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3章
149 刺繍②
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「お兄様がお義姉様の為にこの調度品を用意したのですか?全部?!」
部屋に入ってきてから暫く呆然としていたカナリーだが、気を取り直した後は興奮して部屋の中を見てまわっていた。
他所の家の調度品を見てまわるなど不躾で非難される振る舞いだが、ここではアリシアが許している。
一国の王女が興奮して見てまわる程リトマインは高位貴族が憧れるメーカーなのだ。
ノティスはそんな異母姉の様子に驚いた顔をしているが、ここの調度品はそれだけ凄いものなのだ、ということは理解したらしい。
興奮して調度品を見てまわっていたカナリーだが、その後到着したレオナルドやジェーンがこの部屋を見ても全く驚いていないことに気がついた。
2人はこれまでにこの素晴らしい部屋へ招かれたことがあるのだ。
カナリーはそこで気がついた。
公的な王太子妃の部屋はある。
アリシアは普段そこを使用していて、来客もそこで受けている。
この部屋は普通の来客ではない、特別な人を迎える為の部屋なのだ。
その部屋にカナリーやノティスを迎えてくれた。
これまであった壁が消え、カナリーとノティスをアリシアの内側に入れてくれたのだ。
レオナルドとジェーンを笑顔で迎え入れるアリシアを見ながら、カナリーは湧き上がる喜びを噛み締めていた。
全員が揃ったところでお茶会が始まった。
カナリーも席についている。
お茶会のルールはこれまでと変わらない。
アルスタ語で話すことと、自由に発言すること、それだけである。
カナリーとノティスがこのお茶会に参加するようになるまでジェーンはカナリーと面識がなかったし、ノティスとも挨拶を交わしただけだった。
アリシアにしても2人と面識はあったものの親しいとは決して言えない間柄だった。
それなのに今ではこうして集まることが当然のことのように思えているし、これを最後に当分集まることができないことを淋しく感じている。
この中では一番関りの少なかったレオナルドも、持ち前の社交性を存分に発揮してカナリーやノティスとも友好的に笑い合っている。
そんな中、今カナリーが一番興味を示しているのがレイヴンとアリシアの仲である。
レイヴンがアリシアを想っていることは以前聞いて知っている。
だけどつい最近まではレイヴンの一方的な想いだったはずだ。
それが数日会わない内に想いが通じ合った様にしか見えない。
そしていつの間にそうなったのか、ジェーンもレオナルドも驚いているようには見えなかった。
「お兄様とお義姉様は随分と仲良くなられたのね…?」
「…そうかしら」
興味津々なカナリーにアリシアは気まずそうに眼を逸らす。
レイヴンはにこにこと幸せそうにしているが、何も答えることはなかった。
そのあとも続くカナリーの追及にアリシアは困った表情を浮かべて曖昧な返事を繰り返す。
それを暫く見ていたジェーンは申し訳なさそうにカナリーの言葉を遮った。
「アリシア様はこういったことにまだ慣れておられませんので、それくらいで許して差し上げて下さいませ」
その言葉にカナリーはハッとした。
アリシアは愛情を持つことを恐れて完璧な王太子妃であろうとしていた。
人を愛すること、その感情を表に表すことに慣れていないのだ。
それを誰かに揶揄われたり追及されることにはもっと慣れていないだろう。
そんなアリシアがようやくレイヴンへの愛情に目覚めたのに、カナリーがおかしなことを言って関係が拗れたりしたらレイヴンに恨まれるだけでは済まされない。
「申し訳ありませんでした…」
しゅんとして謝るカナリーにアリシアは「こちらこそごめんなさいね」と申し訳なさそうに謝った。
「あの…、それで、皆に見届けて欲しいことがあるの」
「え?」
おずおずと言い出したアリシアに皆の視線が集まる。
俯いていたカナリーも顔を上げてアリシアを見ていた。
アリシアは皆がいるところでレイヴンに新しく刺繍をしたハンカチーフを渡そうと思っていたのだ。
控えていたエレノアに声を掛けると、すぐに綺麗に包装された小さな包みを渡される。
アリシアはそれをレイヴンに差し出した。
「…以前私が刺繍したハンカチーフを大切にしてくださっていたと聞きました。…あの頃よりは上達していると思います」
「…僕に?くれるの?」
「…はい」
レイヴンは包みを受け取るとその場ですぐに開いた。
大判の白いハンカチーフに色とりどりのカトレアが刺繍されている。
カトレアはアナトリアの国花だ。
赤紫の花が中心となっているのは高貴な色である紫をそのまま使うことを避けた為だろう。
そのカトレアの上を国鳥の鷹が飛んでいる。
いずれも細かく刺されていて見事な作品だった。
「凄いよ、アリシア!こんな素晴らしい刺繍が出来るなんて!しかも僕の為に作ってくれたなんて、すごく嬉しい!」
ハンカチーフを持つレイヴンの手が震えていた。
心なしか声も震えている様に聞こえる。
アリシアは恥ずかしそうに目を伏せた。
「カナリー殿下が刺繍を薦めてくださったのです」
そのカナリーも美しい刺繍の出来栄えに見入っている。
「お義姉様って本当に凄いのですね…」
そんな呟きが漏れていた。
部屋に入ってきてから暫く呆然としていたカナリーだが、気を取り直した後は興奮して部屋の中を見てまわっていた。
他所の家の調度品を見てまわるなど不躾で非難される振る舞いだが、ここではアリシアが許している。
一国の王女が興奮して見てまわる程リトマインは高位貴族が憧れるメーカーなのだ。
ノティスはそんな異母姉の様子に驚いた顔をしているが、ここの調度品はそれだけ凄いものなのだ、ということは理解したらしい。
興奮して調度品を見てまわっていたカナリーだが、その後到着したレオナルドやジェーンがこの部屋を見ても全く驚いていないことに気がついた。
2人はこれまでにこの素晴らしい部屋へ招かれたことがあるのだ。
カナリーはそこで気がついた。
公的な王太子妃の部屋はある。
アリシアは普段そこを使用していて、来客もそこで受けている。
この部屋は普通の来客ではない、特別な人を迎える為の部屋なのだ。
その部屋にカナリーやノティスを迎えてくれた。
これまであった壁が消え、カナリーとノティスをアリシアの内側に入れてくれたのだ。
レオナルドとジェーンを笑顔で迎え入れるアリシアを見ながら、カナリーは湧き上がる喜びを噛み締めていた。
全員が揃ったところでお茶会が始まった。
カナリーも席についている。
お茶会のルールはこれまでと変わらない。
アルスタ語で話すことと、自由に発言すること、それだけである。
カナリーとノティスがこのお茶会に参加するようになるまでジェーンはカナリーと面識がなかったし、ノティスとも挨拶を交わしただけだった。
アリシアにしても2人と面識はあったものの親しいとは決して言えない間柄だった。
それなのに今ではこうして集まることが当然のことのように思えているし、これを最後に当分集まることができないことを淋しく感じている。
この中では一番関りの少なかったレオナルドも、持ち前の社交性を存分に発揮してカナリーやノティスとも友好的に笑い合っている。
そんな中、今カナリーが一番興味を示しているのがレイヴンとアリシアの仲である。
レイヴンがアリシアを想っていることは以前聞いて知っている。
だけどつい最近まではレイヴンの一方的な想いだったはずだ。
それが数日会わない内に想いが通じ合った様にしか見えない。
そしていつの間にそうなったのか、ジェーンもレオナルドも驚いているようには見えなかった。
「お兄様とお義姉様は随分と仲良くなられたのね…?」
「…そうかしら」
興味津々なカナリーにアリシアは気まずそうに眼を逸らす。
レイヴンはにこにこと幸せそうにしているが、何も答えることはなかった。
そのあとも続くカナリーの追及にアリシアは困った表情を浮かべて曖昧な返事を繰り返す。
それを暫く見ていたジェーンは申し訳なさそうにカナリーの言葉を遮った。
「アリシア様はこういったことにまだ慣れておられませんので、それくらいで許して差し上げて下さいませ」
その言葉にカナリーはハッとした。
アリシアは愛情を持つことを恐れて完璧な王太子妃であろうとしていた。
人を愛すること、その感情を表に表すことに慣れていないのだ。
それを誰かに揶揄われたり追及されることにはもっと慣れていないだろう。
そんなアリシアがようやくレイヴンへの愛情に目覚めたのに、カナリーがおかしなことを言って関係が拗れたりしたらレイヴンに恨まれるだけでは済まされない。
「申し訳ありませんでした…」
しゅんとして謝るカナリーにアリシアは「こちらこそごめんなさいね」と申し訳なさそうに謝った。
「あの…、それで、皆に見届けて欲しいことがあるの」
「え?」
おずおずと言い出したアリシアに皆の視線が集まる。
俯いていたカナリーも顔を上げてアリシアを見ていた。
アリシアは皆がいるところでレイヴンに新しく刺繍をしたハンカチーフを渡そうと思っていたのだ。
控えていたエレノアに声を掛けると、すぐに綺麗に包装された小さな包みを渡される。
アリシアはそれをレイヴンに差し出した。
「…以前私が刺繍したハンカチーフを大切にしてくださっていたと聞きました。…あの頃よりは上達していると思います」
「…僕に?くれるの?」
「…はい」
レイヴンは包みを受け取るとその場ですぐに開いた。
大判の白いハンカチーフに色とりどりのカトレアが刺繍されている。
カトレアはアナトリアの国花だ。
赤紫の花が中心となっているのは高貴な色である紫をそのまま使うことを避けた為だろう。
そのカトレアの上を国鳥の鷹が飛んでいる。
いずれも細かく刺されていて見事な作品だった。
「凄いよ、アリシア!こんな素晴らしい刺繍が出来るなんて!しかも僕の為に作ってくれたなんて、すごく嬉しい!」
ハンカチーフを持つレイヴンの手が震えていた。
心なしか声も震えている様に聞こえる。
アリシアは恥ずかしそうに目を伏せた。
「カナリー殿下が刺繍を薦めてくださったのです」
そのカナリーも美しい刺繍の出来栄えに見入っている。
「お義姉様って本当に凄いのですね…」
そんな呟きが漏れていた。
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