いを寄せているのは知っていた。
その想いを利用してレイヴンの側妃にしようと目論んだこともある。
だけどそれはもう、諦めたはずだ。
それに、娘のなにかおかしな行いが王宮で噂になっている…?
社交界における噂の恐ろしさを知っている伯爵は身を震わせた。
「それにキャロル嬢は、王太子殿下とキャンベル侯爵令嬢のおかしな噂を吹聴していたようですね」
「…っ?!」
これには夫人が息を飲んだ。
反対に伯爵は意味が分からないといった顔を見せている。
「夫人はご存知のようですから、この後でお伺い下さい。…そうそう、わたしとキャンベル侯爵令嬢は従妹でしてね。わたしは彼女を実の妹の様に思っているのですよ」
笑みを深めたレオナルドに夫妻は背筋が凍るような思いがした。
ジェーンはアリシアと仲が良いと知られているが、その兄であるレオナルドやもう1人の従兄、ロバートにも可愛がられていると耳にしたことがあったのだ。
ジェーンを社交界で見かける時は、常にどちらかがエスコートしていた。
「それではわたしはこれで失礼致します」
顔を青褪めさせて震える2人をよそ目に、レオナルドは優雅な礼をして伯爵邸から辞去した。
今後のキャロルの処遇は2人で考えてくれれば良い。
レオナルドからこれまで婚約者を持たずにいた理由を聞いた時のことを思い出していたレイヴンは、レオナルドに声を掛けれられて我に返った。
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レイヴンは過去の行いについて十分理解し、反省しているつもりだったが、レオナルドの婚約にまで影響していたとは思っていなかった。
だけど今気にするところはそこではない。
レオナルドはジェーンを託せる相手が現れるまで婚約者を持つつもりはなかったと言った。
今はまだジェーンに婚約者はいない。だけどジェーンは劣悪な環境を抜け出し、自分の足で立つことを選んでいる。アリシアのことも以前ほど心配してはいないようだ。
それでもまだ自分の婚約者の座を利用しようとしている。
「グーリッド伯爵のところへ行くのか?」
「ええ。婚約者候補から外すことを伝えてきます」
レオナルドは楽しそうに笑う。
キャロルはレイヴンの周りをうろつきながら、レイヴンとジェーンの噂を積極的に流していた。
レイヴンとアリシアの仲を壊しながら自分がレイヴンの目に留まろうと稚拙な計算をしていたのだ。
そんな女をレオナルドが傍に置くはずがない。
とはいえ、レオナルドはキャロルの働きには満足していた。
他にもレオナルドの婚約者候補となっているのは元々レイヴンの側妃を狙っていた女である。その中でも厄介なのは、家の為ではなく、レイヴンに恋心を持つ女だ。
キャロルはレオナルドを利用してレイヴンに近づこうとする女がどんな末路を辿るのか、分かり易く示してくれることになった。
それにどうやらアリシアもキャロルの存在を気にしていたようだ。
レイヴンへ心を向ける存在が気になるのは、レイヴンへ心が向いている証拠である。
そのことに本人が気がつくようジェーンとカナリーが上手く誘導してくれるだろう。
その立役者であるキャロルは、あの日仲睦まじいレイヴンとアリシアの姿を目の当たりにしたショックで部屋に閉じ籠っているらしく、最近は姿を見ていない。
レオナルドがグーリッド伯爵の邸を訪れると、伯爵夫妻が丁重に出迎えてくれた。
娘が王宮でレオナルドと交流を深めていると信じている伯爵は、レオナルドの訪問が正式な婚約の申し入れだと思っているらしい。
「娘には後程挨拶させます」とにこやかに笑う伯爵に、「その必要はありません」とレオナルドは冷たく告げる。
「今日はキャロル嬢をわたしの婚約者候補から外すことを伝えに来ました。わたしがキャロル嬢にお会いすることは二度とないでしょう」
「ええっ?!」
「そ、それは何故でしょか?!娘は毎日王宮へ連れて行ってくれとわたしにせがむ程レオナルド殿に心を寄せているのですよ?!」
グーリッド伯爵夫妻が驚愕の声を上げる。
その認識のおかしさにレオナルドの顔に冷笑が浮かんだ。
「おや、伯爵はご存知ないのですか?キャロル嬢が心を寄せているのはわたしではありません。わたしを利用して王太子殿下にすり寄っていると王宮で噂になっていますよ」
「え、ええっ?!」
伯爵夫妻は混乱した。
娘がレイヴンに思いを寄せているのは知っていた。
その想いを利用してレイヴンの側妃にしようと目論んだこともある。
だけどそれはもう、諦めたはずだ。
それに、娘のなにかおかしな行いが王宮で噂になっている…?
社交界における噂の恐ろしさを知っている伯爵は身を震わせた。
「それにキャロル嬢は、王太子殿下とキャンベル侯爵令嬢のおかしな噂を吹聴していたようですね」
「…っ?!」
これには夫人が息を飲んだ。
反対に伯爵は意味が分からないといった顔を見せている。
「夫人はご存知のようですから、この後でお伺い下さい。…そうそう、わたしとキャンベル侯爵令嬢は従妹でしてね。わたしは彼女を実の妹の様に思っているのですよ」
笑みを深めたレオナルドに夫妻は背筋が凍るような思いがした。
ジェーンはアリシアと仲が良いと知られているが、その兄であるレオナルドやもう1人の従兄、ロバートにも可愛がられていると耳にしたことがあったのだ。
ジェーンを社交界で見かける時は、常にどちらかがエスコートしていた。
「それではわたしはこれで失礼致します」
顔を青褪めさせて震える2人をよそ目に、レオナルドは優雅な礼をして伯爵邸から辞去した。
今後のキャロルの処遇は2人で考えてくれれば良い。
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