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3章
153 楽しい思い出
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「サンドラ殿はどんな方だったのですか?」
カナリーやノティスはサンドラと面識がない。
亡くなってから10年以上が経ち、社交界から距離を置いていたサンドラの話題が出ることも無くなっていた。
それがサンドラの望みだったのだと、今のアリシアは思っている。
「そうですね…。私には優しい母でしたけど、1人で領地を切り盛りしていたのですから、それだではなかったのでしょうね」
「おっとりしているようで怒るととても怖い方だったね」
「レオナルド殿が怒られたのですか?」
ノティスが目を丸くする。
最近のレオナルドしか知らないノティスやカナリーは、幼いレオナルドを想像することが出来ないようだ。
レオナルドが苦笑する。
「まあ、わたしも子どもでしたから」
「侯爵邸には私たちが遊び場にしていた小さな家があるのですが、ある時レオ兄様とロイ兄様が屋根裏から屋根に上ってしまって。それを見た私とアリシア様も真似をして屋根に上ったのです。侯爵邸では基本的に自由に遊んでいたのですが、あの時はすぐに母へ知らせが行ったらしくて駆けつけた母に酷く叱られました」
「特にお兄様とロイ兄様が叱られていたわね。『あなたたちがすることを妹たちが真似るとわかっているでしょう!』って」
「あの時は僕たちもびっくりしたよ。まさか2人が上ってくるとは思わなかったんだ。僕たちは上り口から離れていたし、2人がこちらへ来ようとして落ちたらと思うとゾッとしたよ」
「アリシアが屋根に…」
レイヴンが青褪めていた。
レイヴンの頭に浮かぶのは、今のアリシアが屋根に上っているところだ。
「私も子どもだったのです、レイヴン様。兄たちがすることは私たちもできるのだと信じていました。剣を持って打ち合っていたこともあるのですよ」
「アリシアが剣を…」
レイヴンが更に青褪める。
余計なことを言ってしまったらしい。これではレイヴンの過保護が余計に加速してしまいそうだ。
「僕たちもあれで学んだよ。2人のいるところで危険なことをしちゃいけないってね」
レオナルドもロバートも年並みに好奇心が強く、危険を楽しむところがあった。
どこまで高く木に登れるか、高いところを飛び移れるか。
人よりも能力が高い2人だから、出来ないことはないような気がしていたのだ。
だけどその為にアリシアやジェーンが大怪我をしていたら取り返しがつかないところだった。
「あの時は家に帰ってから母にも酷く叱られました。きっとロバートも叱られていたでしょう。叔母上は両家にきっちりと報告していましたからね」
まだやんちゃな年の子どもたちを預かるのだから気苦労もあっただろう。自由にさせてくれていたけれど、見えないところに護衛がいたと今ならわかる。
サンドラへ知らせに行った時も、万が一2人が落ちた時は助けに出る準備をしていた者もいたはずだ。
とにかくアリシアたちは侯爵邸で自由と自主性を認められ、鍛えられていた。
「それも教育の一部だったのですね…」
カナリーもやはりアリシアやジェーンが屋根に上っていたというのが信じられないようだ。もし王宮でカナリーがそんなことをしようとすれば教育係が飛んで来たのだろう。
「羨ましいです」
ぽつりとノティスが呟いた。
ノティスには幼い頃の楽しい思い出がない。
実母のところにいた頃には同年代の子どもたちが遊び相手として連れられて来ていた。
だけど彼らはノティスの言い成りだった。ノティスが酷い悪戯をしても、怒ることもやり返されることも無かった。
それが当然だと思っていた当時の自分が恥ずかしい。
友達だと思っていた彼らは、実母が幽閉されてから近づいても来なくなった。
あの時は楽しかったはずなのに、ノティスにとって良い思い出ではなくなっている。
「これからですわ」
ジェーンがにっこりと笑った。
「私も楽しい思い出ばかりがあるわけではありません。それは皆同じです。そしてこれからも良いことも悪いこともありますわ。ですが、またこうして会えた時に楽しい思い出を語り合いましょう」
「…そうですね。今日のことも、これまでのお茶会も、楽しい思い出です」
ノティスはジェーンと目を合わせて笑った。
カナリーやノティスはサンドラと面識がない。
亡くなってから10年以上が経ち、社交界から距離を置いていたサンドラの話題が出ることも無くなっていた。
それがサンドラの望みだったのだと、今のアリシアは思っている。
「そうですね…。私には優しい母でしたけど、1人で領地を切り盛りしていたのですから、それだではなかったのでしょうね」
「おっとりしているようで怒るととても怖い方だったね」
「レオナルド殿が怒られたのですか?」
ノティスが目を丸くする。
最近のレオナルドしか知らないノティスやカナリーは、幼いレオナルドを想像することが出来ないようだ。
レオナルドが苦笑する。
「まあ、わたしも子どもでしたから」
「侯爵邸には私たちが遊び場にしていた小さな家があるのですが、ある時レオ兄様とロイ兄様が屋根裏から屋根に上ってしまって。それを見た私とアリシア様も真似をして屋根に上ったのです。侯爵邸では基本的に自由に遊んでいたのですが、あの時はすぐに母へ知らせが行ったらしくて駆けつけた母に酷く叱られました」
「特にお兄様とロイ兄様が叱られていたわね。『あなたたちがすることを妹たちが真似るとわかっているでしょう!』って」
「あの時は僕たちもびっくりしたよ。まさか2人が上ってくるとは思わなかったんだ。僕たちは上り口から離れていたし、2人がこちらへ来ようとして落ちたらと思うとゾッとしたよ」
「アリシアが屋根に…」
レイヴンが青褪めていた。
レイヴンの頭に浮かぶのは、今のアリシアが屋根に上っているところだ。
「私も子どもだったのです、レイヴン様。兄たちがすることは私たちもできるのだと信じていました。剣を持って打ち合っていたこともあるのですよ」
「アリシアが剣を…」
レイヴンが更に青褪める。
余計なことを言ってしまったらしい。これではレイヴンの過保護が余計に加速してしまいそうだ。
「僕たちもあれで学んだよ。2人のいるところで危険なことをしちゃいけないってね」
レオナルドもロバートも年並みに好奇心が強く、危険を楽しむところがあった。
どこまで高く木に登れるか、高いところを飛び移れるか。
人よりも能力が高い2人だから、出来ないことはないような気がしていたのだ。
だけどその為にアリシアやジェーンが大怪我をしていたら取り返しがつかないところだった。
「あの時は家に帰ってから母にも酷く叱られました。きっとロバートも叱られていたでしょう。叔母上は両家にきっちりと報告していましたからね」
まだやんちゃな年の子どもたちを預かるのだから気苦労もあっただろう。自由にさせてくれていたけれど、見えないところに護衛がいたと今ならわかる。
サンドラへ知らせに行った時も、万が一2人が落ちた時は助けに出る準備をしていた者もいたはずだ。
とにかくアリシアたちは侯爵邸で自由と自主性を認められ、鍛えられていた。
「それも教育の一部だったのですね…」
カナリーもやはりアリシアやジェーンが屋根に上っていたというのが信じられないようだ。もし王宮でカナリーがそんなことをしようとすれば教育係が飛んで来たのだろう。
「羨ましいです」
ぽつりとノティスが呟いた。
ノティスには幼い頃の楽しい思い出がない。
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だけど彼らはノティスの言い成りだった。ノティスが酷い悪戯をしても、怒ることもやり返されることも無かった。
それが当然だと思っていた当時の自分が恥ずかしい。
友達だと思っていた彼らは、実母が幽閉されてから近づいても来なくなった。
あの時は楽しかったはずなのに、ノティスにとって良い思い出ではなくなっている。
「これからですわ」
ジェーンがにっこりと笑った。
「私も楽しい思い出ばかりがあるわけではありません。それは皆同じです。そしてこれからも良いことも悪いこともありますわ。ですが、またこうして会えた時に楽しい思い出を語り合いましょう」
「…そうですね。今日のことも、これまでのお茶会も、楽しい思い出です」
ノティスはジェーンと目を合わせて笑った。
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