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3章
95 商人の辛い1日
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「綺麗だよ、アリシア!」
「レイヴン様も素敵ですわ」
アリシアを迎えに来たレイヴンが感嘆の声を上げ、アリシアも微笑えんで答える。
これからクラーク伯爵邸で開かれる夜会へ出掛けるところだ。
婚姻を結んでからは出席する催しを2人の裁量で選べるようになり、臣下が主催する催しにはあまり出ないことにしている。
その2人を招くことが出来たとなるとその催しには箔がつき、主催者は社交界で一目置かれるようになる。
だからどこの家でも王太子夫妻を招待しようと躍起になっている。
レオナルドが議会でジェーンを侮辱した者たちを調べ上げた結果、権力を持つ家がいくつか没落した。
クラーク伯爵はその代わりとなる人物で、女性の継承権を認める法案を作るのに重要な役割を担っている。社交界での発言力を増してもらわなければならないのだ。
すっかり暑い季節になった為、アリシアは胸元から裾にかけて青色から白色へのグラデーションになった涼し気なドレスを着ている。胸元を飾るのは、アリシアの瞳と同じ色をしたエメラルドの首飾りだ。
どちらもレイヴンからの贈り物である。
執務室へ密かに商人を呼んだレイヴンは、いつもと同じ様に自分の瞳と同じ色をした、サファイアの首飾りを買おうとしていた。だけどそこに居合わせたレオナルドが、「生涯公の場でサファイアしか身につけさせないおつもりですか」と呆れたように言ったのだ。
もしそうなるとレイヴンは嬉しいが、アリシアは嫌がるかもしれない。
それが原因で嫌われることを恐れたレイヴンは、サファイアを止めて渋々エメラルドの首飾りにしたのだ。
それでも諦めが悪いレイヴンが選んだ首飾りには、エメラルドの周りに小さなサファイアが散りばめられている。まるでレイヴンがアリシアを囲い込んでいる様だ。
髪飾りはアリシアの部屋に商人を呼んで一緒に選んだ。
以前ドレスを作った時に、一緒に選ぶ楽しさを覚えたのだ。
アリシアは銀細工で石のついていないシンプルなものを選んだ。
その髪飾りがレースと一緒に緩く編み込まれたアリシアの髪に飾られている。
すっきりと見えて美しい。
この髪飾りを選んだ時に、アリシアからレイヴンへの贈り物も購入した。
刺繍は出来上がるまでにまだ少し時間が掛かる。
そう、相手が欲しいものがわからないのなら、一緒に選べば良いのだ。
アリシアから、「私にも何か贈らせて下さい」と言われたレイヴンは、目を輝かせて中心にエメラルドがついた銀細工のブートニエールを選んだ。
銀細工なのはアリシアの髪飾りと合わせるためだ。そしてレイヴンは、生涯身につける宝石がエメラルドだけであっても全く問題がない。
以前アリシアから贈られた懐中時計とカフスボタンは毎日身につけている。
レイヴンは選んだばかりのブートニエールをアリシアに差し出し、「つけて」と強請った。
王太子の蕩けるような顔と甘えた声に商人が驚いて目を見開くが、レイヴンは気にしない。
アリシアも人の身支度を手伝ったことがないのでまごついているが、商人のことは気にしていない。
不慣れな手つきでブートニエールをつけると、アリシアはレイヴンを窺った。
自然と上目遣いでレイヴンを見ることになる。
「可愛い!」
「えっ?!きゃあ!!」
急に抱きつかれたアリシアが悲鳴を上げる。
そんなことはお構いなしでレイヴンはアリシアに何度も口づける。
「可愛い、アリシア」
「可愛い」
アリシアの唇をちゅっちゅっと啄みながらレイヴンが繰り返す。
目のやり場に困った商人が1人でワタワタしていたが、部屋に控える侍女たちが動じることはない。
結局その後、アリシアの首飾りをもう1つ選ぶことになった。
アリシアの唇を何度も味わい陶然としたレイヴンが、「僕もアリシアに何かつけてあげたい!」と主張したからだ。
嬉しいやら居辛いやらで涙目の商人から、アリシアはトップにピンクダイヤがついた繊細な首飾りを選んだ。
そっと近づいてきたエレノアが、アリシアが元からつけていた首飾りをさっと外して立ち去っていく。
「後ろを向いて?」
甘い声で囁かれたアリシアが背を向けると、レイヴンは新しい首飾りをそっとつけた。
そのまま白い首筋に口づける。
「可愛いよ、アリシア」
レイヴンは首飾りなんて見ていない。
アリシアを後ろから抱き締め、首筋やうなじに何度も唇を落とすレイヴンから眼を逸らした商人は、広げた商品を手早く片付けると一礼をしてそそくさと立ち去った。
商人のこの辛い体験は、王太子夫妻の仲睦まじい噂となってあっという間に広まった。
「レイヴン様も素敵ですわ」
アリシアを迎えに来たレイヴンが感嘆の声を上げ、アリシアも微笑えんで答える。
これからクラーク伯爵邸で開かれる夜会へ出掛けるところだ。
婚姻を結んでからは出席する催しを2人の裁量で選べるようになり、臣下が主催する催しにはあまり出ないことにしている。
その2人を招くことが出来たとなるとその催しには箔がつき、主催者は社交界で一目置かれるようになる。
だからどこの家でも王太子夫妻を招待しようと躍起になっている。
レオナルドが議会でジェーンを侮辱した者たちを調べ上げた結果、権力を持つ家がいくつか没落した。
クラーク伯爵はその代わりとなる人物で、女性の継承権を認める法案を作るのに重要な役割を担っている。社交界での発言力を増してもらわなければならないのだ。
すっかり暑い季節になった為、アリシアは胸元から裾にかけて青色から白色へのグラデーションになった涼し気なドレスを着ている。胸元を飾るのは、アリシアの瞳と同じ色をしたエメラルドの首飾りだ。
どちらもレイヴンからの贈り物である。
執務室へ密かに商人を呼んだレイヴンは、いつもと同じ様に自分の瞳と同じ色をした、サファイアの首飾りを買おうとしていた。だけどそこに居合わせたレオナルドが、「生涯公の場でサファイアしか身につけさせないおつもりですか」と呆れたように言ったのだ。
もしそうなるとレイヴンは嬉しいが、アリシアは嫌がるかもしれない。
それが原因で嫌われることを恐れたレイヴンは、サファイアを止めて渋々エメラルドの首飾りにしたのだ。
それでも諦めが悪いレイヴンが選んだ首飾りには、エメラルドの周りに小さなサファイアが散りばめられている。まるでレイヴンがアリシアを囲い込んでいる様だ。
髪飾りはアリシアの部屋に商人を呼んで一緒に選んだ。
以前ドレスを作った時に、一緒に選ぶ楽しさを覚えたのだ。
アリシアは銀細工で石のついていないシンプルなものを選んだ。
その髪飾りがレースと一緒に緩く編み込まれたアリシアの髪に飾られている。
すっきりと見えて美しい。
この髪飾りを選んだ時に、アリシアからレイヴンへの贈り物も購入した。
刺繍は出来上がるまでにまだ少し時間が掛かる。
そう、相手が欲しいものがわからないのなら、一緒に選べば良いのだ。
アリシアから、「私にも何か贈らせて下さい」と言われたレイヴンは、目を輝かせて中心にエメラルドがついた銀細工のブートニエールを選んだ。
銀細工なのはアリシアの髪飾りと合わせるためだ。そしてレイヴンは、生涯身につける宝石がエメラルドだけであっても全く問題がない。
以前アリシアから贈られた懐中時計とカフスボタンは毎日身につけている。
レイヴンは選んだばかりのブートニエールをアリシアに差し出し、「つけて」と強請った。
王太子の蕩けるような顔と甘えた声に商人が驚いて目を見開くが、レイヴンは気にしない。
アリシアも人の身支度を手伝ったことがないのでまごついているが、商人のことは気にしていない。
不慣れな手つきでブートニエールをつけると、アリシアはレイヴンを窺った。
自然と上目遣いでレイヴンを見ることになる。
「可愛い!」
「えっ?!きゃあ!!」
急に抱きつかれたアリシアが悲鳴を上げる。
そんなことはお構いなしでレイヴンはアリシアに何度も口づける。
「可愛い、アリシア」
「可愛い」
アリシアの唇をちゅっちゅっと啄みながらレイヴンが繰り返す。
目のやり場に困った商人が1人でワタワタしていたが、部屋に控える侍女たちが動じることはない。
結局その後、アリシアの首飾りをもう1つ選ぶことになった。
アリシアの唇を何度も味わい陶然としたレイヴンが、「僕もアリシアに何かつけてあげたい!」と主張したからだ。
嬉しいやら居辛いやらで涙目の商人から、アリシアはトップにピンクダイヤがついた繊細な首飾りを選んだ。
そっと近づいてきたエレノアが、アリシアが元からつけていた首飾りをさっと外して立ち去っていく。
「後ろを向いて?」
甘い声で囁かれたアリシアが背を向けると、レイヴンは新しい首飾りをそっとつけた。
そのまま白い首筋に口づける。
「可愛いよ、アリシア」
レイヴンは首飾りなんて見ていない。
アリシアを後ろから抱き締め、首筋やうなじに何度も唇を落とすレイヴンから眼を逸らした商人は、広げた商品を手早く片付けると一礼をしてそそくさと立ち去った。
商人のこの辛い体験は、王太子夫妻の仲睦まじい噂となってあっという間に広まった。
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