【本編完結】幸福のかたち【R18】

3章

84 負い目②

「…負い目？」

「アリシアが話していたでしょう。叔母上が亡くなった後、ジェーンが侯爵邸で辛い思いをしていることを僕は知っていました。デミオン殿やアンジュがジェーンに辛く当たっていることも、エミリーがジェーンのものを奪っていることも知っていて僕は、それでもアリシアを優先しました。妃教育で疲れ果てているアリシアをどうしても1人にしたくなかったのです」

　妃教育で疲れ果てたアリシアは休日をほとんど寝て過ごしていた。
　その間にジェーンの様子を見に行くことはできたのだ。
　レオナルドやアリシアが侯爵邸を訪れることで、ルトビア公爵家の目を気にするデミオンやアンジュの行いを抑えることが出来ていた。
　2人が訪ねなくなってから、ジェーンの置かれている状況が悪化しているだろうことは容易に想像できることだった。

　それなのにレオナルドは眠っているアリシアの傍に居続けた。目が覚めた時にアリシアを1人にしたくなかったからだ。
　アリシアは婚約者のレイヴンに大切にされていない。
　そんなアリシアに、自分は1人なのだと思わせたくなかった。
　大切に思っている存在が傍にいるのだと思わせてあげたかったもだ。

　恐れていた通り、レオナルドたちが訪ねる回数が減ってからジェーンの置かれた状況は段々と悪化していった。
　サンドラがいた頃からの使用人は減り、ジョッシュもジェーンを蔑ろにしてエミリーばかりを構うようになっていた。
　アンジュに暴力を受けていることにも気がつかなかった。

「アンジュに殴られるジェーンを見た時の衝撃が忘れられません。あれは僕がジェーンを見捨てた結果です。僕はあの時、これからは何よりもジェーンを優先すると誓いました。幸いアリシアも同じ気持ちでした」

　家庭教師を雇ってもらえないジェーンは貴族としての教育を受けていなかった。
　だから公爵家で保護をしている間にレオナルドが勉強を教えることにした。これには両親や祖母も協力的で、レオナルドが勉強を見れない時は、レオナルドの家庭教師をジェーンの為に呼んだりもした。
　将来的に侯爵領の経営に携わりたいジェーンの為に、祖母がレオナルドと一緒に公爵領を任せている代官について学べるように手配もしてくれた。
　学園に入ってからは大きな休みごとにレオナルドと一緒に公爵領をまわって学ぶようになった。
　ルトビア公爵領とキャンベル侯爵領ではまったく同じというわけにはいかないが、領地経営に必要な知識は変わらない。
　領地経営について学ぶ方法がこれしかないジェーンは、必死に努力をして状況に応じて応用できるだけの知識を身につけていったのだ。
　
　社交界に出る時は、ジェーンをエスコートしないジョッシュの代わりにレオナルドとロバートがパートナーを務めるようになった。ロバートは学園を卒業すると国外へ出るようになった為、近年はその役目を務められるのがレオナルドだけになっていた。
　結局、デビュタントや学園の卒業パーティーなどの人生の節目となる時でさえ、ジェーンをエスコートしたのはレオナルドだった。

「もし僕に婚約者がいたら、従妹とはいえ常に他の女性を優先し、エスコートする僕を許さないでしょう。その怒りや恨みはジェーンへ向かうかもしれず、そうなれば僕は婚約者を許すことが出来ません。結果として婚約者もジェーンも不幸にしてしまいます。それがわかっている以上、婚約者を持つことは出来ませんでした」