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番外編・処罰の後
4 処罰の後 (4-①)
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処罰の翌日、ジョッシュは紋章のない質素な馬車でキャンベル侯爵邸へ向かっていた。
昨日は帰宅した後両親や2人の兄と話し合い、家族の中にあった蟠りが少し解けた気がする。
この馬車も、侯爵家を訪ねる用にと両親が用意してくれたもので、ジョッシュは馬車が着いたと聞いた瞬間、我慢できずに飛び出していた。
昨日あんな風に置き去りにした言い訳を考えながら侯爵邸の門をくぐる。
紋章のない不審な馬車では入れてくれないかもしれないと案じていたが、いつも居るはずの門番がおらずにすんなりと入ることができた。
邸の入り口より大分手前で馬車が停まる。
どうしたのかと尋ねると、玄関の前に複数の荷馬車が停まっているのでこれ以上近づけないと言う。
不審に思いながら馬車から降りたジョッシュは目を見張った。
馭者が言う通り、邸の前庭には何台もの荷馬車が停まっている。積まれている調度品は見覚えがあるものだ。
ちょうど今も、男たちが調度品を運び出している。
ジョッシュは慌てて入り口へ駆け出した。
男たちは声を掛け合いながら玄関の扉をくぐる。
閉まりゆく扉の向こうに見慣れた家令の姿が見えた。
家令としっかり視線が合った気がする。
だけど扉はそのまま閉じられた。
入口へたどり着いたジョッシュは慌てて扉を叩く。
少しして開けられた扉の向こうには表情を削ぎ落した家令が立っていた。
家令はこんな顔をする男だっただろうか。
ジョッシュはいつでもこの邸で歓迎されていたはずだ。
以前の家令を思い出そうとした。
だけど笑顔でジョッシュを迎える使用人たちを思い浮かべてみても、その中に家令の顔はなかった。
「これはカルヴィエ伯爵令息様。先触れをいただいていない様に思いますが、何か緊急の御用でしょうか」
家令の慇懃無礼な態度と言葉に唖然とする。
客人を迎える体裁を取っているが、歓迎されていないのは明らかだ。
「先触れなんて、いつも出してなかっただろう」
ジョッシュが不快さを隠さずに言うと、家令は蔑むような顔を見せた。
「そうですね。あなたはいつも先触れもなく現れて、ジェーンお嬢様がいないからと婚約者ではない者の部屋に居座っておられました。いえ、近頃はお嬢様がいらっしゃっても別の者の部屋に入り浸っておられましたね」
家令の言葉にカッとなる。
だけど伯爵家子息としての良識を取り戻した今、かつての行いがどれ程非常識だったのかわかるようになっていた。
貴族の間ではどんなに親しい間柄でも訪問する前に先触れを出すのが礼儀である。
ジョッシュもそう教えらえていたし、以前はエミリーと過ごすにしても形としてジェーンに先触れを出していた。
だけどジェーンは成長するにつれて1人で領地へ行っていたり、ルトビア公爵邸に滞在するようになった。
先触れを出してジェーンが不在とわかれば侯爵邸を訪ねることができず、エミリーに会うことができない。
だからいつしか先触れを出さずに訪問するようになっていた。
ジェーンは初め驚いた顔をしていたし、何かを言われたような気もするが、ジョッシュは相手にしなかった。
そしてジェーンが不在の時は、「義娘の非礼を詫びる為に」とアンジュに迎え入れられるようになっていた。
だけどその実態は、家令の言う通りエミリーの部屋で2人きりで過ごしていたのだ。
サッと血の気が引くのがわかる。
アンジュが非常識なジョッシュを喜んで迎え入れてくれていたのは、あちらも非常識なことを考えていたからだ。
本来であれば初めて勝手に訪問した際に注意を受けたり非難されるはずだった。
きっとジェーンは注意をしてくれたのだ。
だけどジョッシュは、それが伯爵家の評判を落とすことだと思いもせずに無視をした。
家令はこれまで使用人として女主人であるアンジュに逆らうことができなかった。
だけど心の中ではずっとジョッシュを不快に思っていたのだろう。
そんな使用人はきっと他にもいるはずだ。
「これまで不快な思いをさせて申し訳ない。次からは絶対に先触れを出す」
青い顔のまま、ジョッシュは頭を下げた。
そんなジョッシュにクレールが興ざめな顔をする。
そこに飛び込んできたのはエミリーの甲高い声だった。
昨日は帰宅した後両親や2人の兄と話し合い、家族の中にあった蟠りが少し解けた気がする。
この馬車も、侯爵家を訪ねる用にと両親が用意してくれたもので、ジョッシュは馬車が着いたと聞いた瞬間、我慢できずに飛び出していた。
昨日あんな風に置き去りにした言い訳を考えながら侯爵邸の門をくぐる。
紋章のない不審な馬車では入れてくれないかもしれないと案じていたが、いつも居るはずの門番がおらずにすんなりと入ることができた。
邸の入り口より大分手前で馬車が停まる。
どうしたのかと尋ねると、玄関の前に複数の荷馬車が停まっているのでこれ以上近づけないと言う。
不審に思いながら馬車から降りたジョッシュは目を見張った。
馭者が言う通り、邸の前庭には何台もの荷馬車が停まっている。積まれている調度品は見覚えがあるものだ。
ちょうど今も、男たちが調度品を運び出している。
ジョッシュは慌てて入り口へ駆け出した。
男たちは声を掛け合いながら玄関の扉をくぐる。
閉まりゆく扉の向こうに見慣れた家令の姿が見えた。
家令としっかり視線が合った気がする。
だけど扉はそのまま閉じられた。
入口へたどり着いたジョッシュは慌てて扉を叩く。
少しして開けられた扉の向こうには表情を削ぎ落した家令が立っていた。
家令はこんな顔をする男だっただろうか。
ジョッシュはいつでもこの邸で歓迎されていたはずだ。
以前の家令を思い出そうとした。
だけど笑顔でジョッシュを迎える使用人たちを思い浮かべてみても、その中に家令の顔はなかった。
「これはカルヴィエ伯爵令息様。先触れをいただいていない様に思いますが、何か緊急の御用でしょうか」
家令の慇懃無礼な態度と言葉に唖然とする。
客人を迎える体裁を取っているが、歓迎されていないのは明らかだ。
「先触れなんて、いつも出してなかっただろう」
ジョッシュが不快さを隠さずに言うと、家令は蔑むような顔を見せた。
「そうですね。あなたはいつも先触れもなく現れて、ジェーンお嬢様がいないからと婚約者ではない者の部屋に居座っておられました。いえ、近頃はお嬢様がいらっしゃっても別の者の部屋に入り浸っておられましたね」
家令の言葉にカッとなる。
だけど伯爵家子息としての良識を取り戻した今、かつての行いがどれ程非常識だったのかわかるようになっていた。
貴族の間ではどんなに親しい間柄でも訪問する前に先触れを出すのが礼儀である。
ジョッシュもそう教えらえていたし、以前はエミリーと過ごすにしても形としてジェーンに先触れを出していた。
だけどジェーンは成長するにつれて1人で領地へ行っていたり、ルトビア公爵邸に滞在するようになった。
先触れを出してジェーンが不在とわかれば侯爵邸を訪ねることができず、エミリーに会うことができない。
だからいつしか先触れを出さずに訪問するようになっていた。
ジェーンは初め驚いた顔をしていたし、何かを言われたような気もするが、ジョッシュは相手にしなかった。
そしてジェーンが不在の時は、「義娘の非礼を詫びる為に」とアンジュに迎え入れられるようになっていた。
だけどその実態は、家令の言う通りエミリーの部屋で2人きりで過ごしていたのだ。
サッと血の気が引くのがわかる。
アンジュが非常識なジョッシュを喜んで迎え入れてくれていたのは、あちらも非常識なことを考えていたからだ。
本来であれば初めて勝手に訪問した際に注意を受けたり非難されるはずだった。
きっとジェーンは注意をしてくれたのだ。
だけどジョッシュは、それが伯爵家の評判を落とすことだと思いもせずに無視をした。
家令はこれまで使用人として女主人であるアンジュに逆らうことができなかった。
だけど心の中ではずっとジョッシュを不快に思っていたのだろう。
そんな使用人はきっと他にもいるはずだ。
「これまで不快な思いをさせて申し訳ない。次からは絶対に先触れを出す」
青い顔のまま、ジョッシュは頭を下げた。
そんなジョッシュにクレールが興ざめな顔をする。
そこに飛び込んできたのはエミリーの甲高い声だった。
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