【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

文字の大きさ
333 / 697
番外編・処罰の後

16 処罰の後(10-①)

しおりを挟む
 マーサは机に向かうエミリーとジョッシュの傍に置かれたカップを入れ替え、新しい紅茶を注いだ。
 エミリーの面倒を見るよう言われているが、専属侍女になったわけではない。エミリーの傍にずっと付いているわけではなく、時々様子を見ては新しい紅茶を淹れるだけだ。
 2人はもう正式な婚約者なので、部屋に2人きりでいても大きな問題はない。
 
 2人は今日も詫び状と招待状を書いている。
 だけど進捗状況は芳しくない。
 エミリーはただ黙々と手を動かしているだけだが、ジョッシュには焦りが見える。貴族としての教育を受けているジョッシュは、詫び状を出すにも許される時期の限界があることを知っているのだ。

 そもそも花嫁の入れ替えが決まったのは挙式の3か月前である。ジェーンとの式やパーティーに出席予定だった人は既に準備を始めていただろう。
 祝いの品を取り寄せているし、式やパーティーで着るドレスを作らせている。遠方の領地に滞在している人は王都へ出てくる準備も必要だ。
 そんな人たちへ詫び状を出し、改めて式とパーティーへ招待するのだから、早ければ早い方が良い。

 マーサは内心溜息を吐いた。
 クレールに呼び出されたマーサは、マーサがエミリーへ助言することをロバートは許していると告げられた。
 侯爵家としての面目があるのでマーサが何もしなくてももう少しすればクレールが動く。

 エミリーへ助言するかどうかの判断を任せられたのは信頼されていると思えて嬉しい。
 だけど助言の内容はエミリーにとって辛いものとなる。
 
 ジェーンとジョッシュの結婚は侯爵家の惣領姫と次期当主の縁組だった。その為、膨大な数の招待状を出している。
 ジェーンに式の準備を任せきりだったジョッシュは、その招待状をジェーンが1人で準備したと思っているようだが、実際には複数の侍女やメイドが協力して一緒に作成したのだ。
 こんな大規模なパーティーの招待状を1人で手配するような者はいない。大勢の使用人をどのように使うのか、当主や夫人にはその手腕が求められるのだ。

 この邸にはジェーンの指示を聞くような使用人はいなかった。
 だけどそれは表向きのこと。陰ではジェーンの為に動く使用人が何人もいる。ジェーンはそれをよく把握していた。

 ジェーンは自分の為に動く者を選んで声を掛けた。
 声を掛けられた者は嫌そうな振りをしながら、その実喜んで協力していた。
 マーサも手分けして招待状を書いた使用人の1人だ。その時協力していた使用人が皆邸に残っている。
 
 エミリーが自分で手配をするなら、使用人に協力を頼むしかない。
 だけど以前のジェーンとは違って、この邸に残っているのは本当にエミリーを嫌っている者ばかりだ。
 エミリーの頼みを快く引き受ける者はいないので,引き受けてくれるまで頭を下げるしかない。
 嫌悪感を露わにする者たちへ頭を下げ続けるのは辛いことだ。

 エミリーが何もしなくてもその内クレールが動く。
 侯爵家として早急な手配が必要なことはわかっているので、クレールが指示をすれば皆従うだろう。
 だけどそれは仕上がらなかった仕事をエミリーから取り上げることになる。

 詫び状と招待状の作成はエミリーが初めて真剣に取り組んでいることだ。
 それを途中で取り上げられてしまっては、達成感を覚える前に挫折感を味わうことになる。
 
 エミリーにとってはどちらがより辛いだろうか。
 
 
しおりを挟む
感想 441

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

すれ違いのその先に

ごろごろみかん。
恋愛
転がり込んできた政略結婚ではあるが初恋の人と結婚することができたリーフェリアはとても幸せだった。 彼の、血を吐くような本音を聞くまでは。 ほかの女を愛しているーーーそれを聞いたリーフェリアは、彼のために身を引く決意をする。 *愛が重すぎるためそれを隠そうとする王太子と愛されていないと勘違いしてしまった王太子妃のお話

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...