300 / 697
3章
154 レオナルドの婚約は①
しおりを挟む
「ところでお兄様。本当はお兄様からお話があるまで待とうと思っていたのだけど、グーリッド伯爵令嬢とはどうなっているのかしら」
アリシアがそう言うと、皆が動きを止めた。
そろそろとレオナルドを窺っている。
皆同じことが気になっていたのだ。
だけど縁談は家のことであり、簡単に口出し出来ることではない。
アリシアも公爵家を離れた今、報告があるまで待とうと思っていた。だけど初めて話を聞いた時から随分と日が経ってしまっていた。
「お兄様が伯爵邸を度々訪ねていることは知っているわ。だけどお兄様にその気がないのであれば、もうお止めになった方がよろしいですわ。これ以上回数を重ねると伯爵令嬢の疵になってしまうもの」
本来ルトビア公爵家とグーリッド伯爵家に繋がりはない。
それなのに伯爵邸を度々訪ねるレオナルドのことは既に噂になっている。
ディアナがレオナルドの婚約者に選ばれるのではないかと言われているが、一部の者はキャロルがレイヴンとレオナルドの怒りを買ったことを知っているので、どうするつもりなのかと好奇の目を向けていた。
婚約者ではない未婚の男女が何度も会っていれば、そこで何かあったと思われる。
それが真実ではなくても真実の様に語られるのだ。
もしそれで婚約が成立しなくてもレオナルドにはそれほど傷がつかない。
男性優位の社交界では男性が女性を弄んで捨てても少し眉を顰められるだけで、そんな男に引っかかるのが悪いと女性の方が責められる。
特にレオナルドの様に身分の高い男が下位の令嬢を捨てたとしても、少しの間好奇の噂に晒されるくらいで実質的な被害はない。
だけどディアナ違う。
レオナルドに捨てられた傷物令嬢と言われて嗤われ、社交界から爪弾きにされてしまう。
そんな醜聞のある令嬢に婚約を申し込む者はいない。
「それは僕もわかっているよ。だけど正直なところ迷っているんだ」
アリシアは驚いた。
レオナルドが決断を躊躇うなんて珍しい。
「お兄様が迷うのは何故?」
「…そうだね、ディアナ嬢をグーリッド伯爵家の犠牲にするのが忍びないから、かな」
貴族の婚約は大抵の場合幼い頃に結ばれる。だけど学園に入学する年になっても婚約者が決まっていない者もいる。
その理由は様々だが、ディアナの場合は姉のキャロルに婚約者がいないからだった。
姉を差し置いて妹が先に婚約するのは外聞が悪い。
そう言ってディアナに来る婚約の話を伯爵が断っていたのだ。
キャロルが婚約者を持たなかったのはレイヴンの側妃になることを狙っていたからだ。
側妃は望んだからといって必ずなれるものではない。条件の良い相手程早くに婚約者が決まっていく。
それなのに側妃に選ばれるかもわからない姉の為に、ディアナの将来は後回しにされていた。
側妃の座を諦めた後も、キャロルの婚約が決まってからディアナの婚約者を探す。それが伯爵の考えだった。
以前のことがあり、キャロルが社交界に戻ってくることはなくなった。もうキャロルの婚約を気にする必要はない。
だけどそこで待っていたのはキャロルの尻拭いの為の縁談だ。
「僕の婚約者はどうしても短期間で公爵夫人としての教育を受けなければならない。その為には僕たちに借りがあって何があっても逃げることができないグーリッド伯爵令嬢は最適だと思っていた。だけどこれまでキャロル嬢の為に後まわしにされていたディアナ嬢を、キャロル嬢の失態を盾に都合よく娶るは躊躇われてね」
「そうですか…」
実際のところ、キャロルには無礼を働かれたが、その責任をディアナに取らせようというつもりはなかった。
ただ一度婚約を決めてしまえば取り換えることが出来ない為、逃げ出す恐れのない婚約者を選ぶ必要があった。
それにはルトビア公爵家に負い目を感じているグーリッド伯爵家の令嬢が都合が良い。
そうして目をつけられたのがディアナだ。
レオナルドが躊躇うのはディアナに好感を持ったからである。
初めて顔を合わせた頃の気持ちのままなら迷いなく婚約を申し入れていた。
恋愛感情ではなくても好意を持てる相手だからこそ、家と姉の犠牲にすることを躊躇うのだ。
アリシアがそう言うと、皆が動きを止めた。
そろそろとレオナルドを窺っている。
皆同じことが気になっていたのだ。
だけど縁談は家のことであり、簡単に口出し出来ることではない。
アリシアも公爵家を離れた今、報告があるまで待とうと思っていた。だけど初めて話を聞いた時から随分と日が経ってしまっていた。
「お兄様が伯爵邸を度々訪ねていることは知っているわ。だけどお兄様にその気がないのであれば、もうお止めになった方がよろしいですわ。これ以上回数を重ねると伯爵令嬢の疵になってしまうもの」
本来ルトビア公爵家とグーリッド伯爵家に繋がりはない。
それなのに伯爵邸を度々訪ねるレオナルドのことは既に噂になっている。
ディアナがレオナルドの婚約者に選ばれるのではないかと言われているが、一部の者はキャロルがレイヴンとレオナルドの怒りを買ったことを知っているので、どうするつもりなのかと好奇の目を向けていた。
婚約者ではない未婚の男女が何度も会っていれば、そこで何かあったと思われる。
それが真実ではなくても真実の様に語られるのだ。
もしそれで婚約が成立しなくてもレオナルドにはそれほど傷がつかない。
男性優位の社交界では男性が女性を弄んで捨てても少し眉を顰められるだけで、そんな男に引っかかるのが悪いと女性の方が責められる。
特にレオナルドの様に身分の高い男が下位の令嬢を捨てたとしても、少しの間好奇の噂に晒されるくらいで実質的な被害はない。
だけどディアナ違う。
レオナルドに捨てられた傷物令嬢と言われて嗤われ、社交界から爪弾きにされてしまう。
そんな醜聞のある令嬢に婚約を申し込む者はいない。
「それは僕もわかっているよ。だけど正直なところ迷っているんだ」
アリシアは驚いた。
レオナルドが決断を躊躇うなんて珍しい。
「お兄様が迷うのは何故?」
「…そうだね、ディアナ嬢をグーリッド伯爵家の犠牲にするのが忍びないから、かな」
貴族の婚約は大抵の場合幼い頃に結ばれる。だけど学園に入学する年になっても婚約者が決まっていない者もいる。
その理由は様々だが、ディアナの場合は姉のキャロルに婚約者がいないからだった。
姉を差し置いて妹が先に婚約するのは外聞が悪い。
そう言ってディアナに来る婚約の話を伯爵が断っていたのだ。
キャロルが婚約者を持たなかったのはレイヴンの側妃になることを狙っていたからだ。
側妃は望んだからといって必ずなれるものではない。条件の良い相手程早くに婚約者が決まっていく。
それなのに側妃に選ばれるかもわからない姉の為に、ディアナの将来は後回しにされていた。
側妃の座を諦めた後も、キャロルの婚約が決まってからディアナの婚約者を探す。それが伯爵の考えだった。
以前のことがあり、キャロルが社交界に戻ってくることはなくなった。もうキャロルの婚約を気にする必要はない。
だけどそこで待っていたのはキャロルの尻拭いの為の縁談だ。
「僕の婚約者はどうしても短期間で公爵夫人としての教育を受けなければならない。その為には僕たちに借りがあって何があっても逃げることができないグーリッド伯爵令嬢は最適だと思っていた。だけどこれまでキャロル嬢の為に後まわしにされていたディアナ嬢を、キャロル嬢の失態を盾に都合よく娶るは躊躇われてね」
「そうですか…」
実際のところ、キャロルには無礼を働かれたが、その責任をディアナに取らせようというつもりはなかった。
ただ一度婚約を決めてしまえば取り換えることが出来ない為、逃げ出す恐れのない婚約者を選ぶ必要があった。
それにはルトビア公爵家に負い目を感じているグーリッド伯爵家の令嬢が都合が良い。
そうして目をつけられたのがディアナだ。
レオナルドが躊躇うのはディアナに好感を持ったからである。
初めて顔を合わせた頃の気持ちのままなら迷いなく婚約を申し入れていた。
恋愛感情ではなくても好意を持てる相手だからこそ、家と姉の犠牲にすることを躊躇うのだ。
0
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜
来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、
疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。
無愛想で冷静な上司・東條崇雅。
その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、
仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。
けれど――
そこから、彼の態度は変わり始めた。
苦手な仕事から外され、
負担を減らされ、
静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。
「辞めるのは認めない」
そんな言葉すらないのに、
無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。
これは愛?
それともただの執着?
じれじれと、甘く、不器用に。
二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。
無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です!
https://estar.jp/novels/26513389
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる