【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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第2部 4章

20 旧友との再会④

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 その瞬間、レイヴンの顔が僅かに歪むのをアリシアは見逃さなかった。
 すぐに元の笑顔に戻ったけれど、マルセルが王宮で役職に就くのを望んでいないことは間違いない。

 アリシアは考える。
 マルセルのコリンズ伯爵家はルトビア公爵派に属していない。
 反公爵派というわけではないけれど、アダムが何か新しい法案を提案したり、法の改定を求めたりしても、必ず賛成するとは限らないのだ。

 レイヴンの側近はルトビア公爵派筆頭ともいえるレオナルド1人だけである。
 そこに公爵派ではない者が加わり、意見を交わしながら両側から支えてもらう方がバランスが良い。
 マルセルの能力が申し分ないことはレイヴンもアリシアも知っている。
 だけどレイヴンがマルセルを側近に取り立てることはないだろう。
 
 アリシアの過去の気持ちがマルセルの出世の道を閉ざしたのだと思うと。アリシアは申し訳ない気持ちになった。

 
 マルセルがまた綺麗な礼をして立ち去ると、レイヴンとアリシアの2人きりになった。

「マルセル殿とは偶然お会いしただけですわ」

 アリシアがそう言うと、レイヴンは「わかってるよ」と柔和な笑顔を見せる。
 だけどアリシアを引き寄せると、肩口に顔を埋めた。背中にまわされた腕に力が籠っている。

 ここは人目につく場所だ。今も人の視線を感じている。
 だけどアリシアは駄目とは言えなかった。

 しばらくそうした後、レイヴンは顔を上げた。
 腕の力を緩めてアリシアと視線を合わせる。

「アリシアから僕に知らせてくれて嬉しかったよ」

 そう言って軽く唇を合わせると、「ごめんね、汗臭かった?」と申し訳なさそうな顔を見せた。
 「そんなことありませんわ」とアリシアは笑顔で答える。

 アリシアが視察に同行すると決まってから、レイヴンが剣術の時間を増やしているとアリシアも知っていた。
 エレノアがレイヴンに知らせに行った時、レイヴンはちょうど剣の鍛錬をしていたのだ。

 元々週に数回、剣術の時間が公務の中に組み込まれていた。だけど習っていたのは王太子として、自分の身を守る為の剣である。
 騎士の様に大勢の敵を相手にして切り伏せる必要はない。助けが来るまで生き延びれば良いのだ。

 だけどアリシアが視察に同行することになった。
 アリシアに危害を加えさせるわけにはいかない。

 視察には大勢の騎士が同行するし、アリシアの護衛も特別に選んである。
 レイヴンが闘うことになるとすれば本当に末期である。
 だけどもしそうなったとしても最後の一兵まで斬り伏せてアリシアには近づかせない。
 レイヴンはそう心に誓っている。
 
 レイヴンはそれから、習う技を身を守る為のものから相手を攻める為のものに変えた。
 日にちが限られているので、身につける為には剣術の時間を増やすしかない。
 だけどアリシアとの時間を減らすつもりもない。

 だからレイヴンは、詰め込んだ執務を短くなった執務時間の内に片付けようと毎日必死で書類に向かっているのだった。
 
 
 レイヴンにエスコートされてアリシアは部屋へ戻る。
 アリシアを部屋まで送り届けると、レイヴンはもう一度軽く唇を合わせて執務室へ戻っていった。



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