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3章
148 刺繍①
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最後のお茶会の日になった。
使節団の研修は既にすべて終了し、出立前の1週間は自由行動が許されている。
帰宅することもできる為、大抵の者は離宮に与えられていた部屋を引き払って自宅へ戻っている。
アルスタへ行く為の準備をしながら家族や友人たちとのしばしの別れを惜しむのだ。
使節団の者たちが次に集まるのは出立の前日、壮行会の時である。
舞踏会の後はまた離宮に泊まり、翌日の昼頃出立していく。
準備の為に与えられた1週間だが、ジェーンは侯爵邸へ帰ることを望まなかった。
そもそも侯爵邸にアルスタへ持参するような物は何もない。準備はルトビア公爵家が行っている。
公爵邸へ移ることも提案されたが、ジェーンは公爵家にあまり世話を掛けたくないと言って壮行会の前日まで離宮で過ごすことを選んだ。
公爵邸ではアリシアが嫁いだ後、久しぶりにお嬢様の世話ができるとジェーンが来るのを心待ちにしていたマリアンががっかりしているそうだ。
その分出立前の舞踏会では目一杯着飾らされることだろう。
今日のお茶会にはカナリーとノティスだけではなく、レイヴンとレオナルドも招いている。
ジェーンが別れを惜しむ家族や友人は王宮にいるのだ。
「僕が参加して大丈夫かな」
不安そうな表情を見せるレイヴンにアリシアは笑顔で頷いた。
噂を鎮静化させる為に直接会うことを避けていたレイヴンとジェーンだが、あれから状況は大分変っている。
アリシアが主催したお茶会に参加していた夫人方が、レイヴンとアリシアの仲睦まじい様子と、レイヴンとジェーンの間には疚しい様子がないことを広めてくれた。
その後ジェーンが爵位の継承を届け出たことで側妃になることも愛妾になることもできなくなった。
レオナルドと共に王家の晩餐に招かれたことから、ルトビア公爵家は家族ぐるみで王家と親しくしているのだと言われるようになっている。ジェーンはアダムが後見についているので最近ではルトビア公爵家の一員と見做されているのだ。
「もはやレイヴン様とジェーンの仲を疑う者はいませんわ。しばらく会えなくなるのですから、レイヴン様も是非一緒にいらしてくださいませ」
それに今日はいつものアリシアの部屋ではなく、レイヴンが贈ってくれたリトマインの部屋を使おうと思っているのだ。
なんとなくあの部屋には本当に心を許した者しか入れたくなくてこれまでのお茶会では一度も使っていない。
だけどカナリーとノティスなら入れても良いような気がしていた。
いつもの様にアリシアの部屋を訪れたカナリーとノティスは、別の部屋へ案内するという侍女に不思議な顔をした。
侍女が案内したのは廊下を挟んだ向かいの部屋だ。
入室を許可する声がして扉が開かれるとカナリーは目を見開いた。
ノティスは何も感じていないようだが、カナリーは流石にリトマインの価値を良くわかっている。
「まあ、この部屋は…!」
「レイヴン様が贈って下さったの。素敵でしょう?」
アリシアの楽しそうな声がする。
呆然と部屋を見ていたカナリーは声がした方へと視線を向けた。
そこにはリトマインのソファに寄り添って座る幸せそうな兄夫婦がいた。
使節団の研修は既にすべて終了し、出立前の1週間は自由行動が許されている。
帰宅することもできる為、大抵の者は離宮に与えられていた部屋を引き払って自宅へ戻っている。
アルスタへ行く為の準備をしながら家族や友人たちとのしばしの別れを惜しむのだ。
使節団の者たちが次に集まるのは出立の前日、壮行会の時である。
舞踏会の後はまた離宮に泊まり、翌日の昼頃出立していく。
準備の為に与えられた1週間だが、ジェーンは侯爵邸へ帰ることを望まなかった。
そもそも侯爵邸にアルスタへ持参するような物は何もない。準備はルトビア公爵家が行っている。
公爵邸へ移ることも提案されたが、ジェーンは公爵家にあまり世話を掛けたくないと言って壮行会の前日まで離宮で過ごすことを選んだ。
公爵邸ではアリシアが嫁いだ後、久しぶりにお嬢様の世話ができるとジェーンが来るのを心待ちにしていたマリアンががっかりしているそうだ。
その分出立前の舞踏会では目一杯着飾らされることだろう。
今日のお茶会にはカナリーとノティスだけではなく、レイヴンとレオナルドも招いている。
ジェーンが別れを惜しむ家族や友人は王宮にいるのだ。
「僕が参加して大丈夫かな」
不安そうな表情を見せるレイヴンにアリシアは笑顔で頷いた。
噂を鎮静化させる為に直接会うことを避けていたレイヴンとジェーンだが、あれから状況は大分変っている。
アリシアが主催したお茶会に参加していた夫人方が、レイヴンとアリシアの仲睦まじい様子と、レイヴンとジェーンの間には疚しい様子がないことを広めてくれた。
その後ジェーンが爵位の継承を届け出たことで側妃になることも愛妾になることもできなくなった。
レオナルドと共に王家の晩餐に招かれたことから、ルトビア公爵家は家族ぐるみで王家と親しくしているのだと言われるようになっている。ジェーンはアダムが後見についているので最近ではルトビア公爵家の一員と見做されているのだ。
「もはやレイヴン様とジェーンの仲を疑う者はいませんわ。しばらく会えなくなるのですから、レイヴン様も是非一緒にいらしてくださいませ」
それに今日はいつものアリシアの部屋ではなく、レイヴンが贈ってくれたリトマインの部屋を使おうと思っているのだ。
なんとなくあの部屋には本当に心を許した者しか入れたくなくてこれまでのお茶会では一度も使っていない。
だけどカナリーとノティスなら入れても良いような気がしていた。
いつもの様にアリシアの部屋を訪れたカナリーとノティスは、別の部屋へ案内するという侍女に不思議な顔をした。
侍女が案内したのは廊下を挟んだ向かいの部屋だ。
入室を許可する声がして扉が開かれるとカナリーは目を見開いた。
ノティスは何も感じていないようだが、カナリーは流石にリトマインの価値を良くわかっている。
「まあ、この部屋は…!」
「レイヴン様が贈って下さったの。素敵でしょう?」
アリシアの楽しそうな声がする。
呆然と部屋を見ていたカナリーは声がした方へと視線を向けた。
そこにはリトマインのソファに寄り添って座る幸せそうな兄夫婦がいた。
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