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3章
150 刺繍③
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カナリーは以前アリシアが贈った刺繍も知っている。あの時も見事な刺繍だと思ったけれど、これを見るとやはり以前のものは練習段階のものだったのだと思わざるを得ない。
カナリーも刺繍の腕には自信がある。だけど自信があるだけに、最近では刺繍を刺していてもそれほど真剣には取り組んでいなかった。
私ももっと練習しよう。
カナリーはそう心に決めた。
同時に以前ジェーンが話していたことを思い出す。
アリシアの立ち居振る舞いは美しい。
そのアリシアに憧れた女生徒たちが熱心に礼儀作法やマナーの授業に取り組んだ。その結果アリシアと同年代の令嬢たちは全体的に礼儀作法やマナーの質が高いと言われるようになった。
その時の女生徒たちは、きっと今のカナリーのような心境だったのだ。
王妃や王太子妃に求められる役割として、臣下の者たちの見本となり指針となること、というのがある。
アリシアは結婚前からその役目を果たしていたのだ。
アリシアの隣ではレイヴンが喜びを噛み締めている。
レイヴンには最近良いことばかりだ。
「ありがとう、アリシア。これは大事に飾っておくね」
「……え?」
「お兄様?」
「それはちょっと…」
「飾るものではないのでは?」
「……使って下さいませ」
喜んでいるのはわかるが、レイヴンの言葉に皆の反応はいまいちだ。
だけどレイヴンは納得がいかないようで首を横に振る。
「使うのは勿体ないよ。使ってると駄目になっちゃうし」
確かにハンカチーフは使っている内にくたびれてしまう。
だけど飾っていても意味のないものだ。
「もう少し簡単なものであれば、そんなに時間を掛けずに刺すことができますから、また刺繍を致しますわ。なのでこれは使ってくださいませ」
「…また作ってくれるの?」
レイヴンが目を輝かせる。
それを見ているとアリシアは幸せな気持ちになった。
贈り物をするのはその人の気を引きたいから、というのもある。
だけど喜んで欲しい、喜んでいる姿を見たいという気持ちもあるのだ。
「レイヴン様のお好きなものを教えてください。次はそれを刺しますわ」
アリシアが今回刺繍をするのに時間が掛かったのは図案に悩んだからだ。
贈る側と贈られる側の関係性にもよるが、通常こういったものは2人の共通した思い出のものが図案になることが多い。次に多いのが家紋といったその人や家を象徴するもので、その他は男性なら剣や馬、女性なら花、といった当たり障りがないものになる。
アリシアは2人の思い出にあるものを考えたのだが、共通の思い出と言えるのはジェーンの庭園や王宮の庭園、一緒に慰問に行った孤児院や病院しか浮かばなかった。
ジェーンやカナリーならば庭園の花壇を図案にすれば喜ばれると思うが、レイヴンが花壇の刺繍を貰って喜ぶのか疑問だった。
結局レイヴンの王太子という地位に合わせた、国花と国鳥という国を象徴するものを選んだのだ。
「アリシアが刺してくれるならどんなものでも嬉しいけど、2人の思い出のものがいいな」
レイヴンが言うのはやはり夫婦や恋人なら当然一番最初に選ばれるものだ。
だけどレイヴンもすぐに2人の共通した思い出が少ないことに気がついたようだ。
勿論レイヴンはアリシアが刺してくれるのならカトレアでも鷹でも薔薇でもフリージアでも何でも嬉しい。だけど共通の思い出をもっと作りたいと思う。
「…本当はもっとちゃんと決まってから伝えようと思っていたんだけど、次の領地の視察にはアリシアも一緒に来てもらおうと思ってるんだ」
「……は?」
レイヴンの言葉に一番反応したのはレオナルドだった。
カナリーも刺繍の腕には自信がある。だけど自信があるだけに、最近では刺繍を刺していてもそれほど真剣には取り組んでいなかった。
私ももっと練習しよう。
カナリーはそう心に決めた。
同時に以前ジェーンが話していたことを思い出す。
アリシアの立ち居振る舞いは美しい。
そのアリシアに憧れた女生徒たちが熱心に礼儀作法やマナーの授業に取り組んだ。その結果アリシアと同年代の令嬢たちは全体的に礼儀作法やマナーの質が高いと言われるようになった。
その時の女生徒たちは、きっと今のカナリーのような心境だったのだ。
王妃や王太子妃に求められる役割として、臣下の者たちの見本となり指針となること、というのがある。
アリシアは結婚前からその役目を果たしていたのだ。
アリシアの隣ではレイヴンが喜びを噛み締めている。
レイヴンには最近良いことばかりだ。
「ありがとう、アリシア。これは大事に飾っておくね」
「……え?」
「お兄様?」
「それはちょっと…」
「飾るものではないのでは?」
「……使って下さいませ」
喜んでいるのはわかるが、レイヴンの言葉に皆の反応はいまいちだ。
だけどレイヴンは納得がいかないようで首を横に振る。
「使うのは勿体ないよ。使ってると駄目になっちゃうし」
確かにハンカチーフは使っている内にくたびれてしまう。
だけど飾っていても意味のないものだ。
「もう少し簡単なものであれば、そんなに時間を掛けずに刺すことができますから、また刺繍を致しますわ。なのでこれは使ってくださいませ」
「…また作ってくれるの?」
レイヴンが目を輝かせる。
それを見ているとアリシアは幸せな気持ちになった。
贈り物をするのはその人の気を引きたいから、というのもある。
だけど喜んで欲しい、喜んでいる姿を見たいという気持ちもあるのだ。
「レイヴン様のお好きなものを教えてください。次はそれを刺しますわ」
アリシアが今回刺繍をするのに時間が掛かったのは図案に悩んだからだ。
贈る側と贈られる側の関係性にもよるが、通常こういったものは2人の共通した思い出のものが図案になることが多い。次に多いのが家紋といったその人や家を象徴するもので、その他は男性なら剣や馬、女性なら花、といった当たり障りがないものになる。
アリシアは2人の思い出にあるものを考えたのだが、共通の思い出と言えるのはジェーンの庭園や王宮の庭園、一緒に慰問に行った孤児院や病院しか浮かばなかった。
ジェーンやカナリーならば庭園の花壇を図案にすれば喜ばれると思うが、レイヴンが花壇の刺繍を貰って喜ぶのか疑問だった。
結局レイヴンの王太子という地位に合わせた、国花と国鳥という国を象徴するものを選んだのだ。
「アリシアが刺してくれるならどんなものでも嬉しいけど、2人の思い出のものがいいな」
レイヴンが言うのはやはり夫婦や恋人なら当然一番最初に選ばれるものだ。
だけどレイヴンもすぐに2人の共通した思い出が少ないことに気がついたようだ。
勿論レイヴンはアリシアが刺してくれるのならカトレアでも鷹でも薔薇でもフリージアでも何でも嬉しい。だけど共通の思い出をもっと作りたいと思う。
「…本当はもっとちゃんと決まってから伝えようと思っていたんだけど、次の領地の視察にはアリシアも一緒に来てもらおうと思ってるんだ」
「……は?」
レイヴンの言葉に一番反応したのはレオナルドだった。
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