【本編完結】幸福のかたち【R18】

朱里 麗華(reika2854)

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第2部 4章

27 1日目の宿泊地①

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 馬車が1日目の宿に到着した。
 もう季節は初冬で、あまり遅い時間ではないが外はすっかり暗くなっている。レイヴンとアリシアも途中の休憩所からは馬車の中でも薄手の外套を纏っていた。

「ようこそ、お出でくださいました」

 2人が宿へ入ると玄関に並んだ者たちが一斉に頭を下げる。
 そこには宿の従業員だけではなく、ミケーレ伯爵の姿も見えた。ここはミケーレ伯爵家の領地なのだ。

「ありがとう。一晩世話になる」

「お疲れでしょう。すぐに部屋へ案内させます!」

 レイヴンは出迎えに笑顔で応える。
 従業員を押しのけるようにして傍に寄って来たのは、宿の主人ではなくミケーレ伯爵だった。
 伯爵はまるで自分が宿の主人のように振舞っている。だけど主人はちゃんと別にいるのだ。

「ミケーレ伯爵も、出迎えありがとう。だが、先に世話になる宿の主人へ挨拶をさせてくれないか」

「これは申し訳ありませんっ」

 レイヴンが笑顔で、だけどはっきりと「邪魔をするな」と伝えると、伯爵は慌てて道を空けた。
 端に寄って控えている主人の元へレイヴンとアリシアはゆっくりと向かう。
 2人が近づくと、初老の髭を蓄えた男性が恭しく頭を下げた。

「今回のことは急な変更もあって大変だったと思う。だけどこうして迎え入れてくれたことを感謝している」

「外は冷えましたから、中へ入ると暖かくてホッと致しました」

 秋から冬へ変わろうとしているこの時期、王宮でも日によっては暖炉に火を入れることがある。
 北へ向かっているので王領の城ではもう暖炉の火が欠かせないだろうが、ここはまだ王都とさほど変わらない。普段であればこの季節に玄関まで温める程の火は焚かないはずだ。
 だけど王太子夫妻を迎え入れるとなれば事情も変わる。惜しみなく薪木をくべ、火を入れられることも高級宿であることの証なのだ。

「お褒め頂き光栄でございます。どうか一晩、ごゆっくりとお過ごし下さいませ」

 挨拶を終えたレイヴンとアリシアが階段へ向かうと、ミケーレ伯爵が駆けつけて後ろに続く。何かと話し掛けてくる伯爵の言葉を聞き流しながら、2人は用意された客室へと向かった。

 客室は2人で1部屋を使うことにしている。
 宿自体を借り切っているので部屋は余っているけれど、別の部屋を使うのはレイヴンが嫌がったのだ。寝室は勿論2人で1つである。

「それではまた、夕食の席でお待ちしています」という伯爵の言葉を最後にバタンと扉が閉められると、レイヴンが大きく息を吐いた。

「初日から大歓迎だな」

「折角の機会ですもの、仕方ありませんわ」

 うんざりした顔のレイヴンにアリシアが笑って応える。
 宿に着いたらこうなるのはわかっていたことで、食事の席にはミケーレ伯爵の一族が顔を揃えているだろう。

 アダムのように王宮で役職に就いている者であれば国王やレイヴンとそれなりに顔を合わせることができる。だけどそうでない者は、舞踏会やサロンに招かれた時しか会うことができない。そして覚えのめでたくない貴族が舞踏会やサロンで個人的な話などできるはずがなく、自分や一族を売り込めないまま終わってしまう。
 そんな貴族たちにとって、こうしてレイヴンが領地に滞在するというのはまたとない機会なのだ。他の者に邪魔されることなく、存分に自分たちを売り込むことができる。

 これはミケーレ伯爵だけのことではない。
 これまでもそうであったし、明日から泊まる2つの宿でも繰り返されることだ。 
 
 視察の旅路はその宿も社交場として使われる。
 食事の席を思い浮かべたレイヴンは、そっと溜息を吐いた。



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