【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
295 / 697
3章

149 刺繍②

しおりを挟む
「お兄様がお義姉様の為にこの調度品を用意したのですか?全部?!」

 部屋に入ってきてから暫く呆然としていたカナリーだが、気を取り直した後は興奮して部屋の中を見てまわっていた。
 他所の家の調度品を見てまわるなど不躾で非難される振る舞いだが、ここではアリシアが許している。
 一国の王女が興奮して見てまわる程リトマインは高位貴族が憧れるメーカーなのだ。
 ノティスはそんな異母姉の様子に驚いた顔をしているが、ここの調度品はそれだけ凄いものなのだ、ということは理解したらしい。

 興奮して調度品を見てまわっていたカナリーだが、その後到着したレオナルドやジェーンがこの部屋を見ても全く驚いていないことに気がついた。
 2人はこれまでにこの素晴らしい部屋へ招かれたことがあるのだ。

 カナリーはそこで気がついた。

 公的な王太子妃の部屋はある。
 アリシアは普段そこを使用していて、来客もそこで受けている。
 この部屋は普通の来客ではない、特別な人を迎える為の部屋なのだ。
 その部屋にカナリーやノティスを迎えてくれた。
 これまであった壁が消え、カナリーとノティスをアリシアの内側に入れてくれたのだ。
 
 レオナルドとジェーンを笑顔で迎え入れるアリシアを見ながら、カナリーは湧き上がる喜びを噛み締めていた。




 全員が揃ったところでお茶会が始まった。
 カナリーも席についている。
 お茶会のルールはこれまでと変わらない。
 アルスタ語で話すことと、自由に発言すること、それだけである。

 カナリーとノティスがこのお茶会に参加するようになるまでジェーンはカナリーと面識がなかったし、ノティスとも挨拶を交わしただけだった。
 アリシアにしても2人と面識はあったものの親しいとは決して言えない間柄だった。
 それなのに今ではこうして集まることが当然のことのように思えているし、これを最後に当分集まることができないことを淋しく感じている。
 この中では一番関りの少なかったレオナルドも、持ち前の社交性を存分に発揮してカナリーやノティスとも友好的に笑い合っている。

 そんな中、今カナリーが一番興味を示しているのがレイヴンとアリシアの仲である。

 レイヴンがアリシアを想っていることは以前聞いて知っている。
 だけどつい最近まではレイヴンの一方的な想いだったはずだ。
 それが数日会わない内に想いが通じ合った様にしか見えない。
 そしていつの間にそうなったのか、ジェーンもレオナルドも驚いているようには見えなかった。

「お兄様とお義姉様は随分と仲良くなられたのね…?」

「…そうかしら」

 興味津々なカナリーにアリシアは気まずそうに眼を逸らす。
 レイヴンはにこにこと幸せそうにしているが、何も答えることはなかった。
 そのあとも続くカナリーの追及にアリシアは困った表情を浮かべて曖昧な返事を繰り返す。
 それを暫く見ていたジェーンは申し訳なさそうにカナリーの言葉を遮った。

「アリシア様はこういったことにまだ慣れておられませんので、それくらいで許して差し上げて下さいませ」

 その言葉にカナリーはハッとした。
 アリシアは愛情を持つことを恐れて完璧な王太子妃であろうとしていた。
 人を愛すること、その感情を表に表すことに慣れていないのだ。
 それを誰かに揶揄われたり追及されることにはもっと慣れていないだろう。
 そんなアリシアがようやくレイヴンへの愛情に目覚めたのに、カナリーがおかしなことを言って関係が拗れたりしたらレイヴンに恨まれるだけでは済まされない。

「申し訳ありませんでした…」

 しゅんとして謝るカナリーにアリシアは「こちらこそごめんなさいね」と申し訳なさそうに謝った。

「あの…、それで、皆に見届けて欲しいことがあるの」

「え?」

 おずおずと言い出したアリシアに皆の視線が集まる。
 俯いていたカナリーも顔を上げてアリシアを見ていた。

 アリシアは皆がいるところでレイヴンに新しく刺繍をしたハンカチーフを渡そうと思っていたのだ。

 控えていたエレノアに声を掛けると、すぐに綺麗に包装された小さな包みを渡される。
 アリシアはそれをレイヴンに差し出した。

「…以前私が刺繍したハンカチーフを大切にしてくださっていたと聞きました。…あの頃よりは上達していると思います」
 
「…僕に?くれるの?」

「…はい」

 レイヴンは包みを受け取るとその場ですぐに開いた。
 大判の白いハンカチーフに色とりどりのカトレアが刺繍されている。
 カトレアはアナトリアの国花だ。
 赤紫の花が中心となっているのは高貴な色である紫をそのまま使うことを避けた為だろう。
 そのカトレアの上を国鳥の鷹が飛んでいる。

 いずれも細かく刺されていて見事な作品だった。

「凄いよ、アリシア!こんな素晴らしい刺繍が出来るなんて!しかも僕の為に作ってくれたなんて、すごく嬉しい!」

 ハンカチーフを持つレイヴンの手が震えていた。
 心なしか声も震えている様に聞こえる。
 アリシアは恥ずかしそうに目を伏せた。 

「カナリー殿下が刺繍を薦めてくださったのです」

 そのカナリーも美しい刺繍の出来栄えに見入っている。
 
「お義姉様って本当に凄いのですね…」

 そんな呟きが漏れていた。




しおりを挟む
感想 441

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...