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第2部 4章
30 ミケーレ伯爵と娘たち①
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「どうして出てこないのよ?!」
ジュリアが苛立たしそうに声を上げた。
「本当に…。晩餐までもうあまり時間がないのに、どうしたのかしら」
一緒に座るナタリーも苛立ちを隠しきれずに顔を歪めている。
勝気で華やかな容姿のジュリアはミケーレ伯爵の娘である。
物静かで穏やかに見えるナタリーはミケーレ伯爵の姪にあたる。
ただナタリーがどれほど物静かで穏やかに見えたとしても、それは見た目だけのことで実際の性格はジュリアと大差ない。
それを3階の廊下を守る騎士たちは既に理解していた。
2人が座っているのは3階の廊下に続く階段の最上段である。
手すりに隠れるようにしてレイヴンとアリシアが使う部屋の扉を見据えている。2人が部屋へ入った時からこうしてレイヴンが出てくるのを待っているのだ。
2人の目的は明快で、レイヴンとお近づきになることである。
そんな2人を階段際に立つ騎士は呆れた顔で見ていた。
宿全体が貸し切りになっているが、その中でもレイヴンとアリシアが滞在する3階は特別に許可された者しか立ち入ることができない。
3階へ上がろうとして騎士に止められた2人は、しばらくの間文句を言っていたが、「王族の居留地に許可なく立ち入るのは叛逆罪になる」と言われて渋々諦めた。それでも立ち去ることはせずに、ここでこうして座り込んでいるのだ。
レイヴンが視察へ向かう途次の宿泊地に領内の宿が選ばれたと知った時、ミケーレ伯爵は飛び上がって喜んだ。
宿でレイヴンを持て成せば一晩独占することができる。
都合の良いことに伯爵には未婚の娘もいる。旅先では羽目を外す者も多いものだし、娘を傍に侍らせればレイヴンのお手がつくかもしれない。
勿論一夜限りの遊びとしてそのまま捨てられる可能性はある。だけど気に入られて側妃として迎え入れられるかもしれない。
そうすれば正妃との間に子がいない今、ジュリアが生んだ子が立太子することだってあり得るのだ。
ミケーレ伯爵はその甘美な夢に溺れた。
そしてジュリアが気に入られなかった時の為に、保険として違うタイプのナタリーを弟のところから呼び寄せたのだ。
ミケーレ伯爵の頭の中には、レイヴンの左右に侍るジュリアとナタリーの姿がはっきりと浮かんでいた。
ナタリーはいわば分家の娘である。
レイヴンがナタリーを気に入れば、伯爵家の養女にして輿入れさせれば良い。
だけどここで誤算が生じた。
出発まであと数か月というところまで来て、アリシアが視察に同行することになったのだ。
そうなると話は別である。
正妃であるアリシアの前で娘を侍らせることなどできない。何よりアリシアの後ろに控えるルトビア公爵家が怖い。
ミケーレ伯爵は元来気の小さい男である。
今回はたまたまレイヴンが領地に泊まるという幸運が舞い込んだのであわよくばと思っただけで、ルトビア公爵家と争ってまで娘を側妃にしようとは考えていない。
それでもまだ側妃の父となる夢を捨てきれずに予定通りナタリーを呼び寄せてみたけれど、こうなった以上は形式通りの晩餐を行い、その中でジュリアかナタリーが目に留まるのを祈るばかりである。
だけどジュリアとナタリーは違っていた。
2人とも流石にアリシアの前で大胆なことをするつもりはないが、ただ大人しくレイヴンの目に留まるのを待っているつもりもなかった。
要するにアリシアのいないところでお近づきになればいいのだ。
そう考えた2人は、こうしてレイヴンが出てくるのをずっと待っているのだった。
ジュリアが苛立たしそうに声を上げた。
「本当に…。晩餐までもうあまり時間がないのに、どうしたのかしら」
一緒に座るナタリーも苛立ちを隠しきれずに顔を歪めている。
勝気で華やかな容姿のジュリアはミケーレ伯爵の娘である。
物静かで穏やかに見えるナタリーはミケーレ伯爵の姪にあたる。
ただナタリーがどれほど物静かで穏やかに見えたとしても、それは見た目だけのことで実際の性格はジュリアと大差ない。
それを3階の廊下を守る騎士たちは既に理解していた。
2人が座っているのは3階の廊下に続く階段の最上段である。
手すりに隠れるようにしてレイヴンとアリシアが使う部屋の扉を見据えている。2人が部屋へ入った時からこうしてレイヴンが出てくるのを待っているのだ。
2人の目的は明快で、レイヴンとお近づきになることである。
そんな2人を階段際に立つ騎士は呆れた顔で見ていた。
宿全体が貸し切りになっているが、その中でもレイヴンとアリシアが滞在する3階は特別に許可された者しか立ち入ることができない。
3階へ上がろうとして騎士に止められた2人は、しばらくの間文句を言っていたが、「王族の居留地に許可なく立ち入るのは叛逆罪になる」と言われて渋々諦めた。それでも立ち去ることはせずに、ここでこうして座り込んでいるのだ。
レイヴンが視察へ向かう途次の宿泊地に領内の宿が選ばれたと知った時、ミケーレ伯爵は飛び上がって喜んだ。
宿でレイヴンを持て成せば一晩独占することができる。
都合の良いことに伯爵には未婚の娘もいる。旅先では羽目を外す者も多いものだし、娘を傍に侍らせればレイヴンのお手がつくかもしれない。
勿論一夜限りの遊びとしてそのまま捨てられる可能性はある。だけど気に入られて側妃として迎え入れられるかもしれない。
そうすれば正妃との間に子がいない今、ジュリアが生んだ子が立太子することだってあり得るのだ。
ミケーレ伯爵はその甘美な夢に溺れた。
そしてジュリアが気に入られなかった時の為に、保険として違うタイプのナタリーを弟のところから呼び寄せたのだ。
ミケーレ伯爵の頭の中には、レイヴンの左右に侍るジュリアとナタリーの姿がはっきりと浮かんでいた。
ナタリーはいわば分家の娘である。
レイヴンがナタリーを気に入れば、伯爵家の養女にして輿入れさせれば良い。
だけどここで誤算が生じた。
出発まであと数か月というところまで来て、アリシアが視察に同行することになったのだ。
そうなると話は別である。
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ミケーレ伯爵は元来気の小さい男である。
今回はたまたまレイヴンが領地に泊まるという幸運が舞い込んだのであわよくばと思っただけで、ルトビア公爵家と争ってまで娘を側妃にしようとは考えていない。
それでもまだ側妃の父となる夢を捨てきれずに予定通りナタリーを呼び寄せてみたけれど、こうなった以上は形式通りの晩餐を行い、その中でジュリアかナタリーが目に留まるのを祈るばかりである。
だけどジュリアとナタリーは違っていた。
2人とも流石にアリシアの前で大胆なことをするつもりはないが、ただ大人しくレイヴンの目に留まるのを待っているつもりもなかった。
要するにアリシアのいないところでお近づきになればいいのだ。
そう考えた2人は、こうしてレイヴンが出てくるのをずっと待っているのだった。
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