【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
323 / 697
番外編・処罰の後

6 処罰の後(5-①)

しおりを挟む
「あの…先程調度品を運び出しているのを見ましたが、何をされているのですか?」

 ジョッシュがおずおずと訊いた。
 今も男たちの声があちらこちらから聞こえ、何かを運ぶような音がしている。
 エミリーはハッとしてロバートを怒鳴りつけた。

「そうよ!私の家の物をどこへ持って行くつもりなの?!」

 エミリーの剣幕にもロバートは肩をすくめただけだ。

「僕はジェーンから侯爵家当主としての権限を委任されていてね。破綻寸前のこの家の財政を立て直さなければならない。調度品は資金の足しにする為に古物商へ売るんだよ」

「そんな…酷いわ!!お父様やお母様が大切にしているものを勝手に売るなんて!!」

 エミリーの言葉にロバートが纏う雰囲気が変わる。
 エミリーへ向ける視線には強い怒りが込められていた。

「酷い?君たちがジェーンにしていたことだろう?ジェーンの母や祖父母が大切にしていたものを勝手に捨てたのは誰だ?ジェーンの持ち物を奪ったのは?それに処分するのは邸の共用部に置かれていた物だけでデミオン殿やアンジュの部屋、君の部屋のものには触れていない。感謝して欲しいくらいだ」

 本当は調度品よりもアンジュやエミリーが買い漁った宝石類を売り払った方が高い値がつく。
 だけど個人の持ち物を勝手に処分するのは、アンジュやエミリーがしていたことと同じことだ。
 ジェーンもロバートも、アンジュたちと同じところへ堕ちるつもりはない。
 
 処分するのは侯爵家としての持ち物だけ。
 侯爵家で使う調度品は当主の権限で決めることができる。
 
「私たちがしていたこと…?」

「そうだろう?君たちがこの家に来た時はこんなに派手で悪趣味な調度品はなかったはずだ。幼すぎて覚えていないか?サンドラ叔母様が生きておられた頃は、侯爵家に相応しい洗練された上品な品が使われていた。僕たちははっきり覚えている。それを勝手に処分したのは君の両親だ。そして君はジェーンの持ち物を何でも奪い、ボロボロにして捨てていた」

 そんなことを言われても、エミリーは邸に来た頃使われていた調度品なんて覚えていない。
 だけどジェーンの物を何でも奪っていたのは覚えている。つい最近まで続けていたのだから。

「だってそれはお義姉様が、欲しいと言ったのに、くれなかったから…」

 愛人の子として育ち、侯爵邸に来るまであまり良い物を与えられなかったエミリーには、ジェーンが持っている物が良い物に見えて羨ましかった。
 何でも持っているくせに、欲しいと言ってもジェーンは譲ってくれなかった。
 だけどエミリーが泣き喚いたら、父も母もエミリーの味方をしてくれる。
 ジェーンの物はエミリーの物になった。
 ジェーンは泣いていたけれど、そんなことエミリーには気にならなかった。
 両親がいつも味方をしてくれる、そのことが嬉しくて、本当はいらない物でも欲しいというようになっていた。
 そしてそれがいつの間にか当然のことになったのだ。

「ジェーンにとっては亡くなった母親が買ってくれた物なのだから当然だろう。君の母親は死んだわけじゃない。処罰が終われば帰ってくる。それでも両親が大切にしているものを売られるのが辛いと思うのなら、君たちがジェーンにしていたことがどういうことかなのかわかったはずだ」

 言われたことの意味を理解していく内に、エミリーは青褪めていた。
 ジェーンが嫌と言ったのは、意地悪ではなく、母親との思い出があったからだ。
 ジェーンが泣いていたのは、物だけではなく、母親との思い出も奪われたから……。

 ジェーンは意地悪をしていたわけではなく、意地悪をしていたのはやっぱりエミリーだった。

「ただ僕は侯爵邸に来る前の君たちの暮らしを知らないが、伯母上が亡くなる数年前まで前侯爵夫人も生きてらした。お祖母様の目もあるし、デミオン殿が持ち出せた金銭はそれ程多くないだろう。君たちがそれ程裕福な暮らしをしていたとは思わない」

 入り婿になった男に囲われるのだから、それは愛人になると決めた時に飲み込んでおくべきことだ。
 娘の夫の愛人を、妻の親が快く思うわけがない。
 だけどそれはアンジュが飲み込んでおくべき事情で、幼いエミリーがわからないのは仕方がないのかもしれない。

 だが、それでも。

「侯爵邸に来たばかりの君が、ジェーンを羨ましく思う気持ちはわからなくもない。だけどそれは侯爵邸に来てすぐのことだ。それを何故今も続けている?まだジェーンの暮らしが羨ましいのか?」



しおりを挟む
感想 441

あなたにおすすめの小説

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

俺様上司に今宵も激しく求められる。

美凪ましろ
恋愛
 鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。  蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。  ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。 「おまえの顔、えっろい」  神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。  ――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。 **2026.01.02start~2026.01.17end** ◆エブリスタ様にも掲載。人気沸騰中です! https://estar.jp/novels/26513389

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

処理中です...