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第2部 4章
22 出発①
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王領へ出発する日になった。
侍女たちが複数の馬車に別れて乗り込んでいく。
アリシアはレイヴンに手を取られて四頭立ての一際大きな馬車に乗り込んだ。
馬車は対面で4人乗れる作りになっていて、2人で乗るには十分な広さがある。
アリシアの後から乗り込んだレイヴンは躊躇うことなくアリシアの隣に座ると、腰につけていた剣を外して向かいの座席に置いた。非常事態が起こらなければこの剣の出番はない。
馬車止まりには見送りの使用人たちが並んでいた。先頭に立つのはケイトで、これからしばらくは彼女が王太子宮の責任者となる。
使用人たちに向けて、「馬車がそろそろ出発します」と告げる声が聞こえた。
聞き覚えのある子の声はルースのものだ。ルースは王室騎士団の一員で、以前孤児院へ同行した時にクッキーの毒見をしようとしてアリシアの怒りを買った男である。
あの後レイヴンはルースの言い分が正しいとしながらも、アリシアの怒りを買ったことを重視して配置転換しようとしていた。
王族の近くにいながら飾り物に近い近衛騎士団とは違って実践を担う王室騎士団は騎士の中で花形である。
失態を犯したわけではないルースを騎士団から除籍することはできないが、持ち場を人目につきにくい場所へ変えることはできる。
ただそれは騎士にとって降格と同じ意味を持ち、屈辱的なことだ。
「アリシアの目に入らない場所へ」
そう命令を下そうとするレイヴンを止めたのはアリシアだった。
ルースはアリシアの間違いを正してくれただけである。
間違いを正してくれる者は大切にしなければならない。
アリシアがそう言うと、レイヴンはその命をあっさりと引っ込めた。
アリシアが止めるのを待っていたのかもしれない。
ともかく、それ以来アリシアが慰問へ行く時はルースが護衛頭を務めるようになっていた。
因みにそれまでアリシアの護衛頭を務めていたマーフィーは、ルトビア公爵家に戻っている。
公爵家の護衛をアリシアがまだ使っていたのが間違いだったのだ。
今回の視察もアリシアの護衛頭を務めるのはルースである。
王領へ向かう隊列を守るのは王室騎士団ではない。王室騎士団の本来の任務は国王と王妃を守ることなので、王都を離れることができないのだ。
それでもアリシアの護衛を務めるのは信頼できる者が良い。
だからレイヴンから国王に申入れ、借り受けていた。
馬車がゆっくりと動き出す。
使用人たちは一斉に頭を下げて送り出した。
「いよいよだね」
「ええ、楽しみですわ」
馬車が走り出すと、レイヴンとアリシアは笑顔で言葉を交わす。
王宮の敷地を出ても、しばらくは貴族街や王都の街を走るので見慣れた景色が続く。
それでも周りを騎士で囲まれた馬車の列は珍しいので、街に出ると民衆が集まってくる。その集まった者たちに手を振るのがレイヴンとアリシアの最初の仕事だ。
街へ出るまではもう少し時間が掛かる。レイヴンは自然と向かいに置かれた剣の柄に視線を向けていた。柄には明るい黄色の房飾りがついている。
愛し気に目を細めて房飾りを見つめるレイヴンは無意識に手首の腕輪を撫でていた。その仕草が最近癖になっている。
日の当たる加減で金色に見える房飾りも、刺繍糸を編んで作った腕輪も、アリシアから贈られたものだ。
レイヴンの部屋に飾られた過去の贈り物を見て、アリシアが新しく作ったのである。
侍女たちが複数の馬車に別れて乗り込んでいく。
アリシアはレイヴンに手を取られて四頭立ての一際大きな馬車に乗り込んだ。
馬車は対面で4人乗れる作りになっていて、2人で乗るには十分な広さがある。
アリシアの後から乗り込んだレイヴンは躊躇うことなくアリシアの隣に座ると、腰につけていた剣を外して向かいの座席に置いた。非常事態が起こらなければこの剣の出番はない。
馬車止まりには見送りの使用人たちが並んでいた。先頭に立つのはケイトで、これからしばらくは彼女が王太子宮の責任者となる。
使用人たちに向けて、「馬車がそろそろ出発します」と告げる声が聞こえた。
聞き覚えのある子の声はルースのものだ。ルースは王室騎士団の一員で、以前孤児院へ同行した時にクッキーの毒見をしようとしてアリシアの怒りを買った男である。
あの後レイヴンはルースの言い分が正しいとしながらも、アリシアの怒りを買ったことを重視して配置転換しようとしていた。
王族の近くにいながら飾り物に近い近衛騎士団とは違って実践を担う王室騎士団は騎士の中で花形である。
失態を犯したわけではないルースを騎士団から除籍することはできないが、持ち場を人目につきにくい場所へ変えることはできる。
ただそれは騎士にとって降格と同じ意味を持ち、屈辱的なことだ。
「アリシアの目に入らない場所へ」
そう命令を下そうとするレイヴンを止めたのはアリシアだった。
ルースはアリシアの間違いを正してくれただけである。
間違いを正してくれる者は大切にしなければならない。
アリシアがそう言うと、レイヴンはその命をあっさりと引っ込めた。
アリシアが止めるのを待っていたのかもしれない。
ともかく、それ以来アリシアが慰問へ行く時はルースが護衛頭を務めるようになっていた。
因みにそれまでアリシアの護衛頭を務めていたマーフィーは、ルトビア公爵家に戻っている。
公爵家の護衛をアリシアがまだ使っていたのが間違いだったのだ。
今回の視察もアリシアの護衛頭を務めるのはルースである。
王領へ向かう隊列を守るのは王室騎士団ではない。王室騎士団の本来の任務は国王と王妃を守ることなので、王都を離れることができないのだ。
それでもアリシアの護衛を務めるのは信頼できる者が良い。
だからレイヴンから国王に申入れ、借り受けていた。
馬車がゆっくりと動き出す。
使用人たちは一斉に頭を下げて送り出した。
「いよいよだね」
「ええ、楽しみですわ」
馬車が走り出すと、レイヴンとアリシアは笑顔で言葉を交わす。
王宮の敷地を出ても、しばらくは貴族街や王都の街を走るので見慣れた景色が続く。
それでも周りを騎士で囲まれた馬車の列は珍しいので、街に出ると民衆が集まってくる。その集まった者たちに手を振るのがレイヴンとアリシアの最初の仕事だ。
街へ出るまではもう少し時間が掛かる。レイヴンは自然と向かいに置かれた剣の柄に視線を向けていた。柄には明るい黄色の房飾りがついている。
愛し気に目を細めて房飾りを見つめるレイヴンは無意識に手首の腕輪を撫でていた。その仕草が最近癖になっている。
日の当たる加減で金色に見える房飾りも、刺繍糸を編んで作った腕輪も、アリシアから贈られたものだ。
レイヴンの部屋に飾られた過去の贈り物を見て、アリシアが新しく作ったのである。
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