243 / 697
3章
97 レイヴンの目的
しおりを挟む
クラーク伯爵家の夜会にはレオナルドも出席していた。
目的はレイヴンと同様で、クラーク伯爵にはルトビア公爵家との繋がりがあるのだと知らしめるためである。
クラーク伯爵にはこれからレイヴンの為に存分に働いてもらわなければならないのだ。
デミオンとアンジュの処罰から始まった女性の継承権に関する問題だが、問題点の洗い出しや問題に対処するのに必要な法案の作成を主導するよう命じられたレイヴンは、周りが驚くほど必死に取り組んでいる。
レオナルドは昔から王太子としてのレイヴンの能力や仕事ぶりは認めていた。
そんなレオナルドが驚くほどの過剰な取り組み方をしているという。
「何故、そんなに必死なのです?」
2人きりの執務室でレオナルドは問いかけた。
レオナルドはこの法案に関する討議の場に加わることを許されていない。
だからレオナルドが知っているのは僅かに漏れ聞こえてくる噂だけだ。
女性の継承権が認められることで想定される問題を徹底的に洗い出し、対策を立てる。
どこかを拾えばどこかが零れる。全てが上手くいくような解決策は存在しない為、重要なのは妥協点をどこに定めるのかだ。
それなのにレイヴンは、考え得るすべての問題に対処しようとしているというのだ。
レイヴンは無言のまま暫くレオナルドを見ていた。
レオナルドが何のことを言っているのかはわかっているはずだ。
長いようで短い時間見つめ合った後、レイヴンが口を開いた。
「女王を認めされたい」
「…………は?」
おかしな声が出た。
レイヴンが今取り組んでいるのは、貴族の継承権の問題だ。
王家も貴族と同じで女性に王位継承権は認められていないが、今回の法改正の対象には入っていない。
周辺諸国では女王や女帝を認めている国もあるが、この国でも適用させようとすればこれまでとは比にならない程の反発があるだろう。
当然レイヴンもわかっているはずだ。
「――僕は側妃を娶りたくない」
「…………」
それが今、何の関係が?
ついそう言ってしまいそうになるのを、レオナルドは懸命に堪えた。
「…アリシアにまだ子どもがいない。アリシアが言う通り、結婚してからもうすぐ3年になる。このまま懐妊しなければ側妃を娶るように圧力が掛かるだろう。それにこれから懐妊したとしても、生まれてくるのが王子とは限らない」
余所余所しく過ごしていた初めの2年が悔やまれる。
「まともに閨を共にするようになったのはここ数か月のことなので、それまでの2年間は無かったことにして欲しい」
そんな言い分が通じるはずがないことは、レイヴンにもわかっている。
世継ぎを生むことが妃として一番の役目だと誰より理解しているアリシアは、「世継ぎを儲ける為に側妃を」と言われればすんなりと受け入れるだろう。
だけどレイヴンは二度とアリシアに側妃を勧められたくない。
アリシアが懐妊すれば側妃を娶らせようとする圧力を一時は抑えることが出来る。
だけどそれで生まれたのが王女であれば、皆落胆し、側妃を迎えるよう一層強く求められるだろう。
だけど王女にも王位継承権があれば。
王女であってもアリシアは世継ぎを生んだことになる。
「それは――」
レオナルドが絶句する。
そもそもアリシアが懐妊しなければ意味が無いことはレイヴンにもわかっている。
だけど側妃を押し付けられる可能性を少しでも減らしたい。
だから今、レイヴンは必死になっている。
貴族の女性に継承権が認められなければ、王女の王位継承権など認められるはずがない。
考え得る限りの問題を洗い出し、可能な限り不平不満が抑えられるように対策を練る。
女性の王位継承権を認めさせる為の布石として、この法案は重要な意味を持つ。
「わかりました」
「レオナルド?」
法案はレイヴンが1人で作るわけではない。
王位継承権に関する法を変える時、今共に取り組んでいる者たちが大きな力となるはずだ。
それを考えると、その者たちの発言力を強めておいた方が良い。
そして大きな反発の中でも法の改定を支持する勢力が必要だ。
「父に相談が必要ですが、父は恐らく殿下に賛同するでしょう。そうすれば他にも賛同者を募ります」
「――良いのか?」
レイヴンがこれまでレオナルドに話さなかったのは、ルトビア公爵家がアリシアの実家だからである。
王位継承権に関する法の改定にルトビア公爵家が動けば、ルトビア公爵家が権力を独占する為だと謗られることになる。
「アリシアの為ですよ。殿下もご存知の通り、わたしは妹を溺愛しているのです」
もしレイヴンが側妃を迎えることになっても、レイヴンがアリシアを蔑ろにすることは無いと今では信じられる。
それでもアリシアの心を乱す側妃などいない方が良い。
その日からレオナルドは、貴族への根回しの為に奔走することになった。
それと同時にジェーンを侮辱した者たちの調査にもより一層力を入れたことは間違いない。
目的はレイヴンと同様で、クラーク伯爵にはルトビア公爵家との繋がりがあるのだと知らしめるためである。
クラーク伯爵にはこれからレイヴンの為に存分に働いてもらわなければならないのだ。
デミオンとアンジュの処罰から始まった女性の継承権に関する問題だが、問題点の洗い出しや問題に対処するのに必要な法案の作成を主導するよう命じられたレイヴンは、周りが驚くほど必死に取り組んでいる。
レオナルドは昔から王太子としてのレイヴンの能力や仕事ぶりは認めていた。
そんなレオナルドが驚くほどの過剰な取り組み方をしているという。
「何故、そんなに必死なのです?」
2人きりの執務室でレオナルドは問いかけた。
レオナルドはこの法案に関する討議の場に加わることを許されていない。
だからレオナルドが知っているのは僅かに漏れ聞こえてくる噂だけだ。
女性の継承権が認められることで想定される問題を徹底的に洗い出し、対策を立てる。
どこかを拾えばどこかが零れる。全てが上手くいくような解決策は存在しない為、重要なのは妥協点をどこに定めるのかだ。
それなのにレイヴンは、考え得るすべての問題に対処しようとしているというのだ。
レイヴンは無言のまま暫くレオナルドを見ていた。
レオナルドが何のことを言っているのかはわかっているはずだ。
長いようで短い時間見つめ合った後、レイヴンが口を開いた。
「女王を認めされたい」
「…………は?」
おかしな声が出た。
レイヴンが今取り組んでいるのは、貴族の継承権の問題だ。
王家も貴族と同じで女性に王位継承権は認められていないが、今回の法改正の対象には入っていない。
周辺諸国では女王や女帝を認めている国もあるが、この国でも適用させようとすればこれまでとは比にならない程の反発があるだろう。
当然レイヴンもわかっているはずだ。
「――僕は側妃を娶りたくない」
「…………」
それが今、何の関係が?
ついそう言ってしまいそうになるのを、レオナルドは懸命に堪えた。
「…アリシアにまだ子どもがいない。アリシアが言う通り、結婚してからもうすぐ3年になる。このまま懐妊しなければ側妃を娶るように圧力が掛かるだろう。それにこれから懐妊したとしても、生まれてくるのが王子とは限らない」
余所余所しく過ごしていた初めの2年が悔やまれる。
「まともに閨を共にするようになったのはここ数か月のことなので、それまでの2年間は無かったことにして欲しい」
そんな言い分が通じるはずがないことは、レイヴンにもわかっている。
世継ぎを生むことが妃として一番の役目だと誰より理解しているアリシアは、「世継ぎを儲ける為に側妃を」と言われればすんなりと受け入れるだろう。
だけどレイヴンは二度とアリシアに側妃を勧められたくない。
アリシアが懐妊すれば側妃を娶らせようとする圧力を一時は抑えることが出来る。
だけどそれで生まれたのが王女であれば、皆落胆し、側妃を迎えるよう一層強く求められるだろう。
だけど王女にも王位継承権があれば。
王女であってもアリシアは世継ぎを生んだことになる。
「それは――」
レオナルドが絶句する。
そもそもアリシアが懐妊しなければ意味が無いことはレイヴンにもわかっている。
だけど側妃を押し付けられる可能性を少しでも減らしたい。
だから今、レイヴンは必死になっている。
貴族の女性に継承権が認められなければ、王女の王位継承権など認められるはずがない。
考え得る限りの問題を洗い出し、可能な限り不平不満が抑えられるように対策を練る。
女性の王位継承権を認めさせる為の布石として、この法案は重要な意味を持つ。
「わかりました」
「レオナルド?」
法案はレイヴンが1人で作るわけではない。
王位継承権に関する法を変える時、今共に取り組んでいる者たちが大きな力となるはずだ。
それを考えると、その者たちの発言力を強めておいた方が良い。
そして大きな反発の中でも法の改定を支持する勢力が必要だ。
「父に相談が必要ですが、父は恐らく殿下に賛同するでしょう。そうすれば他にも賛同者を募ります」
「――良いのか?」
レイヴンがこれまでレオナルドに話さなかったのは、ルトビア公爵家がアリシアの実家だからである。
王位継承権に関する法の改定にルトビア公爵家が動けば、ルトビア公爵家が権力を独占する為だと謗られることになる。
「アリシアの為ですよ。殿下もご存知の通り、わたしは妹を溺愛しているのです」
もしレイヴンが側妃を迎えることになっても、レイヴンがアリシアを蔑ろにすることは無いと今では信じられる。
それでもアリシアの心を乱す側妃などいない方が良い。
その日からレオナルドは、貴族への根回しの為に奔走することになった。
それと同時にジェーンを侮辱した者たちの調査にもより一層力を入れたことは間違いない。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1,708
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる