【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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番外編・処罰の後

14 処罰の後(8)

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「デミオン殿の様子はどうだ?」

「様子を見に行かせましたが、昨日と変わらないようです」

「そうか」

 クレールの答えにロバートは鼻白む。

 侯爵邸に戻ったばかりのデミオンは気が立っていた。アンジュを救えなかった鬱憤を使用人に当たって晴らそうとしたのだ。
 だけど今の侯爵邸は人手を減らしている。横暴な名前だけの当主に構っているような暇はない。
 そもそも皆サンドラとジェーンに対するデミオンの仕打ちに怒っているので積極的に世話をしたがらない。
 デミオンに身の回りのことを覚えさせる必要はないので最低限の世話だけをしている。
 それが気に入らないと文句を言っても皆適当にあしらうだけだ。
 
 その内デミオンは侯爵夫妻の寝室に籠るようになった。
 使用人には相手にされず、「伯爵家の息子」と馬鹿にしていたロバートの顔色を窺わなければならないことが余程屈辱的なのだろう。
 食事を運んだ侍女によると、この数日はアンジュのドレスを抱き締め、泣いているらしい。
 
 処罰の日から5日が経っている。
 アンジュはまだ帰ってこない。
 アンジュに異常な愛情と執着を見せるデミオンだから、アンジュが戻ってくるまで変わらないだろう。

 まったく愚かしい。

 それがロバートの感想である。
 それでも邸の中を動きまわって余計な問題を起こされるのなら、寝室に籠っていてくれた方が面倒がなくて良い。
 デミオンのことはそのまま放っておくことにした。

「エミリーはどうしている?」

「ジョッシュ様と詫び状を書いておられます」

 ロバートにとってはこちらの方が予想外だった。

 エミリーはこの数日で随分変わった。
 日常生活でもマーサの言うことをよく聞いて、簡単な身支度なら1人でできるようになったらしい。
 
 花嫁の入れ替えは2人が仕出かしたことの結果である。
 だからロバートは初めから詫び状と招待状の手配を2人でするよう申し付けるつもりでいた。
 だけど正直なところ2人が素直に従うとは思っていなかったのだ。

 ジョッシュがどのような人物なのか、ロバートはあまり知らない。
 だけどエミリーとのことや、処罰の前に侯爵邸で会った時のことを考えると、浅はかで軽薄な人間だと思っていた。
 それにこれまでのエミリーは、素直にロバートの言うことを聞くような人間ではなかった。
 だから2人で対応するよう申し付けても癇癪を起すだけで何もしないと思っていた。

 この結婚は国王によってキャンベル侯爵家とカルヴィエ伯爵家の婚姻だと定められている。
 挙式に関する不手際は、そのままキャンベル侯爵家とカルヴィエ伯爵家の不手際となる。
 これ以上侯爵家の評価を下げるわけにはいかないので、2人が対応を拒否した後はロバートが手配をし、エミリーは結婚式の前日まで自室に閉じ込めておくつもりでいた。
 詫び状と招待状の手配はその為の口実でもあったのだ。
 
 それなのに2人はロバートの予測を裏切り、真面目に取り組んでいるという。
 
「それで、詫び状は間に合いそうなのか?」

「いえ、まったく」

「…そうだろうな」

 例えやる気になったとしても、エミリーが短期間であの膨大な数をこなせるとは思っていない。
 そもそもこういったことは1人や2人でするものではないのだ。
 
 ロバートはしばらく考えた。

 この家にいる者は皆、エミリーに良い感情を持っていない。
 それでも今はマーサと上手くやれているようだ。
 この分ならその内マーサが手を差し伸べるかもしれない。
 
「2人が真面目にやっていても間に合わなければ意味がない。もしマーサがエミリーに助言をするなら邪魔をしないよう皆に言い含めてくれ。その後の判断は各自に任せる。その結果、本当に間に合わないようなら、クレールの権限で手配してくれ」

「かしこまりました」

 ロバートの指示はクレールの予想範囲内だったのだろう。
 一礼すると静かに部屋を出て行った。
 


 1人になったロバートは、手元の書類へ視線を落とす。
 そこにはジェーンの庭園とあの家を維持するのに必要な経費が書かれていた。

 何度見返しても数字が変わることはない。
 今の侯爵家には大きすぎる出費だ。

 ロバートは大きく頭を振ると、未練を断ち切るように立ち上がった。
 
 あのエリアは切り捨てると決めていた。
 レオナルドへ伝えなければならない。
 


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