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3章

128 休日の過ごし方

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「アリシア、デートしよう」

「デート、ですか?」

 アリシアの気持ちを聞いてから1日経った。
 レイヴンはこれまでと同じようにアリシアを膝に乗せている。
 以前はレイヴンと目を合わせて話をしてくれていたアリシアだが、今は僅かに目を逸らしている。
 
 しっかりと目を見返していたのは、レイヴンのことをなんとも思っていなかったからだ。見つめ合うことにも躊躇いが無かった。
 今は恥ずかしそうに、それを気づかれないようにと僅かに目を逸らしている。
 それが何とも言えず可愛い。

「前に話したと思うけど、学園の帰りにアリシアとデートするのが夢だったんだ」

 レイヴンは逸らされた視線に気がつかない振りをして話し始める。
 照れくさくて相手の顔を見れなかったり上手く話せなかったりするのは、10年以上アリシアへの想いを抱えながら、それを言葉にも態度にも表すことが出来なかったレイヴンには良くわかる。
 それを気づかれないようにしてこれまで通り振舞おうとするのは立派だと思う。
 だからアリシアの負担になるようなことを言うつもりはない。

 学生の頃、婚約者と仲の良いクラスメイトは放課後婚約者と一緒に王都の街でデートしていた。
 一緒に買い物をしたり、カフェへ行ったりしたという話をレイヴンは羨ましく聞いていたのだ。

「街に、ですか。ですが今は忙しいのでは…」

 レイヴンが忙しいのは勿論だが、2人が揃って街に出るとなると厳重な警備が必要になる。
 使節団の出立式を控えている今、兵にもそんな余裕はないはずだ。

「大丈夫だよ。そこはレオが上手くやってくれるから」

「お兄様が?」

「うん」

 嬉しそうに微笑むレイヴンには躊躇いがない。
 レオナルドが認めているなら良いのだろうか。
 

 昨日はあの後、レイヴンはアリシアを抱き締めたまま泣きじゃくった。
 冷静になれば情けないような気もするが、あの時はそんなことを考える余裕が無かった。
 
 少し落ち着いた後も、レイヴンはアリシアと離れたくない、執務を休んでアリシアに付き添うと言い張った。
 体調を崩しているアリシアに口づけ以上のことをするつもりはない。
 それでも傍にいたい。
 離れたくない。

 そう言ってごねるレイヴンを窘めたのもアリシアだった。
 与えられた職務を無責任に放棄してはいけないという。
 それどころか、寝不足なだけで体調が悪いわけではないからと自身も休まず執務を行うと言う。
 レイヴンは慌ててそれを止めた。

 いけないことをしたら叱って正しいことを教えるのは愛しているからだ。
 アリシアはレイヴンを愛してくれている。

 離れるのは淋しいけれど、アリシアはレイヴンを想って言ってくれているのだから従うしかない。
 それにレイヴンが休もうとするからアリシアは働こうとする。
 そう思ったレイヴンは渋々執務室へ向かった。――散々アリシアの額や頬に口づけてから。
 

 結果をいうと、仕事にならなかった。

 執務に集中しようとはした。
 だけど気がつくとアリシアのことを考えている。
 潤んだ瞳や赤く染まった頬、「愛しています」という声を思い出して頬が緩む。
 重ねた唇の甘さやアリシアから絡められた舌の感触を思い出すと体の一部に熱が溜まっていく。

 早くアリシアの元へ戻る為にも早く執務を終えなければならない。
 それなのに全く集中できない。

 遅々として進まない書類にレオナルドが溜息を吐いた。
 レオナルドが何度訪ねて来てもレイヴンの手元にある書類は変わっていない。
 レイヴンは何も話していないのに、レオナルドはすべて知っているようだった。

 何度目かの訪問の後、レオナルドは諦めたようだ。
 このままでは使い物にならないのは自分でもわかる。
 顔を赤らめるレイヴンに、レオナルドがアリシアと一緒に1日休みを取るよう言った。

 突然休むのは良くないが、仕事を調整して計画的に休むのなら問題はない。 
 2人きりで過ごして思いっきり発散させろというレオナルドに、レイヴンは「王都の街でアリシアとデートしたい」と答えた。
 1日寝室に籠ることを予想していたレオナルドは、予想外の答えに目を丸くした。

 視察ではなくデートだからお忍びということだ。
 2人が街へ出るなら厳重な警備が必要になる。だけどお忍びだから街の人に気付かれるような警備はできない。

 忙しい時に飛び込んできた予想外の事態にレオナルドは頭を抱えた。
 だけどすっかりその気になって猛然と執務に取り組むレイヴンに駄目とは言えなかった。
 
 


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