【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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3章

89 成就

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 何故こんなことになったのだろう。

 キャロルは領地へ向かう馬車の中でそればかりを考えていた。
 
 一昨日、レオナルドから訪問を知らせる先触れを受けたグーリッド伯爵家は喜びに沸いていた。
 邸中の誰もがレオナルドの婚約者としてキャロルが選ばれたと思ったからだ。
 満面の笑みで部屋へ飛び込んできた父親に、「美しく着飾って婚約者殿をお迎えするように」と命じられたキャロルは、暗い気持ちのまま身支度を整えることになった。


 キャロルはレイヴンとアリシアの仲睦まじい姿を間近で見たあの日から、部屋に閉じ籠って過ごしていた。
 
 初めの数日は朝食の席で父親に、「今日は王宮へ行かないのか」と訊かれたけれど、キャロルは顔を伏せたまま「行かない」とだけ答えていた。
 その答えに父親は不満気な顔をしていたけれど、数日経つ内にレオナルドが最近登城していないと聞いてきたようで、キャロルが登城しないのはレオナルドがいないからだと納得したようだ。
 
 化粧をするのも、ちゃんとしたドレスを身につけるのも久しぶりである。
 キャロルの身支度を手伝う侍女たちは皆嬉しそうで、口々に祝いの言葉を掛けてくる。
 その言葉を聞くたびに、キャロルの気分は益々暗くなっていった。

 レイヴンの寵愛を得るのは難しいのだとあの時思い知らされた。
 レイヴンを諦めるなら、今度こそ本気で嫁ぎ先を探さなければならない。
 だけどレオナルドと結婚してしまえば、レイヴンと仲睦まじいアリシアの姿を間近で見続けることになる。

 レオナルドと結婚なんてしたくない。
 だけど嫁き遅れと言われる年齢になったキャロルには選択肢があまりないのだ。
 諦めて結婚するしかないのだと、陰鬱な気持ちで考えていた。

 だけどそれは杞憂に終わる。
 伯爵邸を訪れたレオナルドは、婚約の申し入れではなく、キャロルを婚約者候補から外すと言ってきたからだ。
 キャロルはレオナルドに会うことなく、怒りで顔を紅潮させた父親に許可が出るまで部屋から出ることを禁じられた。
 母親は父親の隣でただただ泣いている。
 キャロルは何が起きているのか全くわからず、呆然と両親を見つめていた。

 結果的に部屋での謹慎は1日で解けた。
 王宮でキャロルの噂を聞いてきた父親が、キャロルを領地へ送ると決めたからだ。
 ルトビア公爵家の怒りを恐れた伯爵は、レオナルドの訪問からたった2日で娘を王都から追い出した。




 何故こんなことになったのだろう。

 キャロルはずっと考えている。

 昨日帰宅した父親に聞かされるまで、キャロルは自分が噂されているなんて知らなかった。
 王宮でしていたことを、多くの人に見られているなんて気づかなかった。
 レオナルドではなくレイヴンが目当てなのだと知られているなんて思わなかった。

 周りのことなど何も見えずに、ただレイヴンだけを見ていたからだ。
 噂で聞くキャロルはとんでもなく無礼な女だった。

 父親にはレイヴンとジェーンの噂を吹聴していたことも怒られた。
 お茶会でのことを居合わせた母親から聞いたようだ。

 これまでキャロルは噂を広めたことについて、罪悪感を持っていなかった。
 噂が広まることで、レイヴンとアリシアの仲が拗れれば良いと思っていたけれど、キャロルが新たな噂を作って流していたわけではない。
 既にある噂を人と会うたびに話題にしていただけだ。

 初めの内は噂を知らない人もいた。
 だけどすぐに誰もが知っている話になった。

 お茶会でこの話題を持ち出せば、みんな自分が知っている噂を披露してくれる。
 そこで教えられた噂を次のお茶会で話題にすると、またみんな自分が知っている噂を教えてくれる。
 それを延々と繰り返す。

 レイヴンとジェーンの噂はどこへ行っても歓迎される話題だった。
 貴族はみんな噂話が大好きで、特にやんごとない身分の方々の醜聞が好物なのだ。

 誰もが知る噂はやがてレイヴンとアリシアの耳にも入る。
 最近まで上手くいっていなかったのだから、これで完全に2人の仲は壊れるだろう。

 そう思って話していたのに、2人の仲は変わらなかった。
 それどころか仲睦まじい姿を頻繁に見かけるようになった。
 キャロルの思惑とは逆に、噂は2人の絆を強めたようだった。
 



 何故こんなことになったのだろう。

 もう何度目かわからない自問を繰り返す。
 馬車は領地へ向かって刻々と進んでいく。

 あの日、仲睦まじい2人の姿をこれ以上見たくないと強く思った。
 キャロルは領地へ送られて、王都へ戻れることは二度とない。

 レイヴンの姿を見ることは二度と出来ない。
 レイヴンへ向けた最後の願いは叶えられることになる。



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