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3章
133 帰路
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アリシアは馬車の窓から流れる景色を見ていた。
既に日が落ちて暗くなっているが整然とした貴族街とは違って人々の喧騒が聞こえてくる。
流れる街の灯りに何故か切ないような気持ちになった。
今まで馬車に乗っていても外の景色を気にしたことなどなかったのに、目を離すことができない。離れがたいのかもしれない。
レイヴンもアリシアの隣で同じ景色を見ていた。
街の灯りが少しずつ遠ざかっていく。
外を眺めるアリシアの横顔は美しい。
その横顔を見ていると愛おしさが込み上げて来て泣きたくなった。
そのまま暫く2人で外を見ていた。
会話がなくても互いにこの非日常の日が終わることを惜しむ気持ちが伝わってくる。
そうする内に街の灯は遠く後ろへ流れてしまった。
レイヴンがアリシアと繋いでいる手に力を込めるとアリシアが振り向いた。
2人の手首では同じブレスレットが揺れている。
レイヴンのブレスレットはお金を払った後でアリシアがつけた。
初々しい2人の様子を微笑ましく見ていた店員に、「もしかして初デートですか?」と訊かれたレイヴンは、「そうなんです」と照れくさそうな笑顔を見せていた。
「アリシア、今日は楽しかった?」
「はい。初めてのことばかりで楽しかったですわ」
アリシアの笑顔に嘘は見えない。
本当に楽しんでいたのだとわかり、レイヴンは嬉しくなる。
「僕もすごく楽しかった。ありがとう、アリシア」
込み上げる気持ちのまま、レイヴンはアリシアを抱き締める。
今日のデートは学生の頃に果たせなかった夢だ。
だから今日は婚約者として振舞い、婚約者としての節度を守った行いを心がけていた。
だけど今は結婚していて良かったと、心から思っている。
「もっと早く、ちゃんと気持ちを伝えれば良かった。そうしたら婚約者としてこんな風に過ごすことができたんだ。そう思うと後悔しかない。だけど今は結婚していて良かったと心から思うよ。婚約者なら公爵邸に送らなきゃいけなかった。だけど離れたくない。――公爵邸に着いてもアリシアを離せる自信がない」
婚約者の時なら遅くなり過ぎない時間に公爵邸へ送らないといけない。
だけど公爵邸に着いてもきっと離せなかった。帰したくなくて、こうして抱き締めて引き留めただろう。
いつまでも馬車から降りなければ不審に思われる。レオナルドやオレリアが様子を見に来たかもしれない。
そうしたらもう引き留められない。
「嫌だ、アリシア。帰らないで。このまま一緒にいて」
アリシアを抱き締めたレイヴンが震えている。
レイヴンの向こう側にある窓から見える景色をアリシアは良く知っていた。
ここはルトビア公爵邸のすぐ近くだ。もう少しで公爵邸に着く。
だけど馬車が公爵邸の門をくぐることは無い。門の前を通り過ぎて王宮へ向かうのだ。
「一緒におりますわ、レイヴン様」
レイヴンはアリシアの気持ちを信じられないのかもしれない。
ふとアリシアはそう思った。
レイヴンへ気持ちを告げた後も2人の関係は特に変わっていない。
レイヴンはそれまでと同じように甘くて優しい。アリシアを大切にしてくれている。
アリシアはそれを受け入れているだけだ。
だからレイヴンは今でも自分だけが想っているような気がして不安になるのだろう。
「お忘れですか?レイヴン様。私たちはもう結婚しているのですよ。私たちが帰るのは同じ場所ですわ」
アリシアは震えるレイヴンの背中を優しく撫でる。
アリシアもレイヴンを想っていることを信じて欲しい。
「うん。――うん。愛している、アリシア」
「わ、私も愛していますわ」
咄嗟にアリシアも同じ言葉を返していた。
途端にレイヴンが体を離して驚いたようにアリシアの顔を見る。
顔が熱を持ったように熱くなった。
「アリシア!!」
感極まった様子でレイヴンが口づける。
繰り返し口づけられる度に口づけは深くなっていった。
「愛している、アリシア。離れないで。ずっと一緒にいて」
「…愛しています、レイヴン様。ずっと一緒ですわ」
アリシアを抱き締めるレイヴンの腕に力が籠る。
そのまま2人は口づけを交わし続けた。
気がつくと馬車が止まっていた。
いつの間にか王太子宮へ戻ってきていたのだ。
既に日が落ちて暗くなっているが整然とした貴族街とは違って人々の喧騒が聞こえてくる。
流れる街の灯りに何故か切ないような気持ちになった。
今まで馬車に乗っていても外の景色を気にしたことなどなかったのに、目を離すことができない。離れがたいのかもしれない。
レイヴンもアリシアの隣で同じ景色を見ていた。
街の灯りが少しずつ遠ざかっていく。
外を眺めるアリシアの横顔は美しい。
その横顔を見ていると愛おしさが込み上げて来て泣きたくなった。
そのまま暫く2人で外を見ていた。
会話がなくても互いにこの非日常の日が終わることを惜しむ気持ちが伝わってくる。
そうする内に街の灯は遠く後ろへ流れてしまった。
レイヴンがアリシアと繋いでいる手に力を込めるとアリシアが振り向いた。
2人の手首では同じブレスレットが揺れている。
レイヴンのブレスレットはお金を払った後でアリシアがつけた。
初々しい2人の様子を微笑ましく見ていた店員に、「もしかして初デートですか?」と訊かれたレイヴンは、「そうなんです」と照れくさそうな笑顔を見せていた。
「アリシア、今日は楽しかった?」
「はい。初めてのことばかりで楽しかったですわ」
アリシアの笑顔に嘘は見えない。
本当に楽しんでいたのだとわかり、レイヴンは嬉しくなる。
「僕もすごく楽しかった。ありがとう、アリシア」
込み上げる気持ちのまま、レイヴンはアリシアを抱き締める。
今日のデートは学生の頃に果たせなかった夢だ。
だから今日は婚約者として振舞い、婚約者としての節度を守った行いを心がけていた。
だけど今は結婚していて良かったと、心から思っている。
「もっと早く、ちゃんと気持ちを伝えれば良かった。そうしたら婚約者としてこんな風に過ごすことができたんだ。そう思うと後悔しかない。だけど今は結婚していて良かったと心から思うよ。婚約者なら公爵邸に送らなきゃいけなかった。だけど離れたくない。――公爵邸に着いてもアリシアを離せる自信がない」
婚約者の時なら遅くなり過ぎない時間に公爵邸へ送らないといけない。
だけど公爵邸に着いてもきっと離せなかった。帰したくなくて、こうして抱き締めて引き留めただろう。
いつまでも馬車から降りなければ不審に思われる。レオナルドやオレリアが様子を見に来たかもしれない。
そうしたらもう引き留められない。
「嫌だ、アリシア。帰らないで。このまま一緒にいて」
アリシアを抱き締めたレイヴンが震えている。
レイヴンの向こう側にある窓から見える景色をアリシアは良く知っていた。
ここはルトビア公爵邸のすぐ近くだ。もう少しで公爵邸に着く。
だけど馬車が公爵邸の門をくぐることは無い。門の前を通り過ぎて王宮へ向かうのだ。
「一緒におりますわ、レイヴン様」
レイヴンはアリシアの気持ちを信じられないのかもしれない。
ふとアリシアはそう思った。
レイヴンへ気持ちを告げた後も2人の関係は特に変わっていない。
レイヴンはそれまでと同じように甘くて優しい。アリシアを大切にしてくれている。
アリシアはそれを受け入れているだけだ。
だからレイヴンは今でも自分だけが想っているような気がして不安になるのだろう。
「お忘れですか?レイヴン様。私たちはもう結婚しているのですよ。私たちが帰るのは同じ場所ですわ」
アリシアは震えるレイヴンの背中を優しく撫でる。
アリシアもレイヴンを想っていることを信じて欲しい。
「うん。――うん。愛している、アリシア」
「わ、私も愛していますわ」
咄嗟にアリシアも同じ言葉を返していた。
途端にレイヴンが体を離して驚いたようにアリシアの顔を見る。
顔が熱を持ったように熱くなった。
「アリシア!!」
感極まった様子でレイヴンが口づける。
繰り返し口づけられる度に口づけは深くなっていった。
「愛している、アリシア。離れないで。ずっと一緒にいて」
「…愛しています、レイヴン様。ずっと一緒ですわ」
アリシアを抱き締めるレイヴンの腕に力が籠る。
そのまま2人は口づけを交わし続けた。
気がつくと馬車が止まっていた。
いつの間にか王太子宮へ戻ってきていたのだ。
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